動け動け
短いですが、昨日につづいての投稿です。
ゴンプームは強い。強くてしつこい。
そんな敵なので、私は押されていた。それもわりと一方的にだ。
神気搾奪は、一度にひとつのモードしか使えないんだよね。併用ができないのがとっても不便だ。
フラットレンジモードにしたら、空気感染が消えてちゃったし。残留してくれたらいいのに。けちっぽい。
ヤツは速い。
御庭番という職業がらか、獣人の身体能力が優れているのか。足場が悪い天井をとにかく動き回る、低い梁に逆さつりになったかと思えば、高い縁とかの数センチの出っ張りに手足の指をかけて、貼りつく。
私は神気搾奪を最大射程の8メートルに設定。そんで、部屋をいったりきたり追いすがるんだけど、捕まらない。ひらりひらりと、隙間を縫って、範囲外へと身をずらして、反対がわへ逃げていく。
射程っていうのは半径のこと。歩数から計算してこの部屋の大きさは10メートル四方。だからほとんど、部屋の8割くらいは、私で埋めつくしてるようなもの。だけども捕まらない。まったく。いらいらするくらい捕まってくれないから、子供の頃を思い出した。虫取り網をふりまわしてチョウチョを捕まえようとしたことを。
チョウチョなら、逃げてくだけ。でもヤツはする抜けるタイミングで、黒い攻撃をしかけてくる。防ぐ盾なんてとっくに壊れてソファの後ろ。がんばって避けてるけど、避け切れない。これ、絶対、受けるほうが多いよ。
「痛いって!」
黒い攻撃が私の肩をかすった。また出血が増えたよ。
つぎつぎに増えていく怪我。やっと一個治ったところだったのに。
「ふぅ、ちと外れた。思うように手が振れんわ。この場所は狭くて動きづらいの」
「なら、ここまで降りてくれば? 下界は天国だよ」
「そうさせてもらうかの。ミドリの嬢ちゃんの屍を拝みに、のっ」
角っこから隅っこへ。
そんな追いかけっこが、果てしなく続く。
疲れてきたよ。だいぶ削られたよ。
パトラッシュ、ぼくはもう眠いんだ…………いかんいかん、寝ちゃだめだよネロ。ルーベンスの3枚の絵をみるまでは、冬山睡眠は冬眠永眠だ。届け神気搾奪、届けフラットレンジモード。助けてオビワンケノービ。
なにをいってんだか、妄想ピークもここに極まり。
とにかく、がんばれ私。ヤツだって、完全には見切れてないんだ。
詰めれば終わる。終わるんだ。王手飛車取り。ちはをとってクィーンになるんだ。
「ミドリお嬢はトロイのぉ。若かりしころのお嬢なら……おっと!」
ひとつわかったこと。
それは、獣人の話を聞かないことだ。いちいち話しが長いなぁと思っていたが、あれは、息を整えていたんだと気がついた。あいつだって、老齢。エリザに付き従った前線の忍びかもしれないけど、年にはかてない。つかの間の疲労を抜くために、おしゃべりで時間稼ぎしてたんだ。
14歳じゃ思いつかないことでも、65歳の身体が教えてくれる。
獣人が動いた。ベッドとは対角に移動。
ついでとばかりに、黒い攻撃を投げかけて。
「いて。動くな、このー」
「そうはいきませんの、ふぉっふぉっ。ふっふっ……よっと、の」
ゴンブームを休ませないこと。息が切れてきてるのが、わかる。
敵の力を奪うのが速いか、こちらの年齢ダメージが65歳に達するのが早いか。
終わりはみえないけど、終着点のある、命の削りあいを積み上げる。
とにかく動いて、動いて、動いて、動く。
それが、いまできる私の戦術だ。




