立てこもり
——現金を要求する犯人が人質をとって、マンションに立てこもってから15年が経とうとしていた。
「犯人に告ぐ。無駄な抵抗はやめて、おとなしく投降しろ」
警察による再三の呼びかけにも犯人は出て行こうとしない。
「動くんじゃねえポリ公ども!下手に動いたらこのピーナッツアレルギーの女にオニギリ食わせるぞコラ!」
犯人は人質の女性にバナナを突きつけながら叫んだ。
「いいから早く現金10円と逃走用のカーを用意しろ!!」
犯人は続けざまに叫ぶ。
警察の1人は自分の財布の中身を確認し、3ペリカしか入っていないことに苦虫を噛み潰したような顔をする。
「そんなところを見たらお母さんが泣くぞ。早く投降しなさい」
「うるせえ!ほら早く金を用意しろ!俺は気が短いんだよ!」
犯人は15年前から気が短いアピール続けていた。
「チュワチュワバンツー!」
これは犯人の本名である。
声の主は犯人の母親
の不倫相手の息子であるナルンムムが出会い系サイトで出会った火星人の家で飼っている牛だった。
わざわざこのために惑星間を移動して来たのだ。
ちなみにメスの宮崎牛5歳である。
「こんなことはもうやめて、元の銀行員に戻りなさいってあなたのお母さんなら高い確率で言ったと思うわ!」
牛の説得に犯人は動揺した。
「くそ!情で落とす作戦か!?汚ねえぞポリ公!」
ほぼヤケクソのように、チュワチュワバンツーは母親の不倫相手の息子であるナルンムムが出会い系サイトで出会った火星人の家で飼っている牛に向かってバナナを投げ捨てた。
バナナは牛の鼻をかすめる。
「どうしましょう」
警察官は犯人の投げ捨てたバナナを食べながら通行人に聞いた。
「射殺の用意だけはしておけ」
「存じ上げております。合図があればいつでも近くに待機している釣り師たちが得意の指相撲を見せてくれるでしょう」
ここで交渉人が登場する。
「太郎くん。君の望みはなんだ」
「だから言ってんだろ!金と車だ!」
「君の望むものならマンションの前に用意しておいた」
犯人が下を見るとそこにはカボチャの馬車が。
馬の背中には10円玉が置かれている。
「だから人質を早く解放したまえ」
「へっ!やりゃあ出来るじゃねえか」
犯人は人質を手放しマンションの1333階から飛び降りた。
しかしここで犯人に誤算が生じる。
犯人が落下している最中に馬車を引いている馬が逃げてしまったのだ。
犯人は必死にもがいて馬を追うが、運悪く上空2000mあたりで豚と接触してしまった。
豚の臭さに我を失った犯人はそのまま地面へ衝突する。
起き上がった犯人は逃げようと試みるが
しかし落下の最中にお腹が冷えて腹痛を起こしていた犯人は立つことができない。
あえなく警察に包囲された。
警察署に連行された犯人は犯行動機を次のように語った。
「本当のところ金なんかいらなかった。ただ高いところに登ってテンションが上がっただけだった」
こうして悲しい事件は幕を閉じるのだった。
終わり
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