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魔法かっ!



 侍女は、震える手で私を指差した。私というか、私の手をだ。

 その手には手の形をした灰が握られていた。あの男の手だったものだ。



 手が手が手が……って「手」だらけで紛らわしい!




「あ、あわわわ……」

「そっちへ行くってくださいっ」

「侍女でしょ!これ取るの手伝いなよ」

「触りたくもありませんっ」


 侍女も慌てふためいてる。

 手だった物の成れの果て。気っ色わるいことこの上ない。

 ひき離したくて、ぶんぶん腕をふりまわす。

 腕は動く。けども指が開くことを拒否。

 ちょっとも離してくれない。


 よけいな握力発揮すんなよ、体力ないくせに。

 っつか、硬直してんのか?


 結局、腕を振り回したことは意味が無かった。

 灰みたいな手は、マジに灰になってさらさら崩れたからだ。

 チリになってしまった。


「……」

「……」


 冷たい床の上。

 砂時計の砂みたいな三角の小山が完成した。

 ふっと吹けば飛びちりそう。やらないけど。

 息して吸ったら、肺から害が回りそうだし。


「気分が悪くなった。部屋を用意して」

「奥様のご寝所はここにございますが」

「あのね。あんなとこに戻りたいと思う? 部屋くらいどこかあるでしょう?こんだけ広い屋敷なんだから」

「ですが、家令さまにお伺いをたてないと」

「侍女は、奥様の命令を聞くものよね?」

「それも、家令さまにお尋ねしてみなければ……」


「ああ、もう!」


 ぐだぐだって、逆らってばかり。なんだよこいつ。


「私、奥方様なんだよね!」

「お許しを、お許しを……」


 手を合わせて懇願する。

 縮こまって小刻みに肩を震わせてる。

 まるで、いじめてるみたいじゃないの。

 この私が。

 

「顔、あげなさい。もういいから」


 私はイジメが嫌いだ。

 見るのもいやだし、するのも嫌。

 その気がなくても、この子が恐がっているのなら、

 きっとこれはイジメなんだろう。


 侍女が顔を上げた。

 私を見て。この目を見て、これ以上何もする気がないことをわかったようだ。

 キッと結ばれた口元がほぐれ、八の字の眉毛が下がった。


「その家令ってのに……」

「――――お許しを……奥方様」


 侍女は目を伏せた。声も低くなった。

 ブツブツと何かつぶや始める。

 祈りのような、お経のような。私、っまだ生きてるんだけど?


 南無阿弥陀仏でも、南無釈迦無二物でも、世尊妙相具我今重問彼 でもない。

 あ、中世ヨーロッパっぽいからキリスト教か。

 かなり陰々滅々、陰気くさいなぁ。

 でも別の言い方をすれば、呪文のような……呪文?……魔法!!?


「……アイス…ナイフ」


 野球ピッチャーの投球モーション。

 振りかぶった右手には、きらりと輝く尖った氷だ。


 この子、私を殺そうとしてるのか!?

 油断した。狙われフラグは消滅してなかったらしい。

 ぐぞう。


 氷のナイフが、私の腹に突き刺さる。

 ヴッ…………。


 痛くなはい。衝撃が走っただけだ。いまはまだ。

 やりやがったなムスメよ。しかし攻撃は終わりだ。

 君の身体は懐にある。正面にある頭は、こちらの守備範囲だぜ。


 動け私の手!


 いちいち動かそうと考えねば起動してくれないもどかしさよ。

 お年寄りは大切にしようぜ。

 高齢化で見渡す限り高齢者だとしてもだ。

 ばあちゃん。ここまておいでって、にげてからかってゴメンよー。


 今度は、わりと早く起動してくれた。

 よし、反撃だ!


 ぐりぐりグリり。


「うがっ」


 侍女が痛みでもだえる。

 次の手を撃てないほど効いてるみたいだ。

 いけるっ


 ぐりぐりぐりぐりぐりぐり。


「むがが…」


 ぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐり。


「むぎ、ぎ、ぐ……」


 ガクガクと、侍女のチカラが抜けて、倒れ込んでしまった。

 みたか、必殺コメカミ殺し。

 侍女は、それきり動かなくなった。

 あれ?ダメージ深すぎないか?


「どした?」


 私、なんもしてないよ。

 ぐりぐりしただけで、それだけだよ。

 軽微な抵抗だし、これって正当防衛だよね。


「くっ……」


 あ、息してる。よかったぁ――――。

 異世界転生。初日っから人殺しなんて、ゲン悪いからね。


「私を狙ったのも、家令さまのいいつけ?」

「……」


 言うはずないか。

 侍女は命令に従うもんだし。

 黒幕のヒントくらい知りたかったなあ。


「あなたが、なんでここにいるか知らないけどね。自分をもってないと犬死するよ。きっとその魔法も、言われるままに身につけたんでしょ?」

「ちがう……これは、私が私である証です!」


 おー。えらい。

 主体性ないと、つけ込まれるからね。


「ふん、ちゃんと言えるんでしょ。適当な部屋にいるからって、その家令さんって人に言っといて。あと、お腹すいたから食べ物も。毒の入ってないやつね」


 長セリフを吐いて、すくっと立ち上がった私。お腹がズキズキする。

 出血してるような濡れた感触を手の甲に感じた。

 見ないぞ。見たらショックで倒れてしまう。


 お腹じゃなくて、遠巻きにしてる家族とやらの方を見た。

 11人、いや、この侍女を見引いて10人か。

目立つのは、貴族らしい重っくるしく着飾った衣装を身に着けてる四人。

 母上、お母様と呼んだ三人と子供一人だ。



 誰が誰だかわからん。

 私のこと親とか言っていた。

 距離を保ったきり助けるどころか近寄ってこない。


「息子とムスメの人。一緒に来て」


 やっぱりか。期待してなかったけど誰ひとりとして動きもしない。そしてあの目。

 あいつらが、私を見る目には覚えがあった。


 私の、この婆さんの死のとこを悲しむために、いたのではない。

 死を望んで、見届けるために集まったのだ。


 あれは……イジメの効果を確かめるのきの、あいつらの目と同じだ。



 生き返ってやったぞ、ざまあだ!



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