その人たち、結託してます〜転生悪役魔女と次元を越えた迷子、時々、????〜 4、次元を越えた迷子、佐倉凛子
その、機体に付属している可変式コントローラー……通称、Beeコンをパタパタと羽の様に動かして浮いている物体は、どう見たって、ゲーム機の『Bee−S watch』だった。
『小さな体で、突き刺す面白さ』を、キャッチコピーに売り出している小型ゲーム端末機であり、乙女ゲーム、虹のアルカディアはこのゲーム機のソフトとして発売されている。
「え?BSがどうかしたの??」
私の呟きに、転生者であるコーネリアは、即座にBee−S watchの略称を呼んで反応したが、隣の雛菊のほうは胡散臭げな視線を投げてくるだけだった。
「いや、そこに空飛ぶBSが……」
「どこに?」
「錯乱して幻でも見てるんじゃないですかね」
……なんだろう。
初対面からこっち、雛菊とやらの私に対する態度や発言が辛辣だ。
いや、辛辣な物言いは、お嬢様に対しても多少しているので、元々そういう人なのかも知れないんだけど、私に向けては、さらにもう一段階、棘がある。
そして、この人どう見ても、虹のアルカディア2周目以降に出てくる隠しキャラで東域のお館様の千里に仕える隠密、以蔵と十蔵の、十蔵のほうだと思うんだけど……。
なぜ、別の名前でコーネリアのメイドをしているのか……謎だ。
ちらりと雛菊を見たら、微笑みという名で睨まれた。
十蔵の特技は、偵察と暗殺……今はこれ以上深く詮索するのは止そう。
一先ずは目の前の BSだ。
パタパタと羽ばたくBeeコンを掴んで、こちらへと引き寄せる。
「ちょ、ちょっとっ!吾輩は繊細なのでふ!やさしく……包み込む様に優しく掴んでくだしゃいっ!」
捕獲されたBSは、私の手の中で暴れ出す。
このゲーム機、ゲーム機の癖にやたらと活きがいい。
暴れるBSに合わせて、上下左右に激しく動く私の手を、今度は雛菊でなくコーネリアが訝しげに見詰めて来た。
「ここに、BSがあるんだけど……もしかして、コーネリアには、見えてない?」
「え……ええ。私には、あなたの腕がラジオ体操している様に見えるわ」
腕を前から上にあげて大きく背伸びの運動から〜〜……って、マジですか。
「吾輩はこちらではオーパーツの扱いでふからね、今はご主人にしか姿は見えないのでふ!」
BSはそう言うと、エッヘンとでも言いたげに体を仰け反らせた。
よくよく見ると、本来はゲームの映像が映るはずのスクリーン部分の中心に、顔文字みたいなアイコンが表示されていて、ドヤ顔を決めている。
「でも、ご主人がそちらのご主人と正式に使い魔の契約をすれば、吾輩の、姿だけは、そちらのご主人に見える様になると思うのでふ」
「……だ、そうです」
BSの言葉はコーネリアには聞こえていないので、話を聴きながら同時に内容を伝える。
BSの言葉を聞く限りでは、コーネリアと私が使い魔契約を結んでも、BSの姿が見える様になるだけみたいだが……。
百聞は一見に如かず。確かに、怪訝な顔をされ続けるより、現物を見てもらったほうが話の通りはいいかも知れない。
それから、今までの流れを統合して考えるに、使い魔契約をしようがしまいが、たぶん私の帰れない現状に違いはないと思われるので、この際さっさと契約交わして次の課題に取り組んだほうが早いだろう。
具体的に言うと、この世界での私の、衣・食・住、の確保。
昼寝付きならなお良い。
「コーネリア。先ずは、その使い魔契約っていうのをしようと思うんだけど、どうすればいい?」
「え、いいの?」
「いいの、も、なにも。そのために喚んだんでしょ?それとも、使い魔になる事で何か危険でもあるの?魂とられるとか?」
「この場合、魂とられる可能性があるのは使い魔より契約主のほう……って、そうではなくて!」
コーネリアの心配は、『そもそも使い魔を呼んだ目的が自分の死亡ルート回避のためだから、端から危険な事に巻き込む前提の呼び出しなので、あなたはそれでいいの?』という事らしい。
本来は、こちらの世界の魔術書なりなんなりそれらしい物が来る予定だったので、ゲーム外にある異世界の人間が来るなんて想定しておらず、巻き込むのは心苦しい様だ。
巻き込まれた時点で帰る方法がないという悲しいお知らせを聞かされたこちらとしては今さらだし、マスクの無い件でコーネリアの死亡フラグは回避出来ているはずだから大丈夫でしょう……と思ったら、よく考えてみると、そもそもこのコーネリアが私を呼び出すに至った経緯が、前世の不完全な乙女ゲーの記憶にあったのだと気がついた。
けれど、私がその件をコーネリアに伝え様としたら、BSから「その判断は早計でふよ」という横やりが入る。
「……どういう事?」
「このゲームの世界にはあらかじめ神様に設定されたプログラムとシナリオという強制力があるのでふ」
BSが言うことには、今までのこの世界は、そのプログラムとシナリオの強制力があるゲーム本編の世界に追い付いておらず。
また、コーネリア自身の魂に、前世がゲームのプレイヤーだったゲーム外の世界の魂が入っていたために、強制力よりもコーネリアの魂にある生きる力が勝っていたので助かって来たのではないか……との事だった。
しかしこれから、世界はゲーム本編に突入する。
そしてそこには、ゲームの強制力に対して強い影響を持つ 主人公が現れる。
彼女の選ぶ選択肢によっては、例え前世の魂の力を持つ今のコーネリアと言えど太刀打ち出来ないかも知れない。
コーネリアにゲームの知識がないなら、状況は、なおさら、不利である。
「そこで吾輩達の登場なのでふ!ゲームのデータベースでもある 本体の入った吾輩、そして、主人公そのものではないものの現役のプレイヤーであるご主人!二人が揃えば、鬼に金棒!主人公の行動など大した事はありましぇん!」
「ん?」
「いやー、前のご主人の救援要請をたまたま受信して、助けたいと思ったのはいいものの、吾輩、今はご主人のモノでふから、そこから繋がりの繋がりの繋がりを使って……」
「STOP!……今の、どういうこと?」
「今のといいまふと?」
「今の、繋がりの繋がりの繋がりのちょっと前らへんからの件」
突然聴こえた、聞き捨てならない部分を問い詰めると、どうやらこのBS、元はコーネリアの前世にあたる人物の持ち物で、それがフリマアプリや中古ショップそして私の兄の手を経由して、めぐりめぐって、私の手に渡ったものだったらしいと判明した。
で、ゲーム世界に居る、かつての主人からの使い魔召喚に対する呼びかけを偶然拾い上げたこのBSは、自分がその召喚に応じたかったものの、今は私の所有物であるという制約があり、直接召喚に応じる訳にもいかなかったらしい。
そこで、呼び出しに記載された内容の合致と、BSとの縁を繋いで繋いで繋いで、私をコーネリアの使い魔に仕立て上げ、BSはその眷族の枠におさまった……と。
「でもまあ、直接、前のご主人から呼び出されても、吾輩オーパーツ扱いで視認されなかった恐れがありまふので、結果オーライでふね!」
要するに。
「お前が原因じゃねぇかっっ!!!!!」
出だしは、自分の元の主人を助けたいという、ゲーム機の健気な想いからだったのかも知れない。
けれど、結果としてそれに巻き込まれたのは私で、帰れなくなって困っているのも私だ。
赤の他人を巻き込んでんじゃねぇよ……という思いをありったけ込めてこのBSを力一杯シェイクした私は、なにも悪くないと思う。
そんな私を、コーネリアは、まだBSが見えないながらも「一応、精密機械だからそこら辺で止めてあげて!!」と、制止して。
雛菊は、「こいつまた奇行に走ってるな」という、相変わらずの冷ややかな目で見ていた。
ついでに私は、腹いせとして、このBSの名前を以降『ビッチくん』と呼ぶ事に決めた。




