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全員、其処に直りなさい!【後編】


そんな訳で。


三人並んで正座したところで、お説教を開始する。


彼らの世界に正座という文化は存在しないらしいが、こちらへ来てからの彼らの行動は一事が万事この調子なので、必要に迫られて私が仕込んだ。


「皆さん、いいですか?このゲームを何のためにやっているか、解ってますよね?」


「さやかちゃんが、やりたいから」


「違います」


違わなくなくもないけど、私がゲームをプレイするだけなら、一人でじっくりやりたいに決まっている。


「そうだぞエリオット、沙耶香殿は我々の為に『げぇむ』をして下さっているのではないか!」


「そうです、その通りです。ガートルートさん、よくできました」


「それほどでもない」


エリオットはともかく、他の二人は、彼らが元の場所に帰るために私がゲームをプレイしているという事を、一応、理解してくれてはいる。

ただし、如何せん行動が伴っていないのが問題で、結果、グダグダな負のスパイラルが出来上がっているのだ。


「えー、でもさ〜、ゲームなかなか進まないじゃ〜ん、おれもう、見てるの飽きた〜」


「飽きた……言うに事欠いてなんてことを……」


「貴様、沙耶香殿のこれまでのご苦労を無に帰すつもりか!」


エリオットに関しては、若いからか、本能だけで生きているからか、ゲームをやる意味を端からもう理解していないらしい。


今までも、ただ、自分たちが出ているゲームを、物語として見ている感覚だっただけなのかも知れない。


要、教育である。


「あの、思ったんですけど」


そこで、ずっと黙っているな……と、思っていたシルヴァリスが口を開いた。


優雅にカップを傾け、お茶を飲んでいる。


この短い時間で、いつの間にか台所からお茶を入れて用意していたらしい。


ゲーム中では、元々、仕事の出来る設定の人なので、こちらに来て五日も経てば、さっとお茶をいれるくらい朝飯前の様だ。


だったら、ぜひとも、先ほどから声を出し続けて喉を酷使している、こちらへの心遣いと気遣いも欲しいところだと思わなくもないが、今回それは発揮されなかったらしい。……次回に期待する。


「ゲームの主人公さんがゲームの中の私を攻略するのではなく、いっそ、現実の沙耶香さんが私を攻略した方が効率がいいのではないでしょうか?」


「……シルヴァリスさん……どういう理屈でその結論にたどり着いたんですか、訳が分かりません」


「いえ、私も、ぶっちゃけ見ているのに飽きまして、知りもしない虚構の乙女と恋愛するよりは生物(ナマモノ)の沙耶香さんのほうが面白いかなぁ……と」


ぶっちゃけ過ぎです。

というか、さっきまで『大変ドキドキ致しますね〜』とか言ってたのに、気が変わるのが早すぎる。


「シルヴァリスさん、面白いか面白くないかで恋愛をしないで下さい」


「いえ、見ているだけなら他人事ですが、やるとなれば私も本気で行きますよ……ねえ、ガートルートさん」


常に若干微笑を浮かべているシルヴァリスだが、今は心なしか『ニヤニヤしている』と、表現したほうがいい顔をしている風に見える。


そして、なぜ、そこでガートルートに話を振るのか?


ガートルートを確かめ様とそちらを向きかけたら、ものすごい勢いで反対側を向かされて、両手で顔の向きを固定された。


見るなということ?


「そ、そういう遊び感覚で恋愛をするのは好かない」


「おや?遊びじゃなければいいですか?」


「貴様……」


よく分からないピリッとした空気が流れかけたが、それを明らかにぶった切る奴が居た。

飽きた犬、エリオットである。


「ゲームでも現実でもなんでもいいからさ〜、さやかちゃん〜、おれと遊ぼ〜」


また腰の辺りに腕を回してじゃれついてくる犬を制したのは、私の顔を固定したままの手の主だ。


「エリオット、貴様いい加減にせんか!沙耶香殿から離れろ!」


「え〜、やですよ〜。ガートルート団長だって、ずっとさやかちゃんにくっついてるじゃないですか〜」


「くっついてなどな……くなくもないっ!!」


「どっちですかぁ〜?」


「心が狭いですね〜、ふふふっ」


またしても彼らは騒ぎ出す。


どいつもこいつも、本とに、ゲームの中に帰る気があるんだろうか……。


結局また、私は、もはやスキルになりつつある怒声を炸裂することになった。


「だからっ!あなたたち、もう一度、全員、其処に直りなさい!!!!!」




後日、更なる厄が訪れる事など、この時の私はまだ知らない。





「あれ?」(シルヴァリスさんとガートルートさんとエリオットさんが居ないようだけど……コンビニかな?)


「失礼。貴殿はここの家主だろうか?」


「…………………………キリアン王子?」

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