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「碧」14歳。さきほど65歳の老婆に転生しました!  作者: 北佳凡人


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バーリィとクリア



 大男バーリィ・スキレードの大剣を叩きこまれたエリザバトラー・レイス・ウィドネスの身体がふきとび、窓ガラスを勢いよく突き破った。部屋は3階。小柄な老婆の体躯が空中へと投げ出される。ガラスと木の残骸がひこうき雲のように放物線を描く。放り投げられた人形のように、撃墜された戦闘機のように、むちゃくちゃに手足を翻りながら、地上めがけて落下していく。


「お、おくさまぁー!!」


 外壁としても機能してる階段迷路状の水路。必死の形相のセイラムが走りだした。鋭利な破片を頭からかぶったことさえ忘れてるのか。足元が危なっかしく、狭く急な水路わきの階段を、3階から2階、2階から1階へと駆け降りる。


 うかつだった。最初の遭遇が豪腕のバーリィだとは、氷つぶほども思いよらなかった。小手先の技など一振りで粉砕する騎士の登場。付け焼き刃は承知だが、訓練が無になった自分の不甲斐なさに、くちびるをかみちぎる。


「せめて、せめてこの身体で……」


 自分をクッションにして(あるじ)を救うんだ。セイラムは、身を捧そうという忠誠の思いをしぼりだす。エリザバトラーの落下予測地点を目指して駆け降りていった。



 客室には、二人の女性が無くなった代わりか、バーリィほか二人の騎士がいた。匠のディティール際立つ頑丈な扉が壊され、特注で取り寄せたガラス窓もなくなった瓦礫だらけの部屋。むくっと幼さがのこる拳をぐっと握ったのはクリア・ファイ・ウィドネスだ。


「やりましたっ!」


 クリアは11歳という若さで騎士長補佐役をつとめる、ウィドネス家の英才だ。エリザバトラーの二女の息子で、嫡男ウィロアムの次の頭首との噂が高い。


 ウィロアムには男女一人ずつの子供がいるが、男子のほうが私生児。家族で跡継ぎの話がでるたび、弟妹らから高貴な生れでないことを指摘され苦い顔をつくる。とはいえ、ウィロアム自身が爵位を譲り受けてない。辺境伯領の実権を握っているし采配をふるう手腕をみせてるが現党首が首を縦にふらないのだ。


 爵位などはるか未来のこと。クリアはわれ関せずとはかりに、裕福かつ自由な家風のもとで好きなことをしながら成長している。裏表のない合理的な性格だ。だが合理はときとして冷徹へ変貌するという。エルザバトラーを色濃く受け継いだといわれる性格はときおり周囲のど肝を抜く。


 当初ウィロアムは、集めるだけ集めた臨時暗殺部隊を全員突入させる計画を立てていた。エルザバトラーに対峙した恐怖から、一対一では迫力負けすると集団で押し切る戦術を選んだのだ。それを覆したのがクリアだ。


「24人も部屋に突入すれば身動きがとれなくなりますよ叔父さん。そこまでやることはありません。迫力を気にするなら、気にならない人で戦えばいいんです。バーリィさんを貸してください」


 クリアの合理的な戦術がはまった。豪快なる副騎士長の進撃をくらって、エルザバトラー《ターゲット》は撃沈。斬撃を喰らって10メートルほどの高さから落ちたのだ。生きてる可能性はないし、万が一息があったとしてもまともな身体でいられるはずはない。


二番手三番手の作戦は準備していたが、全部ムダになった。クリアは、申しわけない思いでいっぱいになった。わざわざ集まってもらったみんなに謝らないといけない。


「ウィロアム伯父さんは、大げさすぎましたね。騎士長さんの到着前に終わってしまいました」


 そういいながら、かたわらの副騎士長を見上げる。

 大男が冴えない顔をして剣にさわる。


「手応えがないし血のりがついてない。……補佐役さんよ。エリザバトラーさまだからなぁ。死の床から蘇ったという話もある。まだ、ご遺体を確認するまではわからないぞ。あの方が元気だったころは、オレもさんざん悩まされたもんだ」


 愛用する剣を撫でるバーリィ。戦場での刃こぼれを防ぐよう、仕上げは鋭利でなく造らせた。切るよりは斬る、魔物の厚い皮や敵兵の甲冑を斬砕する剣だ。ろくな防具を身に付けてないきゃしゃな老婆など両断して当たり前。首をかしげたり匂いを嗅いだり舌でなめたり、あらゆる角度から刃を点検する。


「B班を下まで移動させます。お婆様の恐さはよおく知ってますからね。最後まで気は抜きませんよ」


 目配せされた騎士が持っていた弓に矢をくつがえる。窓から身を乗り出して空へと打ち出した。二本。矢は煙を出しながら空中へ。最初のは白で2射目は青だ。


「ぼくたちも行きますか。あれ、バーリィさん?」

「なんだか疲れた。オレはここにいるわ」


 散らばった床にどっかり座りこむ副騎士長。疲れたとはこの男に似つかわしくない言葉だ。クリアがにっこり微笑む。


「落ち込んでるのですか。豪腕スキレードも、そういう気持ちになるのですね。日記に書いておきます」

「日記?そんなのつけているのか。さすがウィドネスの秀才は違う」

「お婆様がうるさかったんですよ。記録はやがて命より大事になるって。しかたなくやっているうち習慣になってしまいました」

「そうか。影響力のあるお人だったからな。責務とはいえ殺したのはオレだ。しっかりきっちり墓前で謝るとしよう。その前に死亡確認だがな。ふう。じゃあここにいるから用事があったら呼べ」

「わかりました。ぼくは叔父さんに報告してから指揮に加わります。では」


 弓騎士を従え、まだホコリの舞ってる部屋からでて行こうとするクリア。バーリィはそっと床に剣を置きながら呼び止めた。


「お前、エルザ奥様殺しを指図して後悔はないのか? 肉親だろうに」


 背をむけたままクリアは応えた。


「うーん。あまりないです。悲しいとは思いますが、お祖母様一人で領が救われるなら、合理的ではないですか」

「達観してるな。オレがカードで勝てないはずだわ」

「負けたこと、覚えてたんですね」

「あ、いけね」

「合理的な勝ち方をおしえますよ」


 クリアはそう言い残し、若旦那のところへ向かうべく部屋から立ち去った。

 一人になったバーリィがごろんと寝転ぶ。


「いらね。気合いで勝つさ」





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