その人たち、結託してます〜転生悪役魔女と次元を越えた迷子、時々、????〜 1、悪役魔女、コーネリア・ルサールカ
ある日、私は思い出した。
この世界が前世でプレイした事のある、乙女ゲームの世界であり、自分がその中に登場する厄災の魔女、コーネリア・ルサールカである事を。
それと同時に、とんでもない事にも気がついた──。
この国の王子様が15歳の誕生日を迎える日。
パーティーの席で私は思い出した。
この世界が前世でプレイした事のある、乙女ゲームの世界である事を。
そして、自分が、後に厄災の魔女と呼ばれる様になる、コーネリア・ルサールカである事を。
けれど、同時に、とんでもない事にも気が付いた。
(この後の展開ってどうなるんだっけ……?)
重要な項目を、ところどころ、結構な頻度で、ド忘れているという事に。
そう。
生まれ変わる前の私は、記憶力が悪かった。
好きな事だろうが、大切な事だろうが、忘れる時は忘れる。
そんな私が、ゲームの大まかなストーリーはともかく、細かな展開を覚えていよう筈もなく……。
目の前で恭しく礼を取ったまま固まる私を、不思議そうに見返す王子様に、失礼ながらも微妙な微笑みを返した後。
ごめん遊ばせ!と、猛ダッシュでその場を立ち去るより他なかった。
家に帰って思い出せる事を書き出してみる。
コーネリア・ルサールカ
真っ赤な巻き毛に、金色のつり目が印象的なゴージャス系お嬢様
笑うときは「オーホッホ」
何か悪い事をやらかして厄災の魔女と呼ばれている
攻略対象の王子様と対になってて、そのルートで主人公の邪魔をする
トゥルーエンドで炎に巻かれながら「地獄の業火に焼かれながらそれでも天国に憧れているの」って言うけど、バッドエンドでも炎に巻かれながら「地獄の業火に焼かれながらそれでも天国に憧れているの」って言う
ノーマルでは……どうだっけ?
攻略対象は7人いて、王子様と、側近と、その幼なじみの魔法使いと、髪が青いのと、主人公の幼なじみと、グレン(狼の獣人)だった
………………はず
「私にしてはよく覚えてるほうじゃない?オーホッホの件とか覚えてる辺り上出来じゃない?」
「上出来じゃない」
そこで突然声がして驚いた……りは、しない。
「雛菊……あなたね、黙ってるなら最後まで黙ってる。参加するなら最初から参加しなさいっていつも言ってるじゃない」
「いやね?最初はボクだってお嬢様の采配を大人しく見守るつもりでしたよ?でもね、お嬢様があんまりにも頭が温かい発言……っていうか記述を列挙しまくるもんですからね、これを黙ってやり過ごすのも側近としてどうかと思いましてね」
メイド服を身に纏い。漆黒の髪をハーフアップに結った、可愛らしい美少女が呆れ顔の見本みたいな顔をして、立っている。
私の側近兼お世話係の雛菊である。
こうして、自室だろうとどこだろうと私の側に控えているのはいつもの事なので今さら驚く必要もない。
因みに、前世では馴染みの深かった漆黒の髪だが、このゲームの世界では珍しかったりする。
東域……名前からして恐らく日本をイメージして設定したであろう国……の出身で、幼い頃から身の回りの世話をしてくれている、気心の知れた仲であるが、ご覧の通り、一応の上司である筈の私に対して、容赦がない。
更に、お分かりだと思うが、前世の世界で言うところのボクっ娘である。
珍しい黒髪。メイド服を着た辛辣なボクっ娘。それも、美少女。
……主である私よりも設定が盛り盛りで、悔しい限りだ。
「そう言えば、雛菊についてはさっぱり前世のゲームでの情報が思い出せないのよね」
「あれでしょ、たぶんお嬢様の事だから、忘れてるんじゃない?ボク、側近とはいえ使用人だし、お嬢様の言うところの『もぶきゃら』とかに該当するんでしょ?」
これだけ設定盛り盛りな美少女なんてモブにしては目立ちすぎるし、居たらさすがに忘れないのでは……?と、思わなくも無いけれど、賢い雛菊が言うのだから、この場合は間違いなく『私が忘れている』一択なのだろう。
よく助けられているので、雛菊の頭は信頼出来る。
それと、昔から私と雛菊の間には、ほとんど隠し事がないので、今回の前世の記憶云々も帰宅後いの一番に相談していた。
私と違って頭のいい雛菊は、前世がどうの、ゲームがどうのという、私の、突拍子もない上、記憶の歯抜けで要領を得ない拙い説明でも、あらかたの事を理解して信じてくれた。
「死ぬかも知れない、どうしよう」と焦る私に、「取り敢えず、知ってる情報を書き出して整理してみたら?」と、提案してくれたのも雛菊だ。
お陰で、私は、何か対策を立てようにも何も分かっていないという事が解った。
「お嬢様が単純過ぎて、ボクは非常に心配になってきた……」
「失礼ね、信じていい相手とそうじゃない相手、信じて大丈夫な内容と、そうじゃない内容の、区別くらいちゃんとしてますっ」
「…………なら、いいんですけどね」
雛菊は大きな溜め息を吐きながら、私の後ろ側から覆い被さる様な格好で手元の紙を覗き込む。
横に立っていたのに、わざわざその位置に移動する理由は謎。……と、思ったけど、横からだと文字が読み辛いので同じ方向から見る事にしたのかもしれない。ふふん、名推理。今生の私は厄災の魔女と呼ばれているだけあって、前世の私より冴えてる。
そんな前世より賢くなった私の事はさておき、こうして近くに立たれると、雛菊が女の子にしては少し背が高いのがよく分かる。
今は美少女といった風貌だけれど、将来はさぞ見た目クールでカッコいい系の美女に育つのであろう。
こんな事言うと自画自賛も甚だしいけど、私がキツイ顔系の美人だから、二人並び立つと悪女の風格割り増しに違いない。
……いや、ちょっと待って。悪く見えちゃダメじゃないか。
「また変なこと考えてません?」
耳元でした声にそちらを振り向こうとして、予測以上に近くにあった雛菊の顔に驚いた。
自分の鼻が雛菊の頬にぶつかりそうになって、慌てて少し後方に退く。
すると、雛菊の金の瞳と視線がぶつかった。
私のものと同じ、金の瞳。
これは、私と雛菊に使い魔の契約が結ばれている証らしい。
契約が結ばれると、体のどこかに主人を示す印が刻まれるとか。
それが雛菊の場合……というか私の場合?自分と同じ瞳の色になるという事だった。
でも、実は雛菊の元の目の色がどんなだったかは知らない。
初めて私の目の前に現れた時、雛菊は既にこの金の瞳だった。
(日本ベースに設定を創られてる東域の国の出身だから、たぶん黒色なんだろうけど)
雛菊の目をじっと見詰める。
金は金で綺麗だからいいけど、元の瞳も少し見てみたかった気もする。
「あの……お嬢様?」
「使い魔……」
「え?」
「そうよ!使い魔!!」
そこで私は唐突に閃いた。
やっぱり今生の私はちょっと賢い。




