私こと、七草碧は
私こと、七草碧は14歳の普通の中学生だ。
名前でわかるとおり女子。
さきほど、トラックに撥ねられて死んだJC。
元JCだった。
元の世界に未練がないといえば、ウソが混じるけど。
死んで、せいせいしたってのもウソのない本音。
理由はかんたん。
イジメだらけの中学生活に、120%うんざりしていたからだ。
いじめられたきっかけはなんだったかなぁ。
そうだ。
ネコに石を投げてた小学生坊主を止めたのが始まりだった。
その小学生の姉ってのが同じ中学にいてね。
しかも同じクラスだった。
ネコをいじめてたのが、ナゼか私だってことになっててね。
次の日から、ねちねちした嫌がらせが始まったんだ。
上履き隠し。教科書落書き。机にいたずら書き。
こんなのは当たり前。
カッターでスカート切られていたり、
シャーペンの芯抜かれてたり、
机とか椅子の止め具が壊されてたり。
給食のカレーに画鋲入れられたのには、まいったなぁ。
悪者扱いされて、都合の悪い出来事はまることぜんぶこっちのせいにされて。
男子も巻き込んでだんだんエスカレートしていったんだ。
いちおう、大人にも相談したよ。
かよわい母親は泣かせたくないから、父親とか師匠にね。
でもロクなアドバイスはかえって来なかった。
「相手とよーく話し合え」
「懐を開いて本音をぶつけてみろ」
「向こうに悪気はないのさ」
「深い器で許してやれ」
「自殺で死んだやつなどいないぞ」
大人ってのは自分が子供だったころの認識しかもってないんだね。
いつの、どこの中学の話だよってことよ。
時代錯誤っていうのかな。
武闘派に相談したのが間違いだったきもするけど。
1対1のタイマンガキ大将じゃあるまいし、女子だよ。
「なんの話し?」
「あたしがそんなことするって思われててるのは悲しい」
平然としらばっくれて次回のワナがより粘質になった。
躾けだ!と言わんばかりにね。
わかりやすく突進してくるなら、こんな悩まないんだよ。
教師?担任?
何それ。
あんな学歴ばっか優秀な役立たず。
相談なんかしたら炎上間違いなしだ。
そんな私は、トラックに撥ねられて死んだんだけど。
これにはちょっとだけ、修正が必要だ。
学校の帰り。歩道を歩いてるとき。
後ろから突き飛ばされたんだよ。どんってね。
反対から自転車が快走してきたから。それめがけて押されたんだと思う。
自転車を避けてよろめいた私は、車道側へ飛び出してしまった。
運悪く後ろからバイクがきてて、それにもぶつかって、
もっとずっと車道の中のほうへ吹っ飛ばされた。
そこで車に高く撥ね飛ばされて、
アスファルト路面に落下したところをトラックが踏み潰した。
そういう結末。
まったく、どんな昭和ギャグマンガだか!
ひとつだけ見ものだったのは、突き飛ばした娘の顔。
跳ね飛ばされた空中で――時間がゆっくりになるってのは本当だった――見えたんだ。
ネコをいじめた小学生の姉が。
殺そうとまでは考えてなかったようね。
はっきりと見えたんだよ。青くなった顔が。
あの後、彼女がどうなったか知りようがないけど。
人生に影を落としてやれたんなら、1ミリくらいは仕返しできたかな。
そのとき、空中の私は笑っていたんだと思う。
そんなことがあったわけで。
私は人生に期待はしてない。
いつかは死んで、誰もが死んで。
太陽が膨張して、地球も消滅して。
そこに生物が生きていたって証拠は惑星規模で消滅する。
人間なんて、文明なんて、そんな程度のものだ。
でも。
意識が残っているうちくらいは、最後の瞬間を見届けたいとも思う。
彼女の青ざめた顔を見れたように。
殺されるとしても、命を狙われるその理由を知って死にたい。
死の淵にあるご老体を申し付かったのにも、きっとわけがあるはずなのだから。
ブクマ ありがとうございますっ!
やる気がどんどん膨れ上がります。
さらなる油を注いでくれると、もっと燃え上がります!!