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王様とかホント間に合ってますんで…… 急

奇妙な来訪者たちとの生活に慣れ始めた頃。

所用でパソコンを使っていた際にそれは起きた。


『ああ、良かった!そこに居たのね!』


突然パソコンのスクリーンに映し出されるゲーム画面に、セリフ。見覚えのあるキャラクターの姿。


因みに、ゲーム本編にこのキャラクターのCV(キャラクターヴォイス)は存在しない。

よって、画面に現れたのはテキスト表示である。

そして、金色の髪に碧の瞳をした美女のイラストだった。


その美女とよく似た顔が、今、私の横に並んでいる。

王だ。

王と似た顔が画面の中にある。


『突然お城の中から消えたというから心配したのよ?でも、無事で良かった!あのね……』


王に似た画面の中の美女はつらつらと言葉を並べている。

普通なら感動の再会……と、思うところだが、その美女が映し出されている画面を見ていた王の様子が、なんだかおかしい。


彼は先ほどまで、私がパソコン作業しているところを、横から興味深気に眺めていたのだが、今は微塵もその気配がなかった。


目を見開いて、身体は小刻みに震えている。

そのただならぬ様子に、私は慌てて電源を切った。

……保存かけてなかったデータ、だめかもしれない。

だが、今はそんな事を言っている場合ではなかった。


「どうしたんですか?」


訊ねても、王は「わからない」と、首を振るばかりだ。


王の震えは段々と大きくなっていて、遂にカチカチと歯のなる音までし始める。


「大丈夫、大丈夫ですよ……」


何が大丈夫なのか言っている自分でもよく分からなかったが、王をぎゅっと抱き締めて、その背を軽い力でトントン叩いた。

しかし、これ以上どうしていいのか解らない。


困り果てていると、カタリという音がして、背後に何者かが立った気配を感じた。


「ついに突き止められちゃったか……」


声を辿れば、三つ編み男が悲しそうな顔で笑っている。


「ここならばあるいは……と、思ったんだけれどね……」


「あの……」


その顔を見て、思い出した事があった。


「私、思い出した事があって……それで、気付いた事があるんですけど……」


それは、攻略キャラクターと設定されている男性の全てのシナリオを集めると現れる、通称『王様ルート』。

ただし、これはファンが勝手に名付けた呼称で、公式から王のルートであるとは一切言及されていない。

オマケにある、シナリオ再生リストの名前も『真相(トゥルー)エンド』となっているだけだ。


エンディング発生条件は、どの攻略キャラクターともルートを確立させていない事。それのみ。


徐々にかつての姿を取り戻していく弟王の姿を見守る主人公である姉。

ある日、城の庭園を二人で散歩していると、そこに咲く美しい花々を見ながら弟王が言う。

『美しいです。このように咲く花々を美しいと思えるのは、きっと(ねぇ)さまのおかげなのですね』

その弟王の姿をこそ主人公である姉は美しいと感じた。

花に囲まれる弟王のスチルが挿入されてプレイヤーと主人公の気持ちがシンクロしかけた時、突如として画面が暗転し、テキストと音声のセリフが割り込んで来る。

『また……繰り返すんだね……』


シナリオはそこで唐突に終了を迎える。


全シナリオを網羅した特典とも言えるポジションにあるのに、まるでバッドエンドの様相を呈したこのシナリオは、プレイヤー間で物議を醸した。


割り込んで来た声が、魔術師の声優さんのものという認識は概ね一致していたのだけれど、そこからの予想は多岐に渡っている。

だが、その中で、最も信憑性が高いと言われている一つの考察があった。


“主人公は最初の時点で弟王を愛してしまっており、弟王を殺めてしまった過失というのは、痴情の(もつ)れだったのではないか?”


その説が正しかったとするならば、あの日、私の部屋に現れた、目の前のこの人と王は……。


「貴方は、王様のお姉さんの元から逃げて来たんですね……?」


恐らく王を守るため。姉と王を引き離す為に。


私の言葉に、相手は頷いた。


「その通りだよ……前に話した、落雷の様な謎の光に包まれたところまでは本当。その時に、空間の歪みが出来て、こちらの世界が見えた」


魔術師である彼には、その歪みの中に見える世界が、今いる世界と時間も次元も何もかもが違う世界だという事が解った。


「好機だと思った……これなら(かれ)を姉上の呪縛から解き放てる……と……」


自らの恋情の末に弟を殺めてしまった姉は、その事実だけを忘れて魔術師にかつての弟の復元を願ったのだという。

しかし魔術師は、そんな姉の忘れ去った真実を知っていた。


「あんまりじゃないか……ボク達の理想を押し付けられて、苦悩の末に王に祭り上げられたのに……自らの姉に殺されて……そして、また理想の王に作り替えられるんだ」


今にも泣き叫び出しそうな顔で、震える拳を握り締めながら、悔しげに吐き出す様子に、『また……繰り返すんだね……』というゲーム中のセリフ、そして、『王の製造者(キングメーカー)』を『皮肉』だと言った言葉が重なる。


王を逃がしたいという思いと共に、彼もまた逃げ出したいという思いを、長い間抱えていたのかも知れない。


「見つかってしまって……これからどうするつもりなんですか?」


「見つかったこと自体はそこまで重要視してない……いや、見つからないに越したことはなかったんだけど……空間の歪みなんてそうそう見つけられるものじゃないし、見つけたにしたって出入口を安定させる程の魔術を使える者が簡単に見つかるとは思えない。ただ……」


「ただ?」


「ここに居ると判った以上、あちらは何かしら接触を図ろうとするだろうから、キミに迷惑をかけてしまうだろうし、その前に……」


「ここを出ていくんですか?」


私の問いに、彼は首肯する。


「行く当てはあるんですか?」


「特にはないけど、魔術があるし、多少は卑怯な手段になるかも知れないけれど何とかするよ」


「ここに居続けるっていうのはダメなんですか?」


「え……?」


私は、一か八かの提案をした。

彼らがここを出ていこうとする理由が、『見つかってしまったから』ではなく、『私に迷惑をかけてしまうから』であるならば、私さえ問題なければ彼らはここに残るという選択肢をとってくれるかもしれない。


しばらく一緒に暮らしている内に、私にとって、彼らは離れがたい存在になっていた。


「ゲームとやらで事情は知っているんだろう?キミには全く関係ない事なのに、それがキミの生活に入り込んで来るんだよ?」


「迷惑とか……最初に貴方たちが家に現れた時点で今さらです。それに、今は、そちらの事情に巻き込まれるよりも、貴方たちが居なくなることのほうが嫌です」


私がそう述べたと同時に、衣服の袖がグイッと引かれる。

つられて顔を向ければ、涙を溜めた碧の瞳と視線がかち合った。


「わたしもあねうえとおわかれするのはいやです!」


その目元を拭ってやり、柔らかな金髪を撫でる。

それから、元の位置に向き直り、微笑んだ。


「……だ、そうですよ?」


彼は頬を掻きながら、参ったなと呟いた。


「王様を育てるのは大変だよ?」


「うち、王様とかホント間に合ってますんで……普通に弟の面倒をみる感じとかでいいですか?」


「そこに、ボクの居場所はある?」


「……兄弟に貴方のポジションはありませんよ」


「兄弟じゃなくていい。むしろ、兄弟は嫌かな……兄弟じゃなく……キミの一番側がいい」


「しょうがないですね」


そして、私たちはそっとお互いの距離を縮め……ようとしたら、間に割って入った影がある。


「あねうえのいちばんはわたしです!」


金髪の弟が、頬っぺたを思いっきり膨らませて抗議して来たので、私たちはお互いに顔を見合わせて苦笑した。


「これはとんだ好敵手(ライバル)が出来たものだね」



この日、私は、彼らの笑顔を絶対に守り抜くのだと誓ったのである。

「『姉上(あねうえ)』はね、ちょっとした意趣返しのつもりだったんだ。自分の罪を忘却した彼女は、復元された王が初めに見た女性を『姉』だと思い込むことを望んだから……彼女は生前と全く同じ様に『姉上(あねうえ)』と呼ばれたがっていたけれど、ボクが王に施したのは、最初に見た女性が王にとって安全ならば『姉上(あねうえ)』そうでないならば別の呼びかたをする様に促す術だった」


『あねうえ』という呼び名について、彼はそんな風に説明した。


そう言えば、ゲーム中で王が主人公を姉上(あねうえ)と呼ぶのは、攻略対象キャラクターのルートに入っていた場合だったと思い至る。


「だから、彼がキミを『あねうえ』と呼んだ時、キミは彼にとって絶対に安全な存在なんだと確信していたよ」


したり顔で言うのに少しだけ腹が立ったので、ちょっとしたお返しをしておく。


「裸で抱きつかれた私は、どちらかと言えば身の危険を感じましたけどね」


「それは……うん……ごめん……」


しどろもどろになり始めたので、この位で許してやるか……と、思う事にした。

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