気がついたら悪役令嬢が私の乙女ゲームを改変して攻略しようとしています Ⅲ
ROSETTA ROYALEの攻略対象は、隠しキャラを合わせて5人。
正義感溢れる正統派王子の、ギガンティア。
その王子の幼なじみで、魔法使いの知性派、フェティダ。
若くして異例の出世を遂げた近衛騎士団長の、キネシス。
異国の商人の息子、イザヨイ。
小さい頃に別れた主人公の幼なじみで、突如あらわれた実は本当の黒幕の隠しキャラ、エグランテリア。
あとは、攻略キャラじゃないけれど、過去の出来事で実は命を落としており、そのまま使い魔の器となっているロザリアの弟と、彼女に心酔して手足……っと、ここら辺は、話し始めると長くなるから割愛しよう。
とにかく、全く持って、私はこのキャラクターとは初対面……という言い方も変なのだけれど……初対面なのである。
「あなた……誰?」
私の言葉に、言われた相手ではなく、なぜかロザリアが『え?』と、戸惑いを見せた。
問われたほうは、先ほど謝罪してきた時と違い、そう言われるのは察していましたとばかりに冷静な返事を返す。
『俺は“ルシオス”。一応……この世界の“魔王”です』
「魔王……?」
それを聞いて、自分の眉間に深いシワが刻まれたのが分かった。
古きヨーロッパを思わせる街並み。
ゴシック様式な石のお城を彩る、薔薇と騎士と魔法と剣。
令嬢がキャッチボールしようとしていたのとは違って。確かに、魔王なるものが居たとしても違和感のない雰囲気ではあるかもしれない。
だからといって、制作者の知らないところで、勝手に魔王が登場しているのはいかがなものだろうか?
第一、魔王だと……。
「エグランテリアとポジション被っちゃってるじゃない……」
世界を闇に染めようと企み、事件を起こす、物語の本当の黒幕なエグランテリアと。たぶん似たような感じで世界を征服とかしちゃうかもしれない、魔王のルシオス。
完全にキャラがタダ被りである。
『え?なんでエグランとルシオスが被ってる??』
私の言葉に反応して困惑し始めたのは。やはり言われたルシオス本人でなく、ロザリアだった。
『なんでって……エグランテリアは隠しキャラで黒幕だからそういうことだろ?』
『うそ、エグラン隠しキャラなの!?魔王とか言うから隠しキャラはルシオスだと思ってたんだけど!?そして、スナック菓子感覚でサクッとネタバレキターーー!!ぎぃーやぁーーっ!!!』
ルシオスに言われ、ロザリアが顔面蒼白で絶叫した。
もはや令嬢を取り繕う気もないらしい……端から逸脱していたと言えば、そうだけれど。
『っていうか、ローローのプレイヤーなら初歩の知識だろこれ』
『ローロー、プレイしてる途中で死んじゃったから、登場人物全員の事とか隠しキャラが誰かとか知りようがなかっただけですしおすし……』
『勝った!俺、完クリ特典解放済み〜』
『ぐぬぬ……』
へぇ……このゲーム、ローローって呼ばれてるんだ……知らなかった。
自作のゲームをプレイしてくれて、楽しんでくれていた人がいると判るのは。こんな状況だけれどすごく嬉しい。
楽しんでくれていた……?
ん?あれ?何かおかしくない??
「ええと……いくつか訊きたいんだけど……まず、ロザリアもルシオスも前世があって、そこで私の作ったゲームをプレイしてた……で、転生した末にそのゲームの中に入っちゃってるって認識でオーケー?」
『『はい、そうです!』』
ボックスに表示されている文字が、二重文字になった。
今のどうやったんだろう……?
「その中で、ロザリアは、転生したら、凄惨な運命が待ち受けている悪役になってるって気づいて、その運命を変えるべく奔走した結果が、元々のゲーム内容を改変していた……と」
『そのとおりです……すみません……』
「それから、ルシオスのほう。あなたはロザリアと同じく転生者で、私の制作したゲームの中に生まれ変わってるみたいだけど……私が登場させた覚えのないそのキャラクターって、なに?」
『……俺の考えたローローの登場人物です』
「そっか……あなたの考えたキャラクターに生まれ変わっちゃってたんだ……」
『はい……』
詳しく話しを聞くと、ルシオスは前世で自分の考えたオリジナルキャラクターを作り、私のゲームの世界の登場人物として活躍する小説を書いたりしてくれていたらしい。
まさか『悪役令嬢二次創作』と『ぼくがかんがえたさいきょうの○○』を、直接自分の作品の中でやられるとは思っていなかった。
貴重な経験である。
そして、問題はここからだ。
「二人はそこに生まれ変わる前、このゲームをどうやって知ってプレイしてくれてたの?」
『えっと……フリゲの配信サイトで……』
『俺もそうです』
二人が利用している無料ゲーム配信サイトは、私も利用しているサイトだった。
配信者の名前も、私がゲームを上げている時に使っているもので間違いない。
ただし……。
「私まだ現時点でこのゲーム完成させてないし、上げてもないんだよね」
『『えっ!?』』
二人の感情を表しているのか。急にテキストボックス内にある文字の、書体とサイズが変わって二重文字になった上に、揺れた。
ホント、これ、どうやるんだろう。
後からスクリプト見直せば判るかな?
『配信されてないって私たちはどうやってローローをプレイ……あ、あれか!未来でプレイして過去に生まれ変わったのか!漫画とかであるある!』
『いや、そうだけど、そうじゃない……そうじゃないだろ!俺らが内容改変したから元のローローが配信出来ないってことじゃないのか!?作者様が言いたいのは!』
「端的に言うと、そうなるかな」
二人が『ノーッッ!!』と叫ぶ様子が見える。
そう。これが根本的な問題だった。
今回彼らとこうして会話するきっかけとなったのは、そもそもそれが始まりなのだから。
何度修正してみても駄目だったし、その過程でコピーを作ってやり直したり、別に新たなプログラムを組んでみたりしても駄目だった。
私が創ったはずの、ROSETTA ROYALEは、完全に彼らの物語に置き換わってしまっている。
「タイムパラドックスが起きたのかも……悔しいけど仕方ないから、ROSETTA ROYALEは、諦め……」
『ロゼッタ……ロワイヤル……?』
『ローローって、確か……』
私の言葉を聞いた、ロザリアとルシオスが、二人して神妙な面持ちで考え始めた。
「あの……ROSETTA ROYALEがどうかした……?」
『それなんですけど……俺たちの知ってる“ローロー”って……なあ?』
『うん』
そして、二人は、あの二重文字で、言葉を揃えて言った。
『『Rozen ROYALE』』