王様とかホント間に合ってますんで…… 序
ある日、自宅に侵入していた不審な男は、KING MAKERというゲームの登場人物にソックリだった。
害は無さそうであることから、その人物の話を聞いてみる事にするが……?
王よ……ああ、王よ……
我が愛を……
この不義の心を……
どうか……どうか……
お許し下さい
***
『KING MAKER』というゲームがある。
自らの過失により、王である弟を失ってしまった姉が、宮廷の魔術師に頼み込んで弟を黄泉帰らせ、再び王へと育て上げようとするゲームだ。
黄泉帰った王は、外見こそ、そのままの姿だが、中身は真っ白にリセットされた状態である。
そこに本来の記憶を再び呼び起こさなければ、元通りの王にはならない。
そこで、王と縁が深い仲で、特に波長が合う7人の男性が選ばれ、彼らと交流することで少しずつ記憶の残滓をかき集めて行く事になるのだ。
ただし、王の命が一度失われていること。現在の記憶がないことは、決して悟られてはならない。
そのために、姉は弟のサポート役として、同じく7人の男性との交流を結んでいくのである。
弟王の育成を行いつつ、7人の男性のうちの誰かの好感度を上げてゆきエンディングへ至る、ぶっちゃけてしまうと乙女ゲーというやつだ。
それで、なんでそんな前置きを長々としたかと言えば、その原因は目の前の人物にある。
正確に言うと人物『たち』なんだけど、一人は現在意識を保っていない状態にあるため、ノーカウント。
意識を保っていないどころか、一糸纏わぬ状態で仰向けに寝そべっているので、存在自体をノーカウント。
『家に帰ったら、テレビの前に全裸の男が仰向けで寝ており。傍らにハロウィンの仮装みたいな服を着て、七色の虹彩を纏った白髪三つ編みの男が佇んでいた。』
というのが、現在に至るまでの事のあらましである。
説明不足なこと甚だしいと思うが、私自身、何が起きているかは解らないので、それ以上は説明のしようが無い。
でもって、それの何が前述のゲームと関係しているかと言うと、『ハロウィンの仮装みたいな服を着て、七色の虹彩を纏った白髪三つ編みの男』が、ゲームに出てくる魔術師の、よく出来たコスプレ衣装だからなのである。
それはもう、これが本家です!と言われれば疑う余地はないくらいに、よく出来た衣装だ。
というか、頭皮から直接生えているように見えるが、白髪は地毛だろうか?
目の色はともかくとして、顔の彫りも深い。
でもって、どうやって虹色に光ってるんだろう??
自宅に不法侵入者という、一歩間違えれば危険な状況で、本来なら即座に何かしらの対策を講じねばならないところを、まじまじと観察に充てている自分にびっくりだ。
きっとコスプレの出来がいいせいで現実味が薄れているに違いない。
「どうも」
じっと見ていたら、三つ編みの男がそう口にして、戸惑いの滲んだ微妙な顔で笑いかけて来た。
私も大いに戸惑っている。
なぜなら。取り敢えず三つ編み男は羽織っているそのマントなりなんなりで、早急に『横たわっている男の、オープンになっている大事な部分を、隠してやるべきでは無いか』と思っているが、伝えどころが判らないからだ。
「決して怪しい者ではないんだ。そう、怪しい者ではない」
尚も見続けてていたら、三つ編みの男はそう言って両手を上げた。
そのセリフは怪しい奴も怪しくない奴もどちらだって口にするので、それを根拠に信用する人がいたら、その人はよっぽど心が真っ白で綺麗な人か危機感が足りな過ぎる人だと思う。
「ちょっと困った事になっていて、助力を願いたいんだけど……」
三つ編みの男は続けたが。『困った』は、こちらのセリフだった。
「いきなり人の家に上がり込んだうえに、説明もなく図々しい」……そう考えていたら。
「いやいや、手厳しい。キミの考えは、ごもっとも。でも、うん、取り敢えず説明はするから、こちらの話しを聞く姿勢になっては貰えないだろうか?」
口に出していない言葉に、返事があった。
もしかして、この人、心、が読めるの!?
試しに、先ほどから横たわっている、目下、重要課題を提示してみる事にした。
(横に寝てる生まれたままの姿の人に何かかけるものをお願い出来ませんか〜…ノー衣服ノーライフ〜…)
「その、のーいふくのーらいふ──が、何の事かは解らないけれど……すまない、事態に動揺していて彼が裸な事をすっかり忘れていたよ」
三つ編みの男は、そう言いながら、どこから取り出したのかいきなり現れた膝掛けくらいの大きさの布を、ふぁさりと横たわる男に掛ける。
私の心の声は、小粋なジョークを交えた遊び心満載のトークまでしっかり読み取られていた。
ナニソレコワイ……
「申し訳ないけれど、何分、緊急事態でね……いや、怖がるキミの気持ちも解る。立場が逆ならボクだってそうだ。だけどここは一つ冷静かつ穏便に話し……」
「んぅ……?」
そこで、今まで横たわっていたほうの男に動きがあった。
小さな呻き声をあげて、男が起き上がる。
上体を起こした男と目が合った。
男が、こてりと首を傾げる。
立派な成人男性に見えるのに、幼子のような表情をしてじっと私を見つめて来た。
かと思えば、徐に立ち上がり、こちらのほうへ歩き始める。
掛けられていた布が落ち、男はフルオープン状態となった。
フルオープンとなった男は、何を思ったか、その生まれた姿のまま、がばりと私に抱きついてくる。
そして、一言、言った。
「あねうえ」
三つ編みの男が「あちゃ〜…」と言う声が小さく聞こえる。
私はと言えば、近所迷惑とか省みず、遊園地のアトラクションも斯くやという勢いで絶叫した。