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勝利

なにが起こったのか、説明できる人がいたら是非してほしい。アルマ・カディックとエリは、須戸 拓海がいるダンジョンのワープポイントを探している途中、そう思ったのだった。

その事態は、偶然ギルドが集めたプロの冒険者がダンジョンに入ろうとする前に起こったことだったので、気づいた彼らは直ぐにその場から離れた。


突如ダンジョンを中心に地震が発生したのだ。


「なにが⋯⋯起こっているの?⋯⋯あっ、アルマ!?」


「彼が危ない!」


「待って!!この地震でダンジョン内がどうなっているのかわからないよ!瓦礫が降ってきたらどうするの───」


「私はあのガキを正直消してやりたい所だが、アルマがここまで思いが固い以上お前でも止めるなら殺してしまいかねない。いざとなれば私が出るから、今は何もするな」


そう言ってアルマはワープポイントの探索を中断して、ダンジョンに向かって全力で走り去った。


「アルマ⋯⋯どうしちゃったの?私が出るって、なんのこと?」


アルマ・カディックは、須戸 拓海がどこの誰なのかも実は曖昧な人間でも助けようとする人間である。

その人を救うためなら、それまでの道程に少しでも邪魔と思った存在は例え身内であってもこの世から消すことだってできる人間である。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


『おかえり』


俺は確かに、アルマでもない、全然聞き覚えのない女性の声を聞いた。

ただ、その声を聞いて内心死ぬことに対して感じていた恐怖、どんどん寒くなる感覚、痛みまでも忘れることができるほど、安心感に包まれた。

やがてそれは忘れたわけではなく、自分から死への恐怖、感覚、痛みが消えていたことに気がついた。グニャりとおかしな方向に向いていた手足が気づくと元の方向に戻っていて、全身からドバドバ溢れていた血も、傷も消えていた。


「⋯⋯なん で?」


もちろん人を殺しにかかるリンゴにはこんな能力はあるはずない。幻覚でもないし、全身が麻痺する毒だったのは言うまでもないし、ではこれはなんだ?

ただ、この焦りを隠せない状況でもはっきりとしていることがある。


「今なら、あいつ倒せるんじゃね?」


───二度に渡って俺を殺そうとした、一匹の龍を倒せるんじゃないかという、今考えたら正直かなりバカな自信である。


「ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ッ!!」


「そんな咆哮、聞くわけないだはうっ!?」


全力で耳を塞ぎ込む事で咆哮のダメージを軽減する。それでも完全に防ぎきったわけではないため、耳元に拡声器を近づけられて軽く怒られてるような感覚に襲われる。

なんとか咆哮に耐えることができた俺は、ワイバーンが接近するまでの間に宝の山に向かう。必ずしもお金や宝石だけではないはずだからだ。


「なにか、なにか武器とかあってくれよ⋯⋯!」


宝の山をかき分けて使えそうな武器を探す。死体の山を見る限り誰も踏み入ったことのないであろう空間のはずなのに折れたナイフ、あと一回使えば確実に壊れるボロい棍棒、見たことのない形状をして引き金すらどこにあるのかわからない銃、持つことすら難しい重量の大剣。⋯⋯やばい。非力故に使える武器がない!

ワイバーンは俺に確実の死を迎えさせるために巨体を揺らして進行してくる。


「なんだよ。俺が無知非力だからこんなに訳の分からない現実を突きつけてくるのかよ!!」


更にかき分けて使えそうな武器を探す。気がつくと、ワイバーンはすぐ後ろに迫っていた。先程まであった謎の自信はどこへやら、足が震えてきた。

⋯⋯それなら、次手にした武器によってこいつに立ち向かうか、助けがくることを願って来た道に逃げるかどっちかにしよ───


「おいこら!そこのワイバーン!!」


歩く地震と言わんばかりの巨体が、その足を止める。何度もこの空間にこだまするその声は、壁をぶっ壊したワイバーンがいた場所より置くから聞こえてきた。その声のする先には、俺と同じくらいの背丈をした女の子が立っていた。


「⋯⋯⋯⋯アルマ?」


「人様の仲間を殺そうとするとは、いい度胸じゃないか!そんなでっかい幻見せてたって、私にはバレてるんですよ!せりゃあっ!!」


仲間とか言い出したからアルマだと思われる人物が、青く光る物体を思いっきり投げて3秒後。青い衝撃波がこの空間中に広がり、なんとそれを受けたワイバーンから湯気が出てきた。


『⋯⋯⋯⋯グギィッ!!』


聞いたことのない声を発し、ワイバーンはやがて、小さく、小さく、また小さくなっていった。

やがてワイバーンは、縦約3メートル、横幅約5メートル程度までに小さくなってしまった。アルマであろう人物がさっきでっかい幻とか言っていたが、まさかこの大きさが真の姿なのかだろうか。


「あ、アルマなのか!?」


⋯⋯⋯⋯⋯⋯。

声のする方をもう一度見た時には、そこに誰もいなかった。ここからは改めて俺に選択肢を選べと言っているようだ。


「⋯⋯⋯やるしかないのか。さあ、かかってきやがれ!」


『アァア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア!!!!』


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


冒険者達の制止も完全に無視して、アルマ・カディックは未知のダンジョンへ突入した。

フル装備ではないため現在ステータスが最低。だから、モンスターから攻撃を受けないように、かつ素早く拓海のもとに向かわなければならない。


「そこを、どけえ!この雑魚が!!」


オークを潰した際に拓海が持って行った武器の一つの棍棒を手にして、今まで迫り来る見たことのないモンスターと対峙する。

それでも素のステータスが常人ではないアルマは棍棒を振り回し、グチャッ!と言う奇妙な音を立てながらモンスターを叩き潰す。


「まずいな。大抵のモンスターは潰せてきたが、ここまで新種が出てくると有効部位がわからない。このままだとあのガキが死んでしまう。というかもう死んでるんじゃないだろうか?」


一層、二層、そして三層目に突入した頃には、アルマの体力は危険な状態になっていた。

あと何層突き進んだら拓海のいるボス層までたどり着けるのかもわからない。武器もそろそろボロボロになってきそうでこれ以上の進行は難しい。

それでもアルマ・カディックは止まることはない。

なぜなら彼女は拓海のことを、『いつか笑顔で自分を殺してくれる人』だと波の人でも考えないことを確信したからだ。


「⋯流石にまずいな。体力が持たないし、ここまでの雑魚を片付けるだけ片付けたから、あとはギルドの収集したメンバーがなんとかやってくれるだろう。⋯⋯それでいいよな?聞こえてるならこの後直ぐに戻れよ ───」


「それは、嫌です」


「バカ。そんな装備で、しかもそんな体力でこれから先どうするっていうんだよ?くたばったら助けも何もないだろうが」


「だけど、ここで逃げるのは嫌なんです!今ここで逃げたら、今度こそ二度と彼に会えない気がするんです!だから⋯⋯!」


モンスターの血の海と化したダンジョン第3層に、2人の"アルマ・カディックの声は響き渡る。


「⋯⋯⋯⋯いっそのこと言うけどさ、あのガキは生きて出てくるよ。今のような非力ではなく、短期間で強くなって」


「なんで、そんなことを言えるんですか?」


気になった。出会って数時間の男のこれからのことなんて分かるわけがないのに、何故偉そうにそんなことを言えるのか。と。


「まあ、女の勘?」


「⋯⋯⋯⋯(おえ〜)」


「!?」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


手にしたのは、一本の埃を被って正直汚い剣。非力な俺でも軽くて扱い易い、他の歪な武器より攻撃力は無さそうだが⋯⋯。はて、大量の財宝やもろい武器や歪な武器の塊の中からこの剣を手にしたのはただの偶然だったのだろうか。とても、懐かしい。


「次取った武器が俺の命運をわける。それがこの剣なら、笑顔で受け入れようじゃないか」


右手で柄を強く握り、左手人差し指でその剣の斬れ具合を調べてみ───


「⋯⋯⋯⋯まてい。この剣全然斬れねえ!!まるでおままごとセットの包丁のおもちゃじゃねえか!」


指には傷一つつかない。ある意味大ハズレを引いたのではないだろうか?もしかして、剣の形をした鈍器なのだろうか?この異世界にはマトモな武器はないと思ってしまう。

俺が攻撃してこないとわかったのか、真の姿のワイバーンは自身の尻尾を俺に向けて振り回してきた。


「やばっ⋯⋯!!」


ズバアァァァンッ!!!! 剣を盾替わりにし、なんとか一撃を防ぐことに成功した。なるほど。やはりこいつは鈍器なんだ───


「お、折れた!!剣が、折れてもうた!!」


正直汚いという感想がかなり似合う剣は、ほぼ真っ二つに折れてしまい、使い物にならなくなってしまった。

そんな俺を見下ろしているワイバーンが、どことなく笑っているように見えて、心底怒りがこみ上げてきた。


「ああ!畜生!畜生畜生畜生畜生!!!!こんなやつに殺されたくないし、逃げたくないのに!中途半端に生きないって決めたのに⋯!なんなんだよこの剣は!!」


自分の非力さがものをいって剣を折ってしまったのに、剣に八つ当たりをしてしまう。そしてその剣だった物を、最終選択肢である『逃げる』。その為にワイバーンに投げつけた。

その直後のことだった。おもちゃ包丁同然だった折れた剣が、放物線を描いてる間にどす黒い粒子を纏い、銀色の剣が黒く光る色をした剣になった。


その剣は、さっきまで俺を殺す気全開で襲ってきていたワイバーンの右翼を、言葉通り吹っ飛ばした。


『⋯⋯⋯ア゛ア゛⋯ッ!?』


突然の出来事に反応が遅れていたワイバーンは左翼だけで飛行することが出来なくなり地面に向かってそれらを抉るように盛大に落下した。

劣勢だった状況が、ワイバーンが墜落して打ちどころが悪かったのか軽い痙攣を起こしたことで、優勢になる。もちろん俺にもあの汚いおもちゃ剣がこんなことになるなんて思ってもいなかった。


「全体重が頭部と左翼にかかったんだ。お前はもう動けないさ」


変に格好つけながら、赤い粒子になって消えた右翼の跡に刺さっていた剣を拾いに行き、改めてまじまじと見て、もう一度、そのおもちゃ包丁レベルの斬れ具合なのかを確認する。


「あづっ!!」


ここは痛いと言うのが先だと思ったのだが、それ以上にも熱く感じた。ジワジワと溶けていくような感覚で、ほおっておいたら骨が出そうなこれはまるで…。


「ゲームで言うところの火属性?それとも酸性のなにかか?」


おっと、今はそれどころではなかった。

今は、あのワイバーンの息を完全に止めることを優先しないといけない。ワイバーンの目の前に立ち、見下ろす。


「⋯⋯⋯⋯⋯⋯運が悪かったな」


あのリンゴを食べきるまでの間、右耳の鼓膜に大ダメージを与え、壁に向けて俺を吹っ飛ばして全身強打させたこいつの頭部に向けて、剣を突き刺す。

わりと不運のワイバーンはこの一撃で絶命した⋯⋯と同時に俺のドバドバ出てたであろうアドレナリンとやる気は夢だったかのようにその効果はきれ、力尽きて地面に顔面から激突することになった。


「や、やべえ。も う動け⋯ね⋯⋯⋯⋯わ?」


いつから傍にいたのか先程ワイバーンに向けて青い何かを投げた人がいたのだ。やはりアルマではない。


「生きてる?」


「⋯⋯誰だよ」


「誰って。私のこと、覚えてない?」


「こんな所どころかこの世界に来てまだ半日も経ってない。だからお前みたいな人は見覚えはないな」


「⋯⋯⋯⋯⋯⋯嘘つき」


顔は暗くてよく見えなかったが、『嘘つき』という言葉は、出会ったことの無い、名前なんてもってのほかのような人が発したのに何故か、重かった。


「え?」


「まあいいや。とりあえず、あなたはこれからどうするの?」


どうするかと今度は聞いてきた。

確かに俺はこれからどうしたらいいのだろうか。自動車に轢かれたことをきっかけに始まった第二の人生。

どうすればいいのか分かるわけがない。でも、とりあえず今することは分かる。


「⋯⋯ここを出たい。この玩具包丁剣と」


「おもちゃぼーちょー?何のことかはわからないけど、出口まで連れてってあげる」


「ありがとう。なんというか、少し前に出会った人たちといいあなたといい、なんで初対面の人に対してそんなに優しいというか、気を使ってくれるんだ?」


「そう言う呪いが、私たち初街の住民の脳内に捻りこまれてるの。もう良いでしょ?ダンジョンも主が死んでしまったからじきに崩れる。手を取って」


サラっとえらいことを聞かされてサラっと流されて、変に聞いたら怒られると本能的にさっした俺は、なんとか起き上がって指示されたまま手をと───


「⋯ぁ」


瞬間、世界はスローモーションに成った。

何故か右に向かって突き飛ばされた俺、そして何故か⋯⋯


「なに掴もうとしてるんですか?」


さっきの女性の右手を自身の左手の手刀で切り落とし、その手を恐ろしい速さで取った、アルマ・カディックの姿があった。

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