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突然の縁談

 屋敷に戻るなり、倒れこむようにお父様が部屋から飛び出してきた。

「も、モルガナ!」

「はい? いったいどうなさったんですお父様」

「おまえに、おまえにっ」

(こんなに慌てていらっしゃるのは先日の大怪我以来ですねえ)

 暢気に考えていたら、お父様は一通の手紙を手に舌を噛みそうな勢いで話し始めた。

「おまえにっ、縁談の話がきたんだ」

「……はい?」


 今度こそは私の思考が停止した。

(えんだん、えんだんってなんでしたっけ、なにか荷物をたのみましたっけ)

「結婚だよ! わからないのか!」

「けっこ……ん」

 ようやく、私のなまりきった頭がまわりはじめる。

「相手のほうが家柄がいい、こちらからは断れるものではない」

「……はい、はいっ?」


 今度は私が目を回す勢いでお父様に問う。

「い、いったいどこですっ! 私のような風変わりな娘にそんな話をもってくるのはっ、私ですよ! 魔術ばかりに没頭してきたあげく戦場にでている! どう考えても普通の家じゃありません!」

「それが……」

 お父様は言いにくそうに目をそらした。


「おまえのよく知っている、騎士団の副団長、アルヴァー=ベールケ氏との縁談なんだ」

「……はいっ?」

 私の思考回路は焼ききれた。








(まったく眠れませんでした……フィトに偉そうなことを言ってしまいましたね)

 くらくらする頭で私は騎士団に向かった。


お父様から受け取った手紙には確かにベールケ家の印があって、間違いではないようで。

 私は夜も眠れず、確認のために明朝屋敷をとびだしてきた。



□□□


 アルヴァーの執務室の前に来ると、中から何か言い争っている声が聞こえてきた。

(どうしたんでしょう?)

 考えていると、扉が開いて長い金髪の女性がでてきた。

「あら」

 青い瞳と、赤い口紅、紫色のドレスが印象的な女性だった。

「――ごめんなさい、アルヴァーに用事?」

「……はい」

「そう、待たせてしまってごめんなさいね」

 そう言って、女性は微笑みながら去っていく。

 所作ひとつひとつが優雅で上品なひとだった。


(……アルヴァーは、女性が苦手だったのでは……そうでもないのでしょうか)

 ドアに手をかけながら、胸のつっかえに疑問を覚える。

(……うーん、へんですね……って、そんな場合じゃありません!)

 我にかえって部屋に入る。


「アルヴァー、なんだかとんでもないお話がきたのですがどういうことですか!」

「――そろそろ来ると思っていたよ」

 窓辺に立っていたアルヴァーには色濃く疲れの色が見える。

(……そんなに疲弊していらっしゃると怒るにも怒れないではないですか)

 意気込んで入ったのに、私の勢いはあっさりとひっこんでしまう。

(家の事情もあるのでしょうが、いえ、しかし、こればっかりはきちんと話しませんと)


「君が怒るのはもっともだ、どんな言葉でも聞こう」

 しかしアルヴァーはそうこたえる。

「……事情を話してはいただけませんか? あなたが望んだことではないのでしょう」

 これでは私も言葉を失ってしまう。

「話せないんだ、わけありでね」

「……それではさすがに納得がいきません」

 私の言葉にアルヴァーは困っている様子だった。


「……君が嫌なら、俺がなんとかする、だから今はこれで許してはくれないか」

「あなたひとりに押し付けるのもへんではありませんか」

「もともと俺の責任だからね、それに……いつまでも逃げ回れるものではないし、いつかは覚悟を決めなければならないと思っていたよ」

「家系の話ですか?」

「ああ、俺は長男だし、いずれは家を継がなくてはならない」

「……」


「ただ、ひとつだけ訂正がある、俺が望んでいなかったわけじゃない、こういう形になることは想定外だったけどね」

「――」

「君が好きだ」



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