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その人たち、結託してます〜転生悪役魔女と次元を越えた迷子、時々、????〜 5、????、????の呟き

『あなたのめ、わたしのめとおんなじいろをしてるのね!』


子供特有の舌足らずな声でそう言われて、同じ色彩の瞳で見詰め合った時。

己の心は、全てこの人に捧げるのだと決めた。


***


「あ……」


あっちはお嬢様の部屋を出たところで、こっちはお嬢様の部屋に向かうところだったのだから、そりゃ出会(であ)うだろうけど。

上手く時間をずらして避けていたつもりだったのに、向こうの話が長引いたのか、出会(でくわ)してしまって、思わず声が漏れたのは仕方ない。


「ども……って、そのあからさまに顔をしかめるのいい加減止めてもらえません?あれから一週間経ったんだし、同じコーネリアの使い魔仲間なんですから」


それは重々理解している。

が、それと気持ちの上で納得出来ているかは別問題で。


今まではボクだけのお嬢様だったのに、最近現れたコレにお嬢様と二人だけの時間を奪われてしまった事を、恨みがましく思う気持ちは、なかなか収まりがつかなかった。



ボクの大事なお嬢様、コーネリア様の元に、コレが現れたのは一週間前。


突然目覚めたお嬢様の前世の記憶とやらに、これから先、お嬢様が破滅へと向かう運命であるとの情報が含まれていたらしく。

そのため、お嬢様は、『ふらぐ』とやらを回避するために使い魔を呼び出した。


ボク以外の誰かがお嬢様の側に居るのは、正直、全く面白くないんだけど。

お嬢様は人ではないモノを呼び出すと言っていたし、お嬢様が居なくなるのはもっと嫌だから、渋々、使い魔を呼ぶ事を了承して見守っていた結果、現れたのが、人であるコレだった。


それだけでもあまり歓迎出来ないのに、どうやらコレはお嬢様に秘匿しているボクの過去を知っているらしい。


秘匿……というか、言えないだけではあるんだけど……。


「あのですねぇ……別に私、あなたからお嬢様を取ろうと思ったりしてないんで安心してくださいよ。仲間サイドに変にツンケンされるとやり辛いというか……あ、あれか!『例のアレ』に関しては、絶対、コーネリアには言わないんで大丈夫です」


コレのもう一つ困る事は、少々、察しがいいところだ。


普段はお嬢様と一緒に、『おしきゃら』がどうのとか、『さいもえ』がどうのとか、意味不明な頭の温かい会話を繰り広げているのに、時々こちらの核心やら痛いところを突いてくる。


そこに関しては、お嬢様よりも『げーむ』の世界とやらに詳しいらしいのも原因なんだろうけど。


「あと、もう(ひと)つ、いつ訊けるかわからないし、ついでだから気になってた事、訊いちゃいますけど、さっき使い魔仲間なんて言っておきながらなんなんですが……雛菊さん、なんでコーネリアの使い魔のふりしてるんですか?」


本当に、コレは察しが良くて困る。


後半のほうをボクにしか聴こえないくらいの大きさに落として言った辺り、理由のほうも大方(おおかた)の当たりを付けているに違いない。


「……それも『げーむ』とやらの知識か?」


聞き返せば、そうではないと首を振られた。


「いいえ、そもそもあなた、ゲーム中ではコーネリアの側に居ないので、そうする理由も必要もないんですよ。ああ、でも……」


そう言って、指で自らの瞳を示す。

そこには、お嬢様の使い魔としての証である、お嬢様と同じ色彩が宿っている。


「コーネリアの目と、色の濃さが違うっていうのが判ったのは、ゲームの立ち絵とかスチルとか見て覚えてた影響だから、ゲームの知識と言えばそうかも知れない」


魔力濃度の違いによる、魔眼の色の違い……お嬢様と自分にはそんなに大きな魔力の差は無いはずだったので、そこに気づかれるとは思っていなかった。


使い魔の契約の証に、主人の特徴を体に上書きするというものがある。

お嬢様の場合、それは瞳の色で。

その色の違いに気付けば、ボクがお嬢様の使い魔でない事は一目瞭然だろう。

盲点だった。


「いや、イラストだとだいぶ違いがあるんですけど、実物だとそんなでもないんで……問題はこっちのほうです」


そう言って、相手は空中を指差した。


「雛菊さん、『コレ』見えて無いですよね?」


『コレ』と、言われた場所には、何も無い空間が広がっている。

ただし、『ボクの目にはそう見えている』というだけのようだ。

実際は『ナニカ』が居るらしい。


「観察眼の()せる業なんですかね?視点の誘導を上手く合わせて、誤魔化してたりしたみたいですけど、一回、『あれ?』って思うと見えて無いんだなって薄々思い始めるわけですよ……で、芋づる式にそういや目の色の違うよなっていうのに気付いて、まあ、そうじゃないかなぁ……って」


コレがお嬢様の使い魔になったという事は、本来なら、お嬢様のもう一人の使い魔であるはずのボクと同じ立場になる。


主人と使い魔は五感の幾つかを共有するのが可能で、お嬢様さまの場合、視覚と味覚はとりあえず共有が可能だが、それはお嬢様が抱える使い魔同士でも通常ならば可能なはずだった。


ボクの小細工に、心配なほど単純なお嬢様は誤魔化されてくれたけれど、こちらはそうはいかなかったみたいだ。


元々は咄嗟についた嘘だった。


お嬢様に出会った……拾われた時、ボクは任務の失敗によって作戦を離脱している最中だった。

毒に侵され朦朧としていたボクは、避暑地の別荘で過ごしていたお嬢様に拾われ、そこで看病されたらしい。


目覚めたボクにお嬢様がした、「あなたはだあれ?」という質問に、里の事や任務の事を明かすことができないボクの口から咄嗟に出たのが、「あなたの使い魔です」だった。


冷静であれば、もっといい理由が思いついたのかも知れないけれど、その時、お嬢様の金色の瞳に魅了されていたボクの口からはそれしか出て来なかった。

自分以外の魔眼持ちに会ったのは初めてだったから……。


魔眼に魅了されていた(くだり)は暈して経緯を伝えれば、相手は「ふむ、なるほど」と言って頷いた。


「見たところ、コーネリアに危害を加える……とか、そういう様子はなかったんでコーネリアには訊かずに雛菊さんに(ちょく)で確かめた訳なんですけど」


「お嬢様を傷つけることだけは絶対にない」


「ああ、そんな感じですね」


言いながら、微妙にニヤついた顔をしているのは、これも理由に心当たりがあるんだろう。

ホントにコレは察しが良くて嫌だ。


「なんで、未だにその辺を隠してんです?もうだいぶ時間が経ってますし、昔の任務も流石に時効でしょ?」


「同じ任務についてた仲間にしつこいのがいる。あれを何とかしてからでないと安心は出来ない」


「ああ、以蔵(いぞう)……あの人、お館様大好きで粘着質ですもんねぇ……」


「あいつを……知っているのか……」


自分の事もどれくらいコレに知られているのか……考えると、恐ろしい。


「じゃあ、しばらくは、コーネリアにも黙っておく必要があるのかな……あの、提案なんですけど、魔眼持ちで魔力があるなら、雛菊さんも、私を、使い魔にしません?」


「は?」


その申し出に、一瞬、呆けてしまった。


何を言っているんだ……。


確かに、ボクは魔力持ちだから、手順が解れば使い魔の契約は出来るだろう。

が、その前に、相手は既にお嬢様と使い魔の契約を交わしている。


「知らないのか?二重契約は使い魔側に何らかの罰が課せられたはずだ」


「あー、存じてます、存じてます。その辺、コーネリアに初日にレクチャーされたんで、存じてます。でも、ビッチが言うには……痛っ、分かった、付ける!せめて敬称は付けるから体当たりを止しなさいっ!」


何も無いところからガツンと硬質な何かがぶつかる音がした。


「……では、改めまして……ここに居るビッチくんが言うにはですね、私たちは特殊で二人で……二人って言っていいのかな?……痛っ、分かった、二人で!……一つの契約を半分ずつしているらしくって、もう半分ずつを合わせると、一人分の契約余剰が出来るらしいんです」


言われた内容は、「それちょっと卑怯じゃないか?」と、言いたくなるものだった。

要するに、二名で一人の主から契約を請け負っている彼らは、もう一人くらい主人を持っても問題ないという事らしい。


彼ら自身が変則的に呼び出されている事と、ボクとお嬢様の目的がほとんど一致しているが故に押し通せる業……らしかった。


「私と雛菊さんが主従で繋がっていれば、コーネリアとも間接的に繋がってるんで、そのままでいるよりは、当面誤魔化しが利くと思うんですけど、いかがでしょう?」


確かに悪くない提案だった。

それに、コレの持つ情報は、反目し合えば厄介だが、味方となれば此れほど頼もしいものもない。

これからの事を考えるなら、関係は友好的なほうがいいだろう。


以蔵(かつてのなかま)と対峙するなら、なおのこと。


「……分かった、契約しよう」


「了解です!……あ、ついでだから、お願い一つ、いいですか?」


「なんだ?」


「私のこと、『アレ』とか『ソレ』とか『コレ』とか、『お前』とか『あんた』とか呼ばずに、名前で呼んでもらえませんかね?なんか器物感溢れてて……痛っ!なに!?さっき私も『コレ』って言ったって?分かった!ごめん!ビッチくん!ビッチくん!分かったから!痛いって!!」


また、何も無い空間から、コンッ、カンッ、と、激しい音がする。

そんなに激しくぶつかって、お互い大丈夫なんだろうか?

なんとも締まらない連中だ。


思わず笑ってしまう。


「くっ、ふっ……ボクも」


「はい?」


「ボクも、名前でいい。敬語は要らない……よろしく、凛子」


「よろしく!十蔵!」


「……雛菊」


「雛菊!」


そして、お互いに握手を交わした。


「ところで、なんで雛菊なの?」


「教えない」


そこは彼女も知らない情報らしい。


だから、この名前に関する思い出は、ボクとお嬢様だけの秘密だ。


ボクは、雛菊。

お嬢様の側近の、雛菊。


お嬢様をお守りするため、側に居る。

今は、それだけでいい。



【隠密、雛菊の呟き】

「あのさ、質問ばっかりであれなんだけど」


「なに?」


「なんで、女装でメイド姿なの?潜入でそういう必要がある時もあっただろうけど、コーネリアの前で女装(それ)必要ないよね??」


「お嬢様が……」


「コーネリアが?」


「『美少女メイド万歳!』って、キラキラした目で勘違いし続けるから、正せなくて……」


「あー……御愁傷様です」

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