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「碧」14歳。さきほど65歳の老婆に転生しました!  作者: 北佳凡人


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生きてるよね?


 ドレススカートも切り取られ、ロープで吊り下げられ、血だらけになってるチャーリー。


 頭上の友人を素早くおろしたいけども、生き物がうっとうしく薄気味悪い。固まって動かず、だけども襲ってくる雰囲気もない獣だか魔物どもだ。襲ってくるなら成敗あるのみ。どうでてくる。試しに足元の棒切れを投げつけてみると、動物園のサルが散らばるように、キーキーと叫んで散っていった。

 今のうちだ。


「チャーリー! チャーリーチャーリー!! 生きてる? 生きてるよね」


 助けるんだ。生きててよチャーリー。

 獣に襲われ、片足を失った子牛のように、切り裂かれた衣服の切れ目から、剥かれた肌の赤い傷が見える。真下に血溜り。

 誰のでもない、チャーリー自身の血であり肉だ。痛みで麻痺してるのか、半目を開いた状態で、私にも気づいてない。出血が多すぎる。死んじゃうよこれ。

 とにかく早く下ろさないと、縛ってるロープ。

 眼でたどって、端っこのつながり先を探す……みつけた。


「いまロープはずすから、ちょっとだけ辛抱してて、助けるから」


 死なないで。生かせてみせる。絶対、死なせない。

 縛りがきつい。ロープがなかなか外れない。私、レンジャーでもガールスカウトでもないんだよ。どうやって結んだんだ。やさしく解けるリボン結びしとけよ。こういうことなら、師匠にでも教わっておけばよかった。


 ほどけろ、ほどけろよ。

 一刻を急ぐんだ。

 ぐっ、えいっ、ほどけた!


 ばさばさ、どすん。


 何かが落ちる重い音がした。

 え?チャーリー、なんで落っこちてんの?


「チャーリー、チャーリーったら、息してる?」

「…………」


 答えてくれない。返事がない。

 うそでしょ。


「返事、してよ」

「はぁはぁ、ぐ、いきなり……落とす馬鹿が……、どこにいるのよ!」


 生きてた。

 さすがチャーリー。息が絶え絶えであっても、ツッコミだけは忘れない。

 でもというか、やはり血を流しすぎたのがキツク堪えているようで、息を継ぐだけのことすらままならない。虫の息って言葉があるけど、はぁはぁと、速く小さく呼吸が痛々しい。そして、息をついて身体がすこし動くだけなのに、肉のあいだから血がほとばしる。


「ごめん」


 謝ってみけど、何がごめんなんだろう。遅くなったことか、痛みを代わってあげられないことか、それとも私の身体がエリザだってことか。


 倒した毛むくじゃらの男を、急いでにらみつけた。

 獣人ってヤツかな。犬や猫のような、気持ちよさげなもふもふを想像してたけど、なにこれ。この毛艶のない、それどころかあちこち毛のない、もふ感ゼロの萎びた生き物は。

 こいつが、これが、チャーリーをこんなにしたんだ。


「夢を……みていたわ。


 わたしが身体を壊して寝込んでしまったことがあって……お母様もお父様も忙しくて、お見舞にいらしたお婆様が、看病してくたのよ。そこにね。どうしてだか、バトラーも……一緒にいたのね。

 いろいろ、手伝おうとしてくれるのだけど。ぜんぜん役に立たってなくて……邪魔になるからどいてと、お婆様が怒ってね。バトラーがね。どよんと床の隅に座っていたわ。ひざをかかえてね。


 あのバトラーがよ。なんだかおかしくて、笑っちゃったわ……ははは。


 お婆様が亡くなったときのこと。バトラーだけは、お葬式に現れなったのよ。誰も、それを咎めることはなかったし、不思議にも思わなかった。みんな、バトラーのことを、血も涙もない独裁者と思っていたから。

 でもあるとき、お墓の前に立つバトラーをみかけたの。お酒をかけてね。こう言ってたのよ。『死ぬまで一緒だって言ってたのに、嘘つきって』


 これは夢よね、思い出ではないはずよね。夢に決まってるわよね……」


 げほっ。

 咳にも血が混じる。


「はぁはぁ……まったく……助けにくるのが遅いのよ。わたしはもう……ダメだわ、息をするのさえ……苦しい」


 息が苦しいなら、しゃべるな。

 黙って体力を温存してろ。


「口を閉じてろ、ばかチャーリー。助けるっていってんだから」

「ありが、とう。その気持ちだけで……幸せよ」

「なにを、照れくさいことを言ってんのかな」


 今際(いまわ)の言葉。今生の別れを告げたつもり、なんだろうね。

 だめだよチャーリー、そんなこと言っちゃダメだ。


「わたし、あなたに……会えてよかったわ。本当のお友達が、できたようで、セイラムも……3人で、バカを言いあえて、楽しかった。ほんとうに……」


 瞳は潤んで、そして一滴の涙が、頬を流れた。

 チャーリーマジやめて。やめてよ。

 じゃないと私、がまんできない……。


「黙ってチャーリー。お願いだから……」

「言わせてよ、ミドリ、最後なんだから。わたし、死んでもあなたのこと……空の上から見守っているから……」

「…………」


 チャーリーはそう言って、瞼を閉じた。

 …………。







 瞼を閉じてからきっかり一分後のこと。

 チャーリーがまぶたを開けた。

 それはもうばっちりと。擬似シャッター音がハシャっと聞こえる勢いだ。


「ねぇ、ミドリ?」

「…………」

「わたし、死んでるの?」

「……くっ」

「く?」


 私は、なんて答えればいい?

 言葉が出ない、あまりにも、あまりにも、がまんし過ぎて、


「くっくっく…………くっくっくっ! わーっはっはっは、はひーっ」


 がまんし過ぎて、笑いが、こらえきれない。


 いや、不謹慎だってことはわかってるよ。そんなのくらいわかってる。

 でも、でも言ったはずだよ、助けるってね。絶対だって。


「い、いたい、お腹が、痛い、チャーリー。チャーリーがかわい過ぎる」


 むっとするチャーリー。

 それがまた、心地いいくらいかわいくみえた。

 年上で西洋人顔だから、かなりのお姉さんに見える。

 でもいまは、とても愛おしい。


「…………何を笑ってるのよ、死ぬって言ってるでしょう。わたしは瀕死の重症を負ったのよ、命のともしびが消えかかっているのよ。それを笑うの、あなたがそんな人でなしだったなんて、見損なったわ」

「ご、ごめん、でも、でもね。動けるようになってるよね」

「そんなこと、あるがないででしょう。ゴンプームとかが従えたオイデココに襲われて、つり下ろされたのよ! 肌が引き裂かれて出血多量なのよ。生きててたまるものですか!」


 たまるものですかって言いって、すくっと立ち上がり、びしっと私を指差した。


「はい。治療完了! よかったね」

「なにを言って……」


 チャーリーの全身を覆っていた金色の光が、収束した。

 神気搾奪(エクシーズ)逆流(アドバー)


 再誕にあたって身に備わった未知の能力。プラマイの同居。相反するアビリティの混在。回す向きによって、留めるも外すもできる命のネジを司るドライバー(工具)

 生き物の生命力を奪い去り、命を削り取り、私の肉体的な若さ帰りを保障している精力吸収(エナジードレイン)。吸い取ったエネルギーを逆転させて回復することも可能な異能だ。


 狐につままれた顔。この場合、オイデココにつままれたというべきか。

 言い返そうとしたチャーリーは、指差した自身の腕をみたまま固まった。

 驚嘆から呆然となり、しばし言葉がでない数秒を経て、体中を確かめまくる。

 それから驚喜に、声を上げた。


「わたしの身体、あれだけ重症だったのに痛くないし傷がない。ひとつもなくなってるわ」


 レベッカを助けたときもだけど、このスキルのありがたさを、今回も心の底から感謝した。


「ミドリ、これはあなたがやったの?こんなことができるなんて、一言も言わなかったじゃない、うわっ」


 抱きついたチャーリーの身体はとても温かかった。

 私は大切な、とってもたいせつな友達を助けることができた。

 そのことが、ただただ嬉しかった。


「じゃーりぃ、うぇっ、うぇっ」

「ミドリ汚い!涙でぐしゃぐしゃじゃないの、いますぐ離れなさいよ」


 チャーリーはそういいながらも、私を離そうとはしなかった。

 怒りんぼチャーリーが、泣き虫チャーリーになってる。

 生きていればもっと、いろんなチャーリーに会えるよね。


 ありがとう。チャーリー。死なないでいてくれて。



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