撤退
私は後方支援として出撃したその日。
雨が降る中の大規模討伐作戦は、おおいに事前の予測がはずれて一時撤退となった。
そのしんがりをつとめたのが私とアルヴァーの二人だった。
弓矢が飛んでくる中、私は走りながらの詠唱を繰り返して時間を稼ぐ。
「モルガナ、まだ大丈夫かい」
「ええ、もうしばらくは」
「さすがだ」
前を行くアルヴァーにこたえる。
けれど、運命はより残酷だった。
敵の伏兵が次々に前方からでてくる。
あっというまに私達は取り囲まれた。
「――はは、まいったな」
疲れの見えるアルヴァーの声に、私は思案する。
「あなたは死なせません、私が時間を稼ぎますから、どうか先へ行ってください」
彼が死んでしまうと、後々の作戦にも甚大な被害が出る。
考えるまでもない。
「……君は正しい」
「ええ」
「だけど俺もみすみす優秀な部下を死なせるわけにはいかない、君が死んでもお偉方が怒り狂う」
じりじり追いつめられて、お互い背中を合わせて敵と向き合う状態になる。
「アルヴァー、状況判断として最悪です」
しかし彼はそのまま剣を構える、どうやらこれ以上の問答は無駄なよう。
「分かりました、それなら道は一つです」
魔術書を開いて、覚悟を決めた。
「生き残りましょう、必ず」
□□□
ひどくなった雨がざあざあと打ちつける。
窮地は過ぎ去り、一人も敵はいなくなった。
「さすが副団長をつとめられるだけありますね」
「君こそ、魔術の天才だとうたわれるだけある」
お互いに傷だらけで会話をかわす。
「!」
けれどそのとき、私の耳には弓矢の音が届いた、反射的に飛び出し、アルヴァーを庇う。
「っ」
「モルガナ!」
予測どおり私の右肩を貫いた矢、泥水に倒れこむ寸前、木の影に見えた敵影に魔術を唱える、ほどなく悲鳴が聞こえ、敵は倒れこんだ。
「しっかりするんだ、モルガナ!」
(ここまででしょうか……でも、アルヴァーが生きていれば……)
そこで私の意識は消失した。




