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「碧」14歳。さきほど65歳の老婆に転生しました!  作者: 北佳凡人


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チャーリー父の話


 翌朝。

 ぐっすり寝た私たちは、朝風呂を浴びて、遅めの朝食を摂ってる。

 22時から2時のゴールデンタイム説は都市伝説っていう人がいるけど、夜、10時に寝るのと、12時に寝るのとでは、起きたときの爽快感が違う。睡眠時間がどっちも8時間だとしても、身体の調子が違うんだ。トイレもすっきり。朝食に並んだパンとミルクがおいしい。


「ふぅ。熟睡は大事だね。お肌のハリも違う。ぷるんぷるん、してるよ」

「日が高くなって起きるなんて、どういう生活をしていたのです?」


 最後に起きたのが私だ。

 すでに身支度を済ませたレベッカに、揺すられて目を覚ましたんだ。

 ドレッシングの効いた野菜のかけらを飲み込んだ。


「え? 目覚まし時計で起きるだけだから、冬は暗くても起きるよ」

「ミドリちゃんの家からは、教会の大時計が見えたんでしょうか。目覚まし時計ってなんですか?」

「枕元においとくんだ。時間になると音楽が鳴って、それで目が覚めるの」

「枕元に時計が? とてつもなく大きな部屋に住んでいたのですね」

「そうじゃないんだけど……」


 時計は大きなものだっていう概念が強いみたい。百円しない使い捨て時計があるっていっても信じてもらえないだろうな。いまどきはスマホで時間確認が定番だから、腕時計ビジネスマンも絶滅危惧種。時計があるくらいだから、この世界の一日は均一に刻まれてるに違いない。暦のほうはどうなってんだろ。月はひとつだった。日中の長さも、そんなに違わないようだ。星は丸いとか言うと、いらない混乱を招くかな。


 侍女が、食べ終わったお皿を下げにきた。


「お食事はおすみでしょうか。よろしければ、旦那様がお待ちかねですが」

「旦那さまって誰? 私に何の用かな?」

「ミドリちゃん、夕べ追い返したこと、もう忘れたのですか?」

「そうだっけ? ここがチャーリー本家ってことは覚えてるんだけど」


 物覚えはいまだに悪い。肌の若さと脳内細胞は別ということだろうか。


「わかった。レサルテ、アクスーワ、アムブロはどうするの。もう出発したい?」

「いんや、付き合わせてもらうわ。エリザ様の動きによっては、身の振り方を考えねばならんし」


 レサルテは腕組みして言った。

 どういう意味だ。


「私の動き?」

「あんたさん。自分の影響力ってやつをちっともわかってねぇみたいだな。ま、話しってのに立ち合わせてもらう」





 私たちは、ゲストハウスの別室”談話室”とやらに集められた。待っていたのは、チャーリー父と、チャーリー本人。ほかの家族はみえない。あの後、漏らしたお兄さんはどうなったのか。頑張って生きていってほしい。対面のソファに座る。レベッカと3ドワーフは遠慮して立ったままだ。


「やれやれ、やっとこられたか。重要な事柄だから、夕べのうちに伝えておきたかったのですが」


 父は疲れた顔でそう言った。髪の毛がボサボサ。寝てないのかもしれない。

 夕べと違って、話しぶりは落ち着いていた。


「今のこの状況は特殊です。形式的にというか外聞上、わたしたち一家は人質という立場にあることとなっております」

「人質? 誰か、身代金要求して立てこもってるの?」

「要求はありませんが、立て篭もっているのはエリザバトラー様。あなたです」

「は……ええ!?」


 頭痛がした。

 私がここにいるのは、昨日、御庭番に用を頼んだ時点でバレバレ。屋敷が行動を起こさないはずがない。だけど人質ってなんのこと。意味がわかんない。降りかかる火の粉を追い払った覚えは、たっぷりあるけど、いつのまにか私、人質を捕ってたの。物忘れもなはだしいって。


「はぁ。なにをあわててるのよ。ミドリ」

「いやだって、人質って……」

「あくまでも、形式上のことなのなの。誰もあなたが立てこもったなんて思ってないわ」


 形式?


「カスティの言うとおり。貴族には面子がありますからな。居場所が公になってしまったあなたの行動を放っておけば、辺境伯といえど、配下からの突き上げや王家からのお咎めが避けられません。ですが、有力商人がまるごと人質にとられたとなれば救出を検討してると言い逃れができます。面目が立ち、手出ししないことが正当化されます」


 よかった。

 なんかよくわからないけど、政治的な駆け引きっぽい。

 レサルテさんがしきりに頷いてる。影響ってこういうことか。


「お父様に感謝なさい、夕べはぐっすり眠れたのでしょう。攻撃や救出騒動があったとしたら、こうはいかなかったでしょうね」


 うん。ありがとう。

 確かによくねむれた。

 頭を下げたら、チャーリー父がひるんだ。


「そ、それでここからが本題です。じつは、昨日の早いうちに城の若旦那さまより文が届けられていたのです。大奥様に首尾よく接触できたなら、伝えてもらいたいと」

「へぇそうだったんだ」


 手紙を広げる父。手回しのよいことだ。

 エリザの日記はどうなった。

 屋敷から誰か運んできてくれてるよね。


「まず”読めない本”とやらについての断りがあります。”クリアが解読するから、ここには持ってこない”そうです」

「そうきたかー!」

「黙ってお父様の話をききなさい!」



 チャーリー父は、テーブルにおいてある箱を開けた。何かと見てると中には葉巻。客用みたいだ。一本取り出してくわえると、傍らに控えていた老侍女が、魔法を唱えて火をつけた。ふぅーと一服した煙と香りが部屋を満たす。思いのほか煙くない。


「実際に貴方が現れたこと、そして、じつは別人であったというカスティの証言によって急遽、ストーリーをでっち上げることとなりました」


 一息吸って満足したのか葉巻の火をもみ消すチャーリー父。咳払いをひとつすると、もったいぶったように、あらためて話しを開始する。


「えー。我がアイル商会は、去る150年前ムゲノ王朝時代において、曽祖父が立ち上げたものです」


 なんで150年前かな。

 こ、これは長くなるぞ。

 校長の「新入生のみなさんーー」がフラッシュバックした。

 失神者12名をたたき出した伝説級の長話だ。


 そして本当に、期待を裏切ることなく、長々ととりとめない話がだらだらと、延々と、永遠とも思える時間が流れていく。普通、面白くてためになるずの、代々サクセスストーリーがつまらない。一般論にしか聞こえない。説得力のない言葉を連ねる感性がむごい。そんなんで、よく商人やれてるなあ。

 断言してもいいけど、長男(ウィロアム)は絶対、この家のことをしたためてない。長い、要領を得ない、眠くなる、の3拍子が出揃った完璧な布陣。ようやくまともになってきたとチャーリーの喋り。あの原型がここにあった。


「お父様、いつもながら素敵なご講和ですわ。町の動乱で一文無しになった初代の快進撃に心癒されました」

「カスティ。うむ」

「やっと終わった……」


 苦労譚とエリザへの恨みつらみを省けば、伝言は短かった。


 いわく。


『身代わりを立てるから、国王の使者が去るまでは、身を隠して動かないでほしい。その後は、他国へ出国すること』


 1分もかからないセンテンスに32分と18秒かける手腕。四音を1秒で語るアナウンサーなら、13.75秒で終わらせる短文なのに。レベッカとドワーフ三人を夢の中に押し込んだチャーリー父。そうか、こうやって相手を夢遊状態にさせ、商談を成立させたののか。無料パンでおびき寄せた年寄りに、高額電子治療器を売りつける商法か。


 重要ワードを繋ぎ合わせる労力は、ヒントのないクロスワード似ている。

 スマホのクソゲーを攻略するより疲れた。

 痺れて麻痺した老化脳みそを絞って、伝言の真意を考える。


「身代わりって?」


 嫌なトーンだ。良くないことを暗示してるニュアンスがある。


「言葉の通りです。国王さまが、エリザバトラーに謀反の疑いを抱いてる件は聞いてます。しかし、かの地よりの使者にエリザバトラーと面識があるものは少数。ならば、事は単純です。年恰好の似た者を引き渡せば、納得して引き下がるかと。ウィロアム様はそのようにお考えになりました。わたしどもの屋敷から人質を救出、下手人エリザバトラーを捕縛する。そのような筋書きです」


 なるほど。ストーリーってそういうことか。

 それはわかったが、納得はできない。


「代理人? 私エリザの? 誰かが犠牲になるってこと?」

「心配は無用。渡すのは遺体だとのこと。たまたま近隣で亡くなった老婆の死骸をあなたの身代わりにする。つまり処刑を終えたという証拠を見せるわけです」


 遺体。エリザの遺体。荒っぽい代替え処置だ。

 どこの誰だか不幸な人がいて、その亡骸を使うわけだね。現代なら、それだけで犯罪になりそう。気分が悪い。はきそうなくらい悪い。けど、エンドレスな襲撃がエンドしてくれるなら、悪いことじゃないのかも。


 でもこれは、ウィロアムの作戦、私を抹殺しようとした首謀者の言だ。どのへんかに裏が隠されてるかもしれない。あの頭のいいクリアも一枚以上かんでるだろうし。


 でもなあ、過去にこだわるのも、どうだろ。じゃなきゃ、ふたりとこうはなってない。後ろからレベッカの息遣いが聞こえる。チャーリーの目が私を捉えて離さない。


 思考が二転三転。

 ああもう!

 受け入れればいいのか、反対すればいいのか。

 いったい、私はどうしたいの。


「むむむ……」


 こう考えてみてはどうだろう。

 夕べのうちに、私が死んでいたなら、身代わりはいらなかった……と。

 つまり作戦は二段構えだった……と。


「本日の9時、広場で引き渡しがあるそうです。数日はここでゆるりと、今後のことでもお考えなさりませ」

「9時って。今は何時?」

「8時と30分を回ってくらいですね」

「なんで、そんな大事なこと。夕べのうちに」

「眠いといって断られましたが?」

「そんなこと言った?」


 物思えがいい人物に確認をとろう。

 レベッカがこくこくうなずいてる。

 言ったらしいです。


「ゆるりと、今後のことでもお考えなさりませ」


 父は、ぎろりと、念押ししてきた。私と眼を合わせるのをあんなに嫌ってた人物とは思えない目力。手紙には、”出すな”と書いてあるんだろう。私がしゃしゃり出ると困るだろうね。時間も差し迫ってる。つまり、二段構え以上の策謀はありえない。


「わかったよ。でも外に出られないのは退屈。暇つぶししたいから、武術の強い人を揃えておいて」

「武術のお相手……ですと? 騎士を倒すお方の相手となると……”豪腕スキレード”か”睨殺(げいさつ)のヴァイヤー”くらいしか」


 どうしたんだか、チャーリーの目が泳いだ。


「スキレードってのは、どっかで聞いたことあるような」


 レベッカにふった。


「屋敷の窓を壊したときのお相手です、ミドリちゃん。優雅に空を散歩されたときのことを覚えてませんか。あれ以来見かけませんけど。どうなさったのです?」


 思い出した。”陽気なバカ”か。

 優雅か。ひどい怪我をさせられたんだけど。


「倒した……かもしれない、かな。どたばたしてたから、はっきりしない。倒したということして”バカ”はいらない。睨殺(げいさつ)のヴァイヤさんがいいね。睨んで殺すなんて強そうだし。それでよろしく!」

「うう。さすがに騎士団長というのは…………。”豪腕”なら金で動くこともあるんだが……むむ。いや、わかりました。努力だけはしてみましょう。ただし、叶わないときには、冒険者ギルドの上位ランカーにも声がけします。それで、ご了承いただけるのであれば」

「いいよ。でもなるべく睨殺(げいさつ)さんで」


 ひきつるチャーリー父。

 たっぷり時間かけていいよ。

 家中人と伝手とコネを最大限を使って、一生懸命がんばってね。




 さぁて。

 どうやって、とんずらしようか。


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