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ねぇさん、おれ、ヒロインになっちゃった…… Ⅴ

コンビニの帰りに謎の光に包まれて、気が付けば異世界の女児の姿だった時。

おれは大いに絶望した。


それまでの人生に不満があった訳じゃなく、何かの予兆があった訳でもなく。ただ少し、直前にした姉弟(きょうだい)喧嘩の反省をしていただけだったのに、ホントに何の仕打ちなのか、何の試練なのかと問いたい。


しかも、しばらくその姿で生活しているうちにある事に気が付いた。


(これ……もしかして、『あの』ゲームの中なんじゃ?)


ねぇさんのゲーム機をうっかり触ってしまった時に、ちょっとだけ見た、物語の展開。

女の子の姿とはいえ、おれはおれとして振る舞っていたので細部は違っていたはずなのに、なぜか通う羽目になってしまった男だらけの学園で、再会した昔の知り合い。

そのきらびやかな姿を確認するに至って、おれはこの姿になって二度目の絶望にうちひしがれた。


ただ、ゲームであるならば賭けられる可能性はある。


(ゲームなら、それをクリアすれば、元に戻れるかもしれない)


気を取り直して前を向いたら、希望が希望を引き寄せたのか、一番会いたかった人の姿をおれは見つけた。

喧嘩別れした時よりも成長した姿だったけど、ずっと謝りたくて、ずっと心に思い浮かべていたねぇさんが目の前に居る。


どうしてゲームの世界に居るのかはねぇさんも解らなかったみたいだけど、おれの呼び掛けに応えて、ねぇさんはここへ来たらしい。

おれの消えてしまった十年の話を聞いて、少し寂しかったけど、ねぇさんがおれを忘れないでここへ来てくれたからもうそれでいいと思った。



二人で話し合った結果、この世界を脱出するにはやっぱりゲームをクリアするのが妥当だという結論に落ち着いたんだけど。

それには、おれのこの姿が問題だった。


おれの姿はこのゲームのヒロインであるらしい。

このゲームは乙女ゲームで。そして、乙女ゲームのクリア条件は、ヒロインが攻略対象である男性キャラクターを攻略すること。


詳しく話を訊くと、ノーマルエンドという微妙にお茶が濁せるエンディングがあるらしいので、それを目指す方向に決めた。

なぜか、ねぇさんが執拗に攻略キャラクターをお薦めして来たのは()せなかった。


ねぇさんは、今、ヒロインの中身が自分の弟である事を忘れてやしないだろうか?



姉弟(きょうだい)二人で決意を新たにしていたら、そこで文字通りに大きな邪魔が入った。


「えっと……彼は、アイザックさん。さっきちょっと話したでしょう?こっちに来てからいろいろお世話になってる女性が居るって。その女性の息子さん」


ねぇさんが、こっちの世界に来て年配の女性の世話になってるって話は聞いたけど、息子が居るなんて聞いてない。


しかも、よく確かめれば、学生じゃないねぇさんはその女性の家から学園に通いで来ていて、そこにはこの息子も住んでいるというじゃないか。


おれたちの事情をあらかたねぇさんから聞いているらしい男は、おれがねぇさんの弟だと知るといきなり距離をつめて来た。

馴れ馴れしい。


あまつさえ、ねぇさんを『ミリィ』とか呼んで、やたらと近くで話している。

ものすごく馴れ馴れしい。

そして、ねぇさんは危機感が足りない。


この男が攻略対象キャラクターなら、軽くルートに入っておけばねぇさんに手出ししないかと思って確認したんだけど、残念ながら攻略対象ではなかった様だ。

その際、ねぇさんの中に、何か大いなる勘違いが生まれたような気がしないでもないけど……それでねぇさんがこの男をそういう意識から外すのであれば、おれとしては願ってもいないことなので、あえてその勘違いを正す事はしない。



それから、ねぇさんは知らないだろうけど、問題がもう一つ。


「おい、オバサン」


「なに?ケインくん」


「別に……」


「?」


それは、この銀髪おかっぱ頭の小生意気な奴だ。

こいつはこの高飛車な物言いで上級生を怒らせて、仕置きを受けそうになったが、その時に身を呈して庇ってくれたねぇさんに、あろうことか惚れてしまったらしい。


空き時間になれば食堂に通いつめ、こうしてちょっかいをかけている。


ねぇさんは仕事中なんだから、はっきり言って邪魔だ。


あと、口が悪いのもいちいち腹が立つ。

ねぇさんは「しょうがないなぁ」と、笑っているけど、ねぇさんはもっと怒っていい。


「お前さ、なんでいっつも俺の邪魔すんの?」


今日も今日とて食堂に向かおうとした銀髪おかっぱの通り道を然り気無く防いだら、ジロリと睨まれてそう言われた。


未だに残る火傷の痕と共に、初日の失態を知っているからそんな顔をされたってちっとも恐くない。


「何の事か分からないな」


堂々と空とぼけて、よりしっかり進路を塞いでやれば思いっきり舌打ちされた。


きみは確か良いところのお坊ちゃんだと認識していたんだけど、そんなガラの悪さでいいの?


ねぇさんに確認したら、彼もまたこの乙女ゲームの攻略対象ではないらしく、ルートで対策出来ないというのは非常に厄介だ。



別に、ねぇさんを女性として愛してるから邪魔してるとかそんな事じゃない。


客観的に見て、うだつの上がらないおっさんとか、頼りない若造が義理の兄になるなんて論外だというだけだ。


それに、脱出しようとしているゲームの中で恋人が出来てしまったら、きっと、ねぇさんが悲しい思いをする事になる。

おれはそれが嫌だ。



いや……やっぱり、認めよう。


おれは、存外、シスコンなのかもしれない。

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