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1/1001〜男女比1000:1の超逆ハー乙女ゲームの世界に転生したのにもかかわらず女装男子に絡まれています〜後編

僕の家はちょっとだけ伝統のある古い家で。


そのせいか僕の両親は少し世間体を気にするようなところがあった。


二人いる兄は、共に優秀だったから問題なかったんだけれど、三番目の僕は何をやってもだめで……。

その度にがっかりする両親の顔を見ては、自分自身に失望していた。



私立華園学園。


この学園の、高等部の入試を受けたのも、そんな両親の期待を背負っての事だった。


期待を背負って……そして、既に後が無い状態でもあった。


僕はこれまでに小、中、と受験に失敗している……。

背水の陣に、正直、頭も胃も痛かった。




けれど、僕は、その会場で運命の出会いを果たす。




試験会場で、僕は緊張のあまり挙動不審だった。

ついでに、スッ転ぶわ、筆記具はぶちまけるわ、もう散々だった。


そんな僕を、遠巻きに見る者、笑う者、哀れむ者、縁起が悪いと嫌な顔をする者、そもそも感心すら無い者。

それらの反応や視線に晒されて、僕は、ただ惨めで……もう泣きそうだった。


「これ、あなたのですよね?」


そんな僕の前に、声と共に、ばらまいたはずの筆記具たちが塊で現れる。


「え……?」


見ると、制服を着た女の子が一人、僕の前にしゃがんで筆記具を差し出していた。


「あ、いきなり声かけてごめんなさい……あの……これが私の前に転がってきて……あと、実は私もさっき転んだから他人事とは思えなくて……」


そう言った女の子の膝は擦りむいて血が滲んでいた。


(うわ、痛そう……)


僕がじっと傷口を見ていたら、それに気付いたらしい女の子が苦笑いしながら言った。


「あー……えと……絆創膏とか持ってなくて……あなたは怪我とか大丈夫ですか?」


「あ……はい……僕は平気です……」


「それは良かったです」


女の子は、今度は苦笑いではない、しっかりはっきりとした笑顔を浮かべる。


(え……?あれ……?うわ……)


その瞬間、自分の顔に熱が上るのがはっきり分かった。


急に恥ずかしくなって、慌てて立つ僕に合わせて、女の子も立ち上がった気配がする。


顔が見られないから俯いて……それでもやっぱり顔が見たいから上目遣いでちらりと女の子を見たら、女の子は不思議そうにこちらを見ていた。


(かわいい……どうしよう……かわいい……)


僕は完全にのぼせ上がってしまう。

そんな僕に、気付いているのかいないのかはわからないが、女の子は言った。


「私たち、試験を受ける前に派手に転んでおいたから、逆に本番では転ばないかもですね」


「そっ……そうですね!だっだといいですねっ!」


女の子はもう一度微笑みを浮かべると、「今度は同級生として会えるといいですね」と言って去って言った。


僕はその後ろ姿を呆然と見送った。


僕だけでなく周りにいた他の受験生たちも何故か呆けた顔をしていた。


その時はいろいろありすぎて全く気付かなかったのだけれど、よく考えると、『男子校』であるはずの華園学園に女の子の受験生がいるのはおかしい。


その理由を知ったのは、僕が華園学園高等部に入学してからの事だった。


一目惚れの衝撃で始めの緊張を忘れてしまったからか、僕は、無事、試験に合格して、華園学園高等部に入学を果たした。




学園に入って、僕は難なくあの時の女の子を見付ける事ができた。


当然だ。彼女は学園でたった一人の女の子なんだから。

どうしたって目立ってしまう。


ただ、見付けた女の子はあの時と違って、全然元気が無かった。

あの素敵だった笑顔も無い。


「さすがにボッチは辛いなぁ……」


ある時、僕は彼女がポツリと呟いた言葉を聞いてしまった。


『友達が欲しい』

でも、女の子と男の子じゃ、どうしたって距離がある。

それなら……。


僕はある決心をした。



昔、いたずらで女の子の格好をさせられた事がある。

あまりに違和感が無さすぎて、いたずらを仕掛けたほうが黙り込んでしまってそれはそれで複雑な思いをしたけれど、今はそれが有り難い。


彼女を守る為、僕は女の子のボクになる。


学園は全寮制だったし、よほど悪い事をしたり成績を落としたりしなければ、特に何かを言われる事も無かったのは好都合だった。


たまにお堅い先生や風紀委員が小言を言って来る事もあったけど。


「女子の制服を着ちゃいけないって校則はないでしょ?」


と、小首を傾げて見せたら大体が黙った。

たまに頬を染める人がいるのは凄く複雑だった。


残念ながら、ボクにそんな趣味は無い。



とにもかくにも、ボクは女の子の姿で、彼女を追いかけた。


初めはやんわりと線を引かれていたけれど。

徐々に近付いても警戒されなくなった。


でも、あの笑顔は、それからも全く見ることが出来ない……。


「わらえばいいのに……」


「はい?」


『笑って欲しい』

ずっと考えていた事が、ある時、無意識のうちに声に出ていたらしい。

きょとんとした瞳がこちらを見つめていた。


(まずっ……今声に出た……)


そう思ったけれど、相手には全く内容は届いていなかったようだ。


ほっと息を吐いたら、彼女の唇が視界に入ってしまった。


無防備に少しだけ開かれた唇はとても柔らかそうで、そこに自分の唇が吸い寄せられそうになる……。


「あの……よく聞き取れなかったんだけど、今、何か言った?」


彼女の声に、はっと我に返った。


「なっ……何も言ってないっ!」


慌てて表情を取り繕って、彼女の手を引いて歩く。


途中遠巻きに羨望の眼差しを感じたので、そちらを威嚇してにっこりと微笑んだ。


見られた男子生徒たちが頬を染めて散ってゆく。


(あれは『白百合を愛でる会』か……)


ボクが女の子の姿で彼女を追いかけているうち、いつの間にか謎の組織的愛好会が出来上がり、ボクたちを観察の対象にしているらしい。


実害は無いし、虫除けもしてくれるから、存在を知っていても放っておいてる。


彼女が一人になって寂しがるのは嫌だけど、だからといって不埒な輩が彼女に近付くのも許容出来ない。


(ボクだって我慢してるんだ)


でも、もし、もしも、彼女があの笑顔で笑ってくれるようになったら……。


淡い期待は、今はまだ胸に秘める。


彼女の笑顔を取り戻す為、ボクは女の子のボクになるのだ。




彼女の隣で、ボクは今日も女の子のボクでいる。

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