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その人たち、結託してます〜転生悪役魔女と次元を越えた迷子、時々、????〜 3、次元を越えた迷子、佐倉凛子

眉間に指を当ててるポーズを取りながら、反対側の手のひらを突き出す。

「少し情報を整理する時間をくれないかブラザー」と、言いたいところだけど、それはぐっと我慢した。



先ず、ここは乙女ゲーム、『虹のアルカディア』の世界である。

……OK。


それから、今、目の前に居るのは、虹のアルカディアの登場人物で、攻略対象の王子様、『クラウド』と対になってる厄災の魔女『コーネリア』である。

……OK。


更に、このコーネリア、実は、私のいた世界と同じ世界から生まれ変わった転生者で、かつては、虹のアルカディアをプレイしていたらしい。

……OK。


そして、ある日。突然、前世の記憶に目覚めたコーネリアは、自分が厄災の魔女と呼ばれる悪役キャラだって事を思い出して、大慌て。せっかく生まれ変わたのに死亡フラグってどういうことじゃーい!と、思って、待ち受けている己の運命を回避しようと思い立った。

……なるほど、最近よく見かけるアレやソレと似たようなやつですな……OK、OK。


ところが、コーネリア。虹のアルカディア、ゲーム本編の大事な部分の記憶がなくて、さあ大変。状況を打破するために、お助けキャラの使い魔を召喚しようと思ったら、なぜかそこに現れたのが、現代日本を生きる女子高生、こと、私、佐倉(さくら)凛子(りんこ)であった。

……今日の夕食のメニュー、ナスの煮浸しを、楽しみにしていたのに食べられなかったのが盛大に心残りだけど……まぁ、OK。


でもって、使い魔なんだけど、呼び出す時は召喚者の力で出て来て、帰る時は、基本、使い魔自身の力で帰還するらしい……と。

……OK。


…………………………………………。

…………………………………………。

…………………………………………。

…………………………………………じゃないよ!



自力で帰るってなに!?

無理じゃん!絶対絶対、無理じゃん!

(われ)JK(ジェーケー)ぞ!?日本国にて、ごくごく一般的な生活を営んできたJKぞ!?

そんな力、持ってる訳があるかいっ!!!!!



……一応、一応ね。

「もしかしたら、異世界召喚ボーナスで、チート能力授かっちゃってるかも!」なんて思って、ちらっと確かめてみたりはしたんですよ。でも……。


ダメだったよね!清々しいくらい、何も出来なかったし、起こらなかったよね!



そんな訳で、情報整理していたら思い出し苛立(いらだ)ちのボルテージを上昇させてしまった私は、気が付けばその勢いのまま握り締めた拳をブンブン振り回していた。


「っっ……ごめんなさい……私も、まさか前世の次元から今世の次元に人や物が呼び出せるなんて思ってなかったのよ……」


そんな私の挙動に、コーネリアはビクリと体を震わせた後、眉を下げた顔で、申し訳なさそうに言う。


私も今日の夕飯時までは、まさか自分が異世界どころか次元を越えて二次元の世界に召喚を受けるなんて、思ってもいなかった。


二次元……。


これ、二次元と言っていいんだろうか?


今、眼前に広がる光景は、紙に書かれた文字や図形、布や食器類の模様を除き、立体ばかりで構成されている。


コーネリアだって、ペラペラしてないふっくらした質感だし。

私が座っている、コーネリアの部屋に備え付けられた「さすがお嬢様の部屋!いい家具使ってる!!」と、叫びたくなるくらい、立派なソファーだって、座り心地が大変よろしく、恐ろしいまでにふっかふっかしているため、うっかりこのまま寝入ってしまいそうな誘惑に駆られてしまう。


出されて口にした紅茶は、「割ったらどうしよう」という不安を煽るお高級なカップに入っていたし、温かかったし……大変美味しゅうございました。


つまり何が言いたいかと言うと。

こんな存在感のある現実を、果たして、二次元と呼んでしまっていいものだろうか……?



改めて、コーネリアを見る。


彼女の特徴である、美しい深紅の巻き毛に、この世界で強い闇の魔力を持った人の証らしい金色の魔眼。

見たことのあるイラスト姿という訳では無いのに、「実写版のコーネリアはこの人です!」と、断言出来る位にコーネリアだと思えるのは、私が彼女から既に、前世云々の話を聞いてしまっているからかも知れないけど。


(あれ?でも……)


そこで、記憶しているゲームの中のコーネリアと、目の前のコーネリアに差異がある事に気が付いた。


(そういえば、コーネリアって、顔の右側にマスクしてなかったっけ?)


厄災の魔女、コーネリア・ルサールカがもう一つ持つ、外見的な特徴である、顔の右半分を覆ったマスクをこのコーネリアはしていない。


幼い頃に王子様、クラウドの生誕を祝うお祭りに使われていた松明が倒れて来て負った火傷の痕を隠す為に着けられているマスク。


コーネリアは、クラウドが15歳の誕生日を迎えるパーティーの席で、来賓の一部にクラウドの美しさと比較されながら陰口を叩かれた事に怒り、その場にいた者に魔法で制裁を加え。

更にほとんど言い掛かりに近くはあるのだが、自分がマスクを被る原因になった祭りが催された理由であるクラウドに呪いを掛ける。

これが、コーネリアが厄災の魔女と呼ばれるきっかけであり、王子(クラウド)ルートでの本筋となる。


ゲームをプレイしている時、コーネリアのそのマスク姿と、名前の『ルサールカ』、それから、ルートシナリオ終盤にある、炎に包まれながらの『私はずっと、地獄の業火に焼かれながらそれでも天国に憧れているの』というセリフから、「もしかして、コーネリアはオペラ座の怪人モチーフか!」と考察して、実際、公式ファンブックで『コーネリアのデザインモチーフはファントム』の文字を見付けた時は考察が合っていたと、ファンブック片手に乱舞したものだけど。


そのマスクが、このコーネリアには無い。


(というか火傷の痕がなければ、コーネリアはクラウドに呪いなんか掛けてないだろうし、破滅フラグほとんど回避出来てるも同然なのでは……?)


ここへ来て、私の呼ばれた目的すらも失なわれた説が誕生した。


(迷子……私、来た意味も帰り道も、完全に迷子……)



「あのさぁ、お嬢様……この人、ものすごぉぉぉく、頼りない感じするんですけど、大丈夫ですかねぇ」


そこで、うちひしがれる私に追い討ちをかける非情な声が聞こえる。

そちらを見れば、メイド服に身を包み、胡乱げな視線をこちらに投げている黒髪の少女が立っていた。


いや、居るのは最初から気付いていたんだけど、はっきりと視界に入れたのは今この時が初めてで……そして、はっきり顔を見たが故に判った事がある。


「何でじゅうぞ……もががっ……」


口にしようとした瞬間、超高速で鼻と口が塞がれた。

息が、息が出来ない。


「(今後、お嬢様の前でそれを口にしたら、あんたの息の根を止める)」


恐らく、コーネリアに聞こえない様に小声で。

しかし、ドスの利いた声で、『彼』が私に告げる。


(さ……さすが暗殺者……一瞬で、隙間なく、的確に、気道が塞がれている!)


その鮮やかさたるや、既に私に三途の川の気配が感じられる程だ。


これは危険だと、直ぐ様、了承と止めてくれの意を込めて相手の腕をタップすると、小さな舌打ちと共に腕が離される。


「自己紹介が遅れまして申し訳ございませ〜ん、ボクは、お嬢様の側近をしております、ひ・な・ぎ・く、と申しますぅ〜」


そして、にこやかな声で、じゅうぞ……改め、雛菊(ひなぎく)とやらは、私に言った。

()ぇぇ……明らかにプレッシャーかけてるし、目がちっとも笑ってないよ……恐ぇぇ……。


しかし、そんな私に、別方向から更なる追加攻撃が加わる。


「いやはや、大変でふねぇ」


声の主は、コーネリアでも、じゅうぞ……改め雛菊でも、もちろん私でもない。


そいつは、四角くて薄平べった〜い、私のよく知るゲーム端末機の姿をしていた。


Bee(ビー)(エス) watch(ウォッチ)……?」

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