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「碧」14歳。さきほど65歳の老婆に転生しました!  作者: 北佳凡人


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スチュワードプラン その6



「おい大丈夫か?」

「ゆっくりと寝かせろ、息してるよな?」


 その声によって、王都の使者たちが消えた驚きでぽかんとしていた騎士たちが我にかえる。


 声の主はレサルテだ。ドワーフさんたちは、下働きを追っ払ってツィンラムさんを助けていたのだ。私は、ほっと安堵の息をはいた。

 さるぐつわをはずされた女性は、不安そうにあたりをうかがってるが、生きててよかった。拘束されたいたせいで体の動きはぎこちないけど、怪我をしてる感じじゃない。髪の色と小柄な体、そして老婆。たしかに(エリザ)に良く似てる。65歳のエリザバトラーに。


「きさまに、きさま、それに貴様、お前たち何のつもりだ! どのような思惑で我が領を災難に貶めて──」


 ヒステリックにわめき散らすのはウィロアムだ。私、バーリィ・スキレード、それに家令だったか。頭に血が上った不健康な顔色で湯気を立て、3人を変わりばんこに指差し、地団太を踏んでる。名前を呼ぶのさえ嫌なのかも。


「やることやったら、聞きますよ」


 スキレードは、すぐけが人を治療しろと、元気な部下に医者を呼びにいかせ、自らは倒れた仲間を助け起こす。家令は、証拠になりそうな物と証人を集めなさいと、控えていたお庭番に指示をだしながら、ざわつく群集の何人かを指差す。

 長男にトラウマのあるレベッカは、気丈にも私の前に立ちふさがった。護衛のつもりだろう。ありがとう。


 私はレベッカを後ろに従えて人を避けながら踏み出した。乾いた血のりと何かの肉片に足の指を縮ませながら、ドワーフに守られたツィンラムさんに寄っていくと、直ちに神気搾奪(エクシーズ)逆流(アドバー)をかけた。疲労が色が濃い。怪我してないようだけど回復には役立つはず。ぽわんと一瞬、金色の光に包まれると、恐怖に縛られたこわばりが融けていくようにみえた。唇が「あかねちゃん」と動く。私がうなずくと、それで安心したのかまぶたをとじ、しばらくして穏やかに寝息をたてはじめた。


 吊られて私も眠くなってきた。神気搾奪(エクシーズ)を使うといつもこう。レベッカやチャーリーしかいなかったらきっと寝てた。けど、いまはがまん。やることがまだ山ほどある。


「ミドリぃ、ヴァイヤーさまがぁ」


 睨殺げいさつのヴァイヤーことヨーハン・ヴァイヤーに寄り添うチャーリーが、お嬢様らしからぬ騒ぎっぷりで呼びかけてきた。「ヴァイヤーさまにベタベタして、あの女なに様のつもり」って怒り声がちらほら聞こえる。ツィンラムさんをレサルテたちにお願いした私は、視界の隅でくどくど言ってる長男を黙殺して、涙のヒロインチャーリーの傍へ。


 チャーリーの腕の中でぜいぜいするヨーハンの傷は深かった。衣服とようより破れた生地をまとった上半身は、胸といわず腕や顔から赤い肉がはみし、頭の耳が片方なかった。止まってる血が全身にどす黒くこびりつく。執拗な鞭を浴びせらた怪我が目を覆いたくなるほど無残なのだ。感染症の概念はあるのかな。医療のレベルは不明だけど、傷がふさがったとしても、破傷風で死ぬ危険がある。


「私の身代わりにされたツィンラムさんの恩人だからね。チャーリー、そこどいて」


 大急ぎでチャーリーと場所を代わると、ヨーハンにそっと触れる。


「おい何をしておるのだ、医者でもない貴様がヨーハンに触るな!」

「騒ぐだけでなく行動しなよ」


 きっと睨んだら、口をパクパクさせて静かになった。母上認定は解除してもエリザ容姿の恫喝には弱いらしい。


 男の全身に意識を集中させ神気搾奪(エクシーズ)逆流(アドバー)発動する。体中の力が薄くかき集められ手のひらから暖かい物が放出しているのを感じる。魔素(マナ)がなくなるダルさと引き換えに、金色の光に包まれたヨーハンの傷はみるみる塞がっていった。むき出しの肉が盛り上がり皮膚が覆う。男らしい筋肉質の肌が艶を取り戻していく。耳が再生し、かさぶたがそよ風でぱらぱら落ち、逆流(アドバー)は終了した。


 チャーリーが口元を押さえて驚くので、その反応のほうに私はびっくりする。


「なんで驚いてるの?」

「なんでって。瀕死だった怪我人の傷が数秒でふさがれば驚くのが当たり前でしょう」

「いまさらー?チャーリーも治したよね」

「そうなのだけども。あの時は少し朦朧としていたし、わたしでない誰かの怪我がこうして治るのを目の当たりにすると新鮮な驚きがあるのよ。────ヴァイヤーさまが動いた。お目覚めですかヴァイヤーさま? お気をたしかにっ」

「なんと申した、カスティリオーネ。ぬをっ? ヨーハン、ヨーハン!」


 立とうとすると、いつの間にか痺れてた足がもたついて転びかけた。レベッカに支えられ、よっこいしょと、立ち上がる。


「48歳です。みどりちゃん」

「ん。今までで一番若いねっ」


 そんな若いのにふらついたのは、急激な逆流(アドバー)のせいかな。椅子に座る生活で正座文化がないから、しゃがむ身体になってないのかも。身体は軽い。腕をぐるぐるしたら、肩がぽきぽき鳴った。


 騎士たちが、動揺激しい群集の解散に追われてる。聞きたそうな市民に「領主さまより説明があるだろうと」困った顔で説明。力ずくで追い返さないのは、騎士団の方針だろうか。威張りくさった貴族を思い描いてたのでちょっと意外だ。指揮のもと統率のとれた自警団が動く。市民らが納得してないのは明らかだが、騎士の言葉にしぶしぶうなずき、解散していく。


「ヨーハン……。信じられぬ。あれだけの大怪我が、きれいに回復いておるとは」


 気を失ってるが呼吸が穏やかになったヨーハンを、長男が静かに見つめる。私がいることで一定距離で踏みとどまり近寄ってはこないが、心の底から安堵してるのがみてとれた。ほかの人たちも、奇跡をみたように唖然とてから、はっきりと喜んでる。目に涙を浮かべて人もいた。チャーリーといい、ずいぶんと慕われてる騎士さんだ。この町のアイドルかと、整った顔に関心を寄せてると、ヨーハンがうーんと目を開けた。


「わたしはどうして……あ、老婦人はどうなった」


 がばりと起きて周囲を見回した視線が私とぶつかった。きれいな真っ直ぐな瞳をしてる。自分の身よりも、不幸に扱われたツィンラムさんのことを心配する正義感。それでいて、騎士のトップ団長ときたもんだ。もてるはずだね。せっかく目が覚めたんだ。すぐ隣の、この人を慕ってるチャーリーにとって絶好のチャンス。偶然だけど、出会いの場を取り持ったんじゃないかな。


 いけっ、チャーリー!


「………………ぽふん」


 がんばれって、励まそうとしたけどすぐ言うだけ無駄とわかった。顔色が無い。真っ赤を通り越して、体内の水分が水蒸気になってしまっていた。汗もだらだら、で数分で干からびてしまうじゃないと心配だ。意識もとんでしまって焦点がどこにも合ってない。口うるさいこの子をここまでポンコツに落とすとは、恐るべしヨーハン。

 チャーリー、カンバーック! 戻ってこーい。



「使者に喧嘩を売るとは。ずいぶんと勝手なことをしてくれたな」


 語りかけてくる人物を、私は仰いだ。完全には事態を飲み込めてないヨーハンを挟んだ向こう側、私を睨んでいたのは長男の人ウィロアムだった。ついいましがたまで、わめきちらす醜態をみせた人とは別人のように、静かな威厳をかもしだしてる。これが本当の顔か。エリザの威圧を苦しい顔で突破してきた。無視もここまでか、相手しなきゃいけないみたい。私は、領地の責任者に久しぶりに相対した。


「勝手したけど、どうするの? 懲りずに私を暗殺する?」


 辺りの音が静まり返り事後処理の喧騒がしなくなった。誰もが私たちを伺っている空気を、ぴりりと感じた。”陽気なバカ”バーリィ・スキレードが剣を仕舞うのがちらりと見えた。


 私はウィロアム・トルメン・ウィドネスの次の言葉を待った。言いよどんでいるらしく、睨むだけで何も言って来ないがそれでも待つ。市民はすべて解散し、公園にあるのは私たちとだけ。青空に雲がひとつ現れ風に流されていった。はぐれ雲というやつか。言うべきことがまとまったウィロアムがようやく口を開いた。


「現国王は、猜疑心のとても強いお方である。疑わしきは滅する。それが座右の銘だそうだ。私は、セイラム村が滅せられるのを目の当たりにした。ドワーフの村も壊滅している。あのような悲劇を不幸な災いを、この領地に及ぼすまいと、長い間駈けずりまわっていたのだ。女に目が無い役に立たない父上や、老いて当り散らす母上の変わりになってな。それを貴様は、貴様らは、よってたかってムダにしおった」


 レベッカ、ドワーフたち、私、それにスキレードを順番に見回しながら、ウィロアムが静かな怒りを吐いていく。大きくぶち壊したのは私だって自覚はある。でも領主代行には全員の共同作業と映ったみたいだ。そして、最大級に憎憎しい視線を浴びせたのは、私──ではなく、家令だった。


「セバスよ。貴様、いったい何を企んでおる」


 取り逃がしましたという、お庭番の報告をしゃがみこんで受けた家令が、背中を向けた姿勢まま、首だけ振り向いた。


「喜んでくださいますよね。私の(スチュワード)計画(プラン)が成功したのですから」



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