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「社長、助けて下さいよっ!」Ⅲ

色々と絆されてしまった結果として、小見山さんにクリヘの教育を任された私は、取り敢えず彼ら3人のデータと向き合っていた。

参照データは小見山さんに渡された資料の他にも実はあったりする。


(ええと……パラメーター参照するには□ボタンを思い浮かべて……と……)


既にどういう原理か考えるのを放棄したけれど、元々ゲーム外の人間である私は、ゲームの中であるこちらの世界でコマンドの使用が可能らしい。

会話中に「バックログ!今のバックログ!!」と、思う所があって、バックログ参照の△ボタンを思い浮かべたところ、頭の中に会話のログが表れた時は驚いた。


ただし、使えるのはデータ参照系だけみたいで、セーブ、ロード系やタイトル画面に戻ってやり直す……なんて事は出来ない様である。

やり直しで延々ループ可能とか、現実にあるって考えると何と無く怖いので出来てもやらないけど。


兎にも角にも、ゲーム攻略だけで実際にアイドルなんて育てた事が無い私にとって、これは有難い仕様のため、有効に利用させてもらう事に決めた。


(さて……と、彼ら三人の今の状態は……っと)


先ずはピンク色……こと、愛染優(あいぜんすぐる)

身長162cm

体重49kg

3月4日生まれ

魚座のAB型

16歳


男の子にしてはやや小柄で、女の子みたいな可愛らしい顔立ち。

頭髪は染めた訳でも無くピンク色だけど、ゲームの登場キャラクターだからそこは気にしちゃいけない。


実はこの子、小見山さんの縁戚の子であるらしい。

いわれて見れば、髪の色は焦げ茶色の小見山さんとは全く違うけれど、目の色は同じエメラルドグリーンをしている。

……気にしてなかったから、全然気づかなかった。


砂糖菓子みたいな外見に違わず、高めで可愛らしく甘い声をしていて、リズム感も良い。


ただ、気になるのが、他の数値はまんべんなく割り振られてるのに対して、『センス』の数値が異常に低い事。……というかマイナス値。


(ステータスにマイナスなんてあったんだ……)



気を取り直して、次。

黄色こと……二階堂武(にかいどうたけし)

身長181cm

体重72kg

11月2日生まれ

蠍座のO型

18歳


黄色というか正確には明るい金髪が示す通り、彼はお母さんがイギリス人でハーフなんだそうだ。

瞳は吸い込まれそうな青い色をしており、肌も白く透き通ってて綺麗……羨ましい。


高身長としなやかな体躯から繰り出される力強いパフォーマンスは中々に迫力がある。

……んだけど。


(何でこの子こんなにフィジカルばっかり重点的に数値が振られてるの……?)


元々持ってる身体の能力も高いみたいなんだけれど、そこに加えて更なる能力の強化が行われている。


(筋肉に筋肉系割振ってどうすんだ!)



でもって最後、濃紺……瀬戸悠(せとはるか)

身長174cm

体重55kg

7月10日生まれ

蟹座のB型

18歳


自身が持つ寒色系の色合いに違わぬ、(優しく、オブラートに包んで、ものっっっっっすっごぉぉぉく譲歩すれば)クールな人物。


髪と目の濃紺はゲームの登場キャラクターだから以下省略として。口を開けば最悪なそのもの言いも、のち程嫌と言うほど調教してやるから覚悟しておけ、と思っているからいいとして。

問題は彼のパラメーターの数値。


ただの一ミリたりとも動き……変化が無い。


(無!?これ無じゃん!!どうやったら無の状態とか出来上がるわけ!?!?!?)



……と、ここまで確認した訳だが。

なんというか全面的にステータスの振り分けがおかしいし、間違っている。


(ほんと誰だよ、こんな阿呆なステ振りしたのは……)


……。


……。


………………小見山さんだよ……。


自己申告に相違無く、小見山さんはアイドルを育てる才覚が無かった様である。



そんなエトセトラに私が頭を抱えていると、賑やかな声がこちらへ近づいて来た。


「社長〜〜、たっだいま〜!」


「ぐはっ!!」


体に激しい桃色タックルを受けて、私は俄によろけた。

読んで字の如く、犯人はピンク色である。


「愛染くん、出会い頭に全身でぶつかって来るのは止めてって言ったでしょう」


「ぶつかってないよ〜。ハグだよ。ハーグ。あいさつじゃないか〜」


ぷっと頬を膨らませるピンク色に、「そんな激しい挨拶、挨拶として認めるか!」と内心で突っ込んだ。


その時、視界の端に、黄色が準備運動をしている姿が映る。

私は、嫌な予感を覚えて彼に何をする気か訊ねた。


「楽しそうだからオレも混ぜてくれ!」


「お止めろ下さい!!」


黄色にタックルされたら間違い無く私は、吹っ飛ぶか圧迫されて天に召される。

「ゲームの世界で死んだらどうなるんだろう……」という疑問も抱かなくは無いが、そんなもの身を犠牲にして確かめる気は毛頭無い。


「低級が一人増えただけか」


(濃紺、お前、一遍しばきたおすぞ……)


相変わらずな口の悪さを発揮する濃紺をチラリと見た後、私は溜め息を吐いた。


「お疲れ様です、社長」


最後に現れた小見山さんが、紅茶を手にして私の横へとやって来る。どうやらこちらへ向かう途中で用意してくれたらしい。

クリヘには真似出来ないだろう、流石の気遣いだ。


因みに、この仕事?……を引き受ける際、「無しにしてくれ」とお願いした『社長』であるが、実質社長は小見山さんで私はその補助をするという形で話しがついている。

けれど、呼称に関して、私の『渾名』を『社長』にしようという事で押し切られてしまった。


「私は器じゃないんで『社長』と呼ばれると落ち着かないんです」


との言い分だが、私の方が明らかに器じゃないし、私だって落ち着かない。


私は、二度目の溜め息を吐いた。


小見山さんの淹れてくれた、湯気の立つ紅茶を飲むために、今までかけていた眼鏡を外す。


「老眼か?」


「乱・視・で・す!」


その様子を見ていた濃紺が言った言葉を、私はすかさず訂正した。


確かに君よりは、はるかに年上だが、私はまだそんな歳じゃない!

常用じゃなく、時々、眼鏡を使用する人間がすべからく老眼だと思うなよ!


私は三度目の溜め息を吐いた後、紅茶を口に含んだ。


温かい……染み入る……。


横にいた小見山さんが、ニコリと微笑んで、言った。


「いかがですか?」


私も、ニコリと微笑んで答えた。


「美味しいです」



紅茶は美味しいですが、前途は多難です。

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