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気がついたら悪役令嬢が私の乙女ゲームを改変して攻略しようとしています Ⅱ

古きヨーロッパを思わせる街並み。

ゴシック様式な石のお城を彩る、薔薇と騎士と魔法と剣。


中二くさいと笑わば笑え。


そんな私の趣味を満載に詰め込んだ乙女ゲーム。

それが、ROSETTA(ロゼッタ) ROYALE(ロワイヤル)だった。


そこへ、「キャッチボールをしよう」という、休日に息子との交流を図ろうとする昔野球少年だったお父さんみたいな発言を持ち込む行為は世界観の破壊に他ならない。

ついでに、ベースボール自体は、19世紀頃のアメリカで成立したと言われているらしいので、いずれにしても度し難い行いだ。



しかし、今。私の意思とプログラムに反して「キャッチボールをしよう」と抜かした犯人が、目の前に居る。

それは、本来ならキャッチボールという単語からはおよそ無縁である筈の、ドレスを纏った貴族令嬢……ロザリアだった。



ロザリア・デ・クリムソン

ROSETTA ROYALE に登場する、伯爵令嬢の名前だ。


彼女は、このゲームのもう一人のキーパーソンである。

幼い頃にあった出来事で、魔女としての能力に目覚め、裏で王都の事件に関わっているが、それを隠して味方として主人公たちの側に居る。

そして、終盤にて本性をあらわし、敵として立ちはだかる。いわゆる悪役令嬢だった。


当然、キャッチボールはしない。


「ロザリア……一体何やってんの……」


私は、ため息を吐きつつ、頭を抱えた。


『あれ?え?幻聴??何か頭の中で声がするんだけど!!』


「は?」


『え?』


ゲーム画面を見ると、問題の貴族令嬢が焦る立ち絵と共に。まるで、こちらに反応したかのようなテキストが表示されている。


「ロザリア、あんた……もしかして、私の声が聴こえてる?」


通常なら妄想も甚だしいと思う発想だったが、通常から逸脱した現象は既にいくつも起きていたので、その可能性も否定出来ないと思った。


案の定、ロザリアからは肯定と取れる言葉が返ってくる。


『聴こえてるっていうか……“私さん(わたしさん)”はどちら様で?』


『ロザリア?』


『一体、どうしたんですか?』


ロザリアを囲って、慌てふためく、描いた覚えの無い攻略キャラクターたちのスチルが画面に映ったが、二度目なので驚かない。

そろそろ驚き疲れてきたからとも言えた。


(他のキャラクターには私の声が届いてない?)


どうやら、私の声はロザリアにしか聴こえていないようである。


という事は、このゲーム内容改変にはロザリアが絡んでいると思って間違いないのかもしれない。


これは、詳しく話を聞かなくては……と、思ったが。それには、現状、外野が煩さ過ぎる。


「私が誰か答える前に、とりあえずその周りにいる人たちにどこかへ行ってもらっていい?周りの人たちには、私の声が聴こえてないみたいだし、このまま話すとややこしくなりそうだから」


その言葉に、ロザリアは存外素直に頷いた。


彼女が、急に気分が優れなくなったからと攻略キャラクターたちを帰した後、私は徐に切り出す。


「ロザリア……なのかどうかわからないけど……とりあえず、ロザリア。これから言うことを理解出来るかわからないけど、よく聞いて」


ゲーム画面に、真剣な表情のロザリアと、『(ゴクリ……)』というテキストが表示された。

結構シュールだ。


「私は、あなたの生みの親です。腹を痛めて産んだって意味じゃなくて、創造主的な意味でね」


『神様?』


「どっちかと言うと、制作者かな」


『え、もしかして作者さま!?』


「『作者さま』……?」


ロザリアの発言で、私の眉間にシワが寄った。


『私、転生する前にこのゲームプレイしてたんです!……え〜、まさか死んでから作者さまとお話しできるなんて思ってなかった〜〜。コレナンテ特典!!』


ロザリアが頬を染め、キャーキャー言う様子が、私からはありありと分かる。なにしろ、イラストだから。


でも、それよりも……今、ロザリアは何と……?


「転生……死んでから……って?」


『あ。私、転生者で。死ぬ前は、作者さまと同じ世界の女子高生だったんです。で、生まれ変わったらこの世界のロザリアになってたんですよ。ロザリアになったって分かった時は“破滅だー”って嘆いたものなんですけど、そこから……って、あ……』


そこまで言って、ロザリアは言葉を切って固まった。


バグによるフリーズではない。

何かに気付いて言葉と動きを止めたようだった。


『もしかして、私……ゲーム内容の改変を……?』


「しちゃってますね」


『やっぱりかーーーーーっっっ!!!!!』


ロザリアは頭を抱え……たかは、立ち絵の関係で再現出来てないが……絶叫した。


『そんな……私……改変……改変するつもりはなかったんです……ただ、せっかく生まれ変わった世界で死にたくはなくて……』


私は制作者の立場にいるので、きっと同じ状況になれば物語に準じて死を選ぶだろうが、彼女は違う。

一度、死を体験して生まれ変わったと思ったら、また死ぬ運命が待っているなんて、それは嫌だろう。


シナリオを思い返してみれば。ロザリア、結構エグイ最期を迎えているものが幾つかある。


流れと意味があるものではあるが、あれを体験すると考えると……。

うん、彼女を私のゲームの中に生まれ変わらせた神様。鬼畜だと思います。


『これ、ゲームの内容が変わって、歴史が変わっちゃうとか……私、なんて事を……』


「そこまで大きな世界が変わる事じゃないと思うけど、問題は……」

『ごめんなさい!』


そこで、私の言葉を遮るテキストが割り込んだ。


ロザリアじゃない。

別の誰か。


「あなた……」


漆黒の髪に、赤い双眸。

先ほどスチルで見たときに違和感を覚えた、私が創った記憶のないキャラクターがそこに現れた。

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