王様とかホント間に合ってますんで…… 破
それからしばらく後、私たちはリビングで机を囲み、お茶をすすりながら会議をしていた。
一人だけは、牛乳たっぷりめのココアが入れてある。
「それで、あなたたちはそのゲームの中から出てきたと言うわけですか」
「キミが指してるゲームという媒体にボクは馴染みがないから、完全に保証は出来ないけれど……キミの話と総合して考えるに、そうなるね」
白髪の三つ編みに七色の虹彩を纏った彫りの深い顔立ちの男が茶をすする姿は、正直、ミスマッチが過ぎるが、ココアを飲みながら会議……という雰囲気でもなかったし、我が家の食材ストックの関係で、そうなるのはもう仕方がなかった。
三つ編み男が言うには、彼は正にKING MAKERのゲーム序盤と同じように、王の姉上からの依頼で王を復元させている最中だったのだそうだ。
その時に落雷の様な謎の光に包まれたかと思えば、気が付いた時には私の部屋の中に居たらしい。
王の体が完成して直ぐの事だったので、王が裸だったのは仕方なかったのだ……という、言い訳も聞いた。
その王はと言えば、入れてあげた牛乳たっぷりめのココアが入ったマグカップを、両手でしっかりと持ちながら、コクコクと美味しそうに喉をならしている。
どうやら甘い飲みものは、大変、彼のお気に召したみたいだった。
時折目が合うので笑いかけると、にっこりと笑い返してくれる。
体は確かに成人男性のものなのに、段々と幼い子供に見えて来るから不思議だ。
「短時間でずいぶんと仲良くなったみたいだねぇ」
三つ編み男が、茶をすすりながら染々と言った。
「『あねうえ』って呼んでいるし、私をお姉さんだと勘違いしてるんじゃないですかね?」
「彼の姉姫とキミはまるで違うよ」
「そりゃそうでしょうけれども……」
乙女ゲーの性質上、ゲーム内スチルでは時々チラリと見掛ける程度だったが、主人公であるところの王の姉は、それはそれは美人に描かれている。
王と似ているという記述からも、その事実は確認出来た。
そこで、王を確かめれば、さらっさらの金髪に碧眼。
これ似の美女と平々凡々な日本人顔の私を間違える様な人が居たら、控え目に言って、眼科の受診をお勧めする。
自分の凡庸さは理解しているものの、他人から改めて現実を突き付けられると面白く無いのもまた心情なので、不貞腐れ気味に三つ編み男を見ていたら、何をどう受け取ったのか頭をぽんぽん撫でられた……ので、その手を払い除けてやった。
「キミはもう少し懐いてくれると嬉しいんだけれどね」
「家に現れた不審者に直ちに心を開くような人間だったら、今ごろ命は無いと思いますよ、私」
「そりゃそうだけれど」
三つ編み男は、不審者は手厳しいねと言いながら苦笑いする。
不可抗力とはいえ、自分が不審者という自覚はある様で何よりだ。
「とりあえず、KING MAKERのゲーム本編でもやってみますか?何か状況改善のヒントが見つかるかも知れませんし」
私の提案に、三つ編み男はゲームがセットされているパソコンのほうを見て、微妙な表情を作った。
「改善……か、どうかはさておいて、たぶん状況は動くんだろうね……けど……」
「なにか問題があるんですか?」
三つ編み男は曖昧な笑みを浮かべる。
「しかし、王の製造者とは、また、皮肉な名前をつけたものだ」
「皮肉……ですか?」
「いや、なに、こちらの話しさ」
「あの……」
「あねうえ」
先ほどから、三つ編み男の言動は意味深だ。
その理由を問おうと思ったら、横からくいくいと袖を引かれ、声がかかった。
「ここあがなくなりました」
見れば、王が空になったカップを掲げて立っている。
しょんぼりと悲しそうな様子は、王らしさの欠片も無い。
ゲーム内では、多少子供っぽくはあったが、もう少ししっかりしていたと思うのだけれど……。
「ココア、なくなっちゃいましたか。じゃあ、新しいのを入れましょうね」
「はい、ぎゅうにゅういっぱいがいいです!」
「分かりました。牛乳いっぱいで、うんと甘くしましょう」
「はいっ!」
ただ、この王は初めからこんなだったし、だんだん可愛らしく思えて来たので、これでいい様な気がしてきた。
出会い頭みたいに生まれたままの姿で抱きつかれるのは勘弁して欲しいが。
「たどり着いたのが、キミの居る場所で良かったよ」
私たちの様子を見ていた、三つ編み男が言う。
その顔は穏やに微笑んでいて、彼の纏う虹彩はキラキラと輝いていた。