私はダレ?
トラックに跳ね飛ばされました。
ダメだと思ったね。
そして…………
死んだと思ったら、生きてたんだ。
目を開けると家じゃなかった。病院でもなかった。
すこし霞む視界には見慣れない豪華な天井があった。
金銀宝石の装飾がほどこされたシャンデリアに名画と言っていい絵。
これは……これって転生テンプレだよねー。
というか、是非とも転生であってほしい。
てか、転生になれっつーの!!
人並みにラノベを嗜んでるわたしは喜んだ。
何かのチートを身にまとって、異世界でたくましく生きていく。
ついさっきまでの、生きにくかった中学生活よりはマシだと。
だけどその期待はすぐに、本当に、じつにあっさりと裏切られた。
「奥方さまが、目を覚まされたぞっ」
ふかふかのベッド。たくさんの気配を感じる広い部屋。
そんで『おくがたさま』だ。ふんふん。
新しい私は、かなりの権力者みたいね。
貴族のご婦人って設定は悪くない。そこは旦那さま次第だけど、心配されてるところから、邪険に扱われてる雰囲気は感じられない。ひと安心。
周りをよく見ようとベッドから身体を起こす。
あれれ。起きあがれない。
「おいたわしや。奥方さま。私めが、わかりますか」
老齢の紳士だ。物腰から執事という人かもしれない。
手を貸してもらって起きあがった。
中世風の広い寝室。やはり部屋は豪華だった。
しつらえ品の手抜き無しってのは、鑑定眼のない私でさえわかる。
なんたって『おくがたさま』だもんね。
態度から察するにこの家の女性のトップみたい。トップだよ!
ん?
トップってことは、それなりに高齢?
かすんだ目を擦ろうとするけど、上げた手は鉄で縛られたようにやたら重い。
見えたその手はしわくちゃだった。とてもじゃないけど14歳の手じゃない。
マジですか。これはまるで、まるで、老婆の手だ。
顔は、私の顔はどうなってるの。
「か、鏡、ありますか」
自分の口から発せられたしゃがれた声に驚いた。
息をするのもつらい。たったの一言で呼吸困難か。
「誰か鏡をもて。気付けの薬もだっ」
鷲鼻の執事が命令した。偉そうな態度。執事じゃなかったのか。
侍女っぽい女性が慌しく後ろへ下がる。
「母上!」
「お母様!」
三人がベッドにとりすがってきた。
母上と呼んだ男性、お母様と叫んだ女性。
どちらも、私よりずっと年上だった。
おそらく、私のママよりもだ。
脂汗が止まらない。
「鏡にございます、奥方様」
鏡を二人の侍女が抱えてきた。大きさは胴体ほどある。
侍女の腕がぷるぷる震えてる。
「………………」
鏡にはしわくちゃの老婆が写っていた。
グレイのロングヘアだ。グレイと言うと聞えはいいけど、白髪だよねこれ。
右目をつぶると、老婆の目も閉じる。
左目をつぶると、老婆も左目を閉じる。
「この鏡、モノマネうまいね。やるじゃないの」
奥方さぁ、じつは死んだでたんじゃないの?
そこに私が入り込んだって話しよ。
風前の灯。。消えたロウソクに再点火か。
残り寿命、短そー。
気分が悪くなってきた。
生き返ったって、喜んで損したわ。
どこの神様のしわざだ。
ぬか喜びさせるなら、大人しく死なせとおけってーの。
…………この体の命って、絶対、ながくないよなぁ?
「お気をたしかに。これをお飲みください」
気付けの薬とやらを、進められた。
錠剤じゃなくて紙にくるまれたのは粉。
粉の薬は飲んだこと無い。
「オブラートってないんですか」
「それはどのようなものでしょう?」
無いそうです。
陶製の器には水が用意してあった。流し込むか。
おそるおそる口に含む。苦いし飲みにくい。
の、ノドに引っかかった。
「げ、けっほー!!!」
ぶへーっと、盛大な咳とともに吹き飛んた粉薬は、鷲鼻に顔にかかった。
ひとつもノドを通ってない、口に粘ったのをのぞいで全部がだ。
コントみたいに真白だ。鷲鼻が大慌て。
「こ、これは、けほっ、誰か、けほっ、ぬぐうものを、水を」
「ごめん。わざとじゃないんだよ」
謝ったが、慌てふてめきが止まらない。笑っちゃ悪いよね。
侍女がもってきた布をひったくって、鷲鼻が顔を拭く。
きれいに取れたが、満足してないみたいで、上着を脱いだ。
水でうがいして、そのへんにペッと吐く。
いくらなんでもおかしい。じたばたしすぎた。
「吸った、すってしまった、し、死ぬ」
どーゆー意味よ。
思いつきで投降しました。設定は甘いですが、理窟抜きでがんばります。