フットマンの使命
「どうしてもいくの? 私をおいて」
「エレミア、わかってくれ。誰かがやらなくちゃいけないんだ」
「では、頼んだぞジムオン」
「とめてみせます。絶対に」
五年前。ジムオンは希望とわずかな物資をかかえて時間落下した。底の知れない暗がりに落ちるように、深い深い過去へダイブしたのだ。貴重な魔素を莫大に消尽する片道切符。二度と現代に帰ることはできない。使命を成し遂げる覚悟はあるが、失敗すれば。
魔素鉱石発掘を阻止すること。
手段は問わない。血にまみれることになるだろう。
魔法や魔術は魔素がなければ使えない。魔素は空気でも水でも火でも、どこにでもある原資。だが、密度がまばらで場所によって薄いのが普通だ。まとまった量を集めるのは難しい。そこで、エネルギー体である精霊と契約し、精霊があつめた魔素を用いる。
魔素鉱石という魔素の塊が発見されたのがおよそ250年前。
莫大なエネルギーをもつ魔素鉱石は、魔法文明を進歩させる起爆剤になった。少ない魔力しかもたない者でも川ができるほどの水を生み出せ、森を焼くほどの火を燃やせる。かんたんな魔法や魔術で大きな成果をあげられる。子供でさえ空を飛べた。犯罪を助長してしまう負の部分は宗教が押さえ込み、厳格なモラルが機能的に作用したおかげで道徳観の向上という副作用さえもたらしたした。
魔素鉱石は魔素を凝縮した結晶。薄い魔素を集めるための精霊契約や複雑な呪文という、それまでやっていた面倒な段階がいらなくなり忘れ去られた。魔法使いや魔術師たちは、さまざまな魔法と魔術を数多く生み出した。人類は新たな技術が発表されるたびに威力を競って溺れた。
魔素をふんだんに使った通信・物流。都市よりも田舎が好まれ小さな集落に分散した暮らしが主流となる。それもこれも安価な魔素鉱石のおかげ。魔法は最高潮の時代を築いた……のだったが。
149年前、人類の進歩に終止符が打たれた。
魔素鉱石の枯渇。湯水のように使いまくった魔法元素の鉱石は有限だった。条件の整ったいくつか山にたまたま蓄えられていた結晶は、希少な鉱物のひとつにすぎなかった。無尽蔵という神話が崩れ魔法文明は急落していく。
安易に手に入れた繁栄は、失うまでの月日も短かった。
最大の鉱山が枯渇したとき、人類は魔素鉱石を捜し求め世界中の山を探索した。いくつも発見されるが埋蔵量がすくない。数年で掘りつくされては次の魔鉱を探す。魔鉱の山がみつかるたび喜びに楽観し使い尽くす。そんなことが繰り返された。
最後の発見から30年過ぎたとき、魔鉱探しをあきらめ新たな道を模索する。しかし魔素鉱石を前提とした文明はもろかった。連絡手段が途絶え、交通や物流も滞る。分散した生活が仇となり、食料の入手が困難となる。通貨価値は暴落。たちまち暮らしが立ち行かなくなった。少ない魔素鉱石をめぐった対立をきっかけに、農村が襲われ、集落同士の対立がおこり、世界中に飛び火した。
10億いた人口は1億になり、1000万になり、今は100万人すらわっている。精霊と契約する術はとうに失ってる。引き返せないほどに、大きく衰退していたのだ。
火の起こし方や木の切り方すらわからない獣に怯えてる人類。種として再興するには、何世紀何十世紀もかかるかわからない。決断が100年早ければ別の結果になったという人もいる。過ぎた時間は戻らない。
異端とされる研究者たちがいた。魔法に頼りきった文明に不安を覚えた者達が、科学という手段を密かに追い求めていたのだ。そこの先端にあったのが時間研究。
時間を追及する彼らは歴史にも敏感だ。長年、謎とされている不思議がある。
「魔素鉱石の発掘その後の利用発展が急激すぎる。まるで時代を知りつくしているかのようだ」。
仮説だが、魔法以外の道をみつけ緩やかに発達していった文明があったのかも知れない。
科学機関はひとつではない。ほかの知られざる組織が歴史に介入している可能性。それが今の衰退を招いている。とすればその者を殺せば偏った発達を止められ、正しい進歩へ軌道修正できるのではないか。
歴史の疑問と時間の科学。
わずかな期待が魔法と結びついたとき、タイムマシンが完成した。
人類の希望を背負ったジムオンは、転換期とみられる時代に降り立った。249年前のエラインダ王国、ウィドネス辺境だ。
歴史を調べ上げ判明した、かかわった人物や村、組織などをしらみつぶしにあたっていく。時間倉庫に持ち込んだ物資が役立った。この時代にはない珍しい食べ物や飲み物を手土産に、貴族有力商人の歓心を買い、行動の幅を広げていく。
自ら手を汚し、ときには騙し暗躍する。
初期の新規魔法を発展させたセイラム村と、魔術道具を開発したヴァーサ村、ほか技術拡大に協力した有力商人ら。王に取入って次々に壊滅させていく。5年かかったが、ほとんど片付けたと思う。件の魔素鉱石鉱山はいまだ知られてない。ここまでくれば、魔素鉱石がみつかっても急激な発達はないと確信できる。
ただし。歴史の介入者がわからない。
最有力候補はエリザバトラー・レイス・ウィドネス。享年66歳。封建社会を自由資本主義へと舵をきった、近代化の母と評されている。領地開発に勤しんだ重要人物だ。建設土木農業、それに魔術。嫁いだウィドネス家振るった猛威は世界を巻き込んだ。病気に感染するかのように文明の概念が塗り替えられいく。先見性の高さは、現代に通じるものがある。
記憶喪失を装ってとり入った。フットマンは職名。貴族にしたがえる従僕のまとめ役だが、エリザバトラーが頻繁に呼んだことで、いつしか名前のようになった。
出合ったエリザバトラーはすでに老婆。気に喰わないことがあれば、当り散らすことの多い厄介者だった。ときおり理解のできないことをしゃべる。若返りに興味をもつ、ありふれた老害貴族にうつった。身辺をさぐるが、もとよりまともでないせいからかタイムトラベラーらしき証拠はみつからない。缶コーラを渡したときは目の色が変ったがそれだけだった。
「ハズレか……」
また別の人間を探さなくてはいけない。セイラム村の生き残ったレベッカは、一人ではなにもできまい。怪しいのはカスティリオーネ・アイルか。いや、ウィドネス家から目を離すわけにもいかない。エリザバトラーを産んだラベンド家の可能性も……。
フットマンが途方に暮れたそのとき。エリザバトラーは65歳で死去し、生き返った。
人がかわったように、生きることに執着しだした老婆。すべて忘れたと語り暴れる。
力強くエサをねだる子スズメに似ていた。
「もうすこし探ってみるか」
屋敷から出て行くつもりが、チャーリーの暗殺に乗ることにした。
エリザバトラーは精力吸収を使った。この時代にはない、いや、科学的に作られた技術だ。さらに、レベッカが持っていた宝石。どこで手に入れた。赤くはないが魔素鉱石に似てる。
二人のうちどっちか、それとも両方かが、目的の人間に違いない。ジムオンはそう確信した。
お待たせしました。フットマンの背景です。
SFテイストに引いた人が多かったようです。。。力量不足に反省。




