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全員、其処に直りなさい!【前編】

全員、其処に直りなさい!乙女ゲーム、『イリスファンタジア』の中から、三人の攻略キャラクターが現れた。

でもこの人たち。なんだか凄くへっぽこで……。



『私は貴女に救われた……だから今度は私が、そんな貴女を支えたい。そう思うのです』


“そう言ったシルヴァリスの湖の如く青い瞳を、アイリは見つめた。”

“見つめ返すシルヴァリスがふわりと微笑む。”


『貴女の側で……そうする事を、お許し願えませんか?』


“シルヴァリスがアイリの手を取り、その甲にそっと口づけを落とした。”


“アイリは、自らの頬が熱を持って行くのを感じる。”


『ええ、わたくしで良ければシルヴァリスさまのお……「ねぇ〜、おれは〜?おれのルートま〜だぁ〜?」


浸りかけていたシナリオの流れをぶち壊す様に耳元で声がして、体を揺さぶられる。


大事なところを邪魔されて、自分の顔が半眼の表情に見える事で有名な某スナギツネみたいになって行くのを感じたが、相手は全くそれに気付かずに腰の辺りに腕を回してこちらを覗き込んで来た。

オレンジ髪のワンコ顔が間近に迫る。


「エリオットさん、邪魔です。ステイ、そして、ゴーアウェイ」


その顔を片手でぐいぐいと押しながら、言うと。相手……エリオットは、「えー」と言いながら、不満げに唇をつき出してこちらを見た。

そんな行動をしても、自分が可愛く見えるのだと、半ば自覚してやっているのに腹が立つ。

金の瞳と視線が交わって、溜め息が出た。


「ゲームプレイ中は、邪魔したり、声をかけたり、絶対しないで下さいって、私、散々言いましたよね?」


「そうだぞ!それに、貴様は『とりあつかいせつめいしょ』の並び準的に後ろから二番目だろう!沙耶香殿は順番に攻略したい派だと聴いていなかったのかっ!!」


エリオットの顔があるのと反対側からもう一つ、別の顔がつき出してくる。

精悍な顔立ちをしかめっ面にしてエリオットを睨んでいた。


顔の左側にある傷がアクセントになって、凄みを増している。


「え〜……だって、二日前にキリアン王子が終わって、その次がシルヴァリスさんでしょー、でもって次がガートルート団長でその次にブライアンって人だっけ?で、おれその次じゃん!まーてーなーいー、まーてーなーいー」


「あの……」


「エリオット!貴様、大人しくせんか!!」


「ちょっと……」


「ガートルート団長は3番目で次だからいいじゃないすか〜」


「だから……」


「いやはや客観的に自分の恋愛事情を眺める事になろうとは、大変ドキドキ致しますね〜」


「……」


緩く編まれた三つ編み。

モノクルを着けた顔に柔和な微笑みを浮かべた三人目の、のほほんとした声が割り込んだ時。

遂に私の怒りは臨界点に達した。


「ええいっ、黙れ!!あなたたち、全員、其処に直りなさい!!」




遡る事五日前。

私はアニメショップ限定特典付きでとあるゲームを手に入れた。

『イリスファンタジア〜花売り娘と幸せの魔法〜』


歌の大好きな花屋の娘、アイリ(デフォルト名)が、王国を巡る陰謀に巻き込まれながらも、その歌声の持つ魔法の力で人々を癒して行く、ロマンチックファンタジー……平たく言うと乙女ゲーだ。


ゲームをプレイする時、独自の縛りやこだわりでもって攻略していく人も一定数居ると思うんだけど、私のそれは『取説のキャラクター紹介順に前から攻略していく』というやつで。

今回もその例に漏れず、並び順一番目、メイン格であろう王子様キリアンの攻略に先ずは取りかかっていたところだった。


プロローグを終えて、オープニング曲の映像を眺めながら「ふむふむ、こんなシーンがあるのね、うふふ」とかニヤニヤしつつ、本編に入って、幾つかの選択肢を終えた辺りでそれは起こる。


ゲーム画面のいきなりのホワイトアウト。

それだけならバグか動作不良だと思うところだけど、この現象は、その後が決定的に違っていた。


画面どころか部屋全体に白光が満ち溢れ、やがて……。


ドサドサドサッ


三つの落下音と共に、私の上に尋常じゃない重みがのし掛かる。


「ガートルート団長!ガートルート団長!おれの下に女の人!女の人がいるっ!」


「エリオット!この状況下において、貴様が先ず気にするところはそこか!!」


「おお!おれの上にはガートルート団長!」


「ふふふっ、一番上は眺めがいいですね〜」


「あの……はやく退いて……しぬ……」


光が止んだ時、私の上に出来上がっていたのは、『(デス)へと()彫刻柱(トーテムポール)』だった。

そして、その彫刻柱(トーテムポール)たちの正体は、たった今、私がプレイし始めたゲーム、イリスファンタジアの攻略対象キャラクターたちであった。


石英騎士団団長、ガートルート。


同じく、従騎士のエリオット。


それから、イリス王国の若き宰相、シルヴァリス。


彼らは、今しがたの私と同じく、突然、光に包まれたと思ったらここに居たという事で、原因並びに帰りかたは分からないという事だった。


それから、会議をした結果導き出されたのが。

取り敢えずゲームを最後までやってみたらクリアボーナスとして、この状況、なんとかなるんじゃない?

という、非常にアバウトなものだった。


でも、まぁ、どのみちゲームはやるつもりだったし、やってくうちに何か他に解決策が見えてくるかもしれないし。

そう思った、私の判断。

しかし、今となっては、当時の自分は甘かったと言わざるを得ない。


どういう事かと言えば、とかく彼らは大人しく出来ない人種であったらしく、ゲームの攻略が難航してしまったということだった。


従騎士のエリオット。

どうやら彼は、甘えたがりの気があるらしく、ゲーム中とにかくべったりとくっついて来る。

その上、無視していると、かまって欲しくて横からちょっかいをだして来るので、非常に困る。

彼のせいで何回ゲームを中断したか知れない。


石英騎士団団長のガートルート。

彼は一言で言うと、『オカン』だ。

生活面ではやたらと世話を焼いて来るので、助かる時もあれば、若干暑苦しい時もある。

しかし、このオカン具合が、エリオットに対しては口うるさい方面で遺憾なく発揮されてしまう。

ゲームの邪魔をするエリオットに口を出しつつ手も出る。

その煽りを食って、何度ゲームがリセットされたか知れない。


イリス王国の若き宰相シルヴァリス。

良くも悪くも天然マイペースである。

三名の中で唯一、ゲームで絶賛攻略中のキャラクターなんだけれど、ゲームでは彼を引き立てるシナリオがあるから分かるその切れ者な部分も、シナリオの無い現実ではさっぱり実感出来ない。

エリオットとガートルートのやり取りで疲弊した心に、とどめをさすのは大概この人だ。


そんな混ぜるな危険の三人のせいでゲームは遅々として進まず、一人目を攻略するのに私ともあろうものが三日もかけてしまったのは屈辱の極みである。


思い出したら、また腹が立ってきた。

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