気がついたら悪役令嬢が私の乙女ゲームを改変して攻略しようとしています Ⅳ
結論から言うと、Rozen ROYALEに名を変えたゲームは、私が予定していた元のシナリオ通りの物語であっさりと配信出来た。
たったそれだけで……と、脱力感を覚えたものだけれど。ROSETTA ROYALEというタイトルで私が創ったゲームは、永劫失われた訳だから、私自身は大きな犠牲を払ったのだと主張してもいいかも知れない。
それはさておき。
事の原因となった犯人達だが、実は“配信されなかったほうのゲーム”の中にまだ居座っていて、交流を図れていたりする。
『作者さま〜、ちょっと聴いてくださいよ〜ォォ!!』
ゲームを覗けば、今日も令嬢をかなぐり捨てたロザリアが、元気に私に泣きついて来た。
『私、キネシスから疑われているかもしれないんです〜〜っっ』
どういう事かと聞けば。先頃、ゲームの攻略対象の一人、騎士のキネシスから『何をやらかすか心配過ぎて、お前から目が離せん』と、言われたとの事だ。
いやいや、それって……。
『何にも悪い事してなくても、やっぱりロザリアって顔が悪役顔だから怪しく見えるんですかねぇぇぇ……』
ロザリアよ……悪役顔を描いた制作者に言うのか……。
というか。
設定を考えたゲームの制作者という立場を抜きにしても。キネシスの性格を考えるに、それは、ロザリアの悪事を疑っているというより気になる相手を心配しつつもちょっと素直になれない男心が垣間見えているセリフだと思う。
ぶっちゃけ、ロザリアは、キネシスルートの恋愛フラグを立てている気がするんだけれど……。
しかし、彼女が恋愛フラグを立てていたのはどうやらキネシスだけではなかった様だ。
『それに!それに!ギガンティアさまが“君を閉じ込めて置けたらどれ程安心出来るだろう”とか言うんですよ!フェティダにも“私の心を乱すなんて、貴女は悪い人だ”とか言われるし!その前にはイザヨイから“オレの事引っ掻き回すとかお前いい加減にしろよ”って言われてた!もしかしなくても確実に皆から疑われてる!?……そりゃゲームのロザリアは悪い事してたけど、私は濡れ衣なのにぃぃ……うぉ……うぉぉぉぉぅ……』
一人、微妙なラインが入っていなくもないが、「私の制作したゲームをプレイしてくれていたならなぜ気付かない」と言いたいレベルで、ロザリアは各キャラクターの恋愛ルートをひた走っている。
……ああ。彼女、全ルート攻略する前に亡くなってるんだっけ。
それにしても……だ。
(うっすら……というか、ガッツリ思ってたけど……彼女、鈍すぎやしない……?)
ゲームを修正しようと見直していた時に思っていた事だけれど。
今、ロザリアを生きるこの女の子は、鈍くて、お人好しで、一生懸命が空回りし過ぎる。
(だから「まぁいっか」って思えた訳だけど)
ロザリアの改変した物語が、元通りに修正出来ないと判った時。しょうがないからゲームの配信は諦めよう……と、思えたのは、偏に彼女が嫌いになれない人柄をしていたからだ。
彼女が生きる物語を、守るためなら悪くない。
ゲームを無事配信出来た後でも。こうして定期的に話しをしているのは、私が彼女と話すのを割りと気に入っているからに他ならなかった。
彼女と、もう一人と……。
『あー、作者様。今、ロザリアと話し中?』
私が自分の考えに耽っていると、別方向から声がかか……る代わりにテキストが表示された。
「そうだけど」
『どうせ、また、のろけとも自慢ともつかないのに本人だけ深刻な、勘違い暴走の相談でしょ?』
全く持ってその通りだ。
画面の中にルシオスの部屋……というト書きと共に、描いた覚えのない背景とルシオスの立ち絵が出てきたけれど、もう驚かない。
『何かこっちが教えてやるのも癪なんだけど、いつまで経ってもグダグダやってるからいい加減あいつらが哀れなんだよなぁ……』
「そういうルシオスは、そこに参加しなくてもいいの?」
『え!?ちょっと待って!それ冗談きついんですけど!!』
「初めて見た時ロザリアの周りにいたから、てっきりあなたもそうなんだと思ってたんだけど……」
『いや、あれは……ロザリアが転生者っぽいなってあたりをつけてたんだけど、確証がなくって探ってたっていうか……とにかく、俺、ロザリアにはそういうの無いんで!!』
ルシオスは『俺はどちらかというと……』と、ぶつぶつ何事かいいはじめたみたいだが、そこから急激に文字が読めないくらいの小文字になったので、何を言っているのだか解らなかった。
因みに、名前が出ていない攻略キャラクターのエグランテリアであるが、こちらはロザリアの物語改変で出会っていなかった主人公と再会したらあっさりとあちらに落ちた。
あの後ロザリアとルシオスと協力して主人公矯正に奔走したのと。もともと黒幕のエグランテリアは、他の攻略対象キャラクターよりも主人公と縁の深い設定であったのとが働いたようである。
ただ、誤算は、その過程でロザリアの義弟がほんのり主人公に惹かれてしまったっぽいところなんだけれど。
まぁ……そこは、頑張れとしか言えない。
『あれ?作者さま、もしかしてルシオスとしゃべってます!?』
私の反応がなかったのを訝しんだロザリアが訊ねて来た。
ゲーム内の彼らの言葉は。ゲーム外の私には、どちらがどこにいようと、私が画面とテキストさえ確認出来れば届くのだけど、ゲーム内の彼ら同士だと同一空間に居なければ届いていないらしい。
片方を対象にした私の言葉も同様で。片方に向けての言葉は、彼らが同じ空間に居なければもう片方には聴こえない。
別の空間に居る二人を対象に話せば、私の言葉だけは二人に届く様ではある。
あと、例外は、魔王のルシオスが自らの魔法でロザリアと会話を繋いだ時か。
そうすれば、全員が同時に話す事が出来る。
原理は知らない。
「ルシオス、ロザリアと会話繋いでくれる?」
『了解です……せっかく今日は二人で話せると思ってたんだけどなぁ……』
『それはこっちのセリフなんですけどぉ……というか私が先に作者さまと話してたんですけどぉ……』
今日も会話が繋がるなり、二人が軽口を言い合う。
そんな風に言い合いつつも、実は仲良しなのは知っているので、止めない。
『あーあ、作者さまがこっちに来られたら思いっきり話が出来るんだけどなぁ……』
「次元が違うんだからそれは難しい話だと思うよ?」
ロザリアもルシオスも、どうやら私と話すのを有意義と感じてくれているらしく。時々このようなお誘いを受けるが、それは、はいそうしますとは行かない問題だ。
『でも、俺、なんかいつか行ける気するんですよね。不可思議な現象はこうして既に起きてる訳だし……それに、俺、諦めないし』
『そっちの現象にどれだけ関与出来るか分かんないですけど、こっちには魔法があるしね!私も諦めませんよ!』
『俺が諦めないんだ!!』
『いや、私が!!』
二人の勢いに、思わず笑みが溢れる。
「じゃあ、私は二人に会えるのを楽しみにしとくね」
『『はいっ!!』』
それが、どうなるかは分からない。
でも、この変わってしまった物語の登場人物たちに、いつか直接会って話をすることが出来るのならば。
それはきっと素敵で楽しい事だな……と、私は思うのだった。




