主食はカップメン
主食、カップメン。
とは言うものの、ちゃんと他の物も口にしていた。
大体は朝食にコーヒーか紅茶。もちろん砂糖不使用。昼食はお腹が空いていれば食パン。夕食にカップメン。
しっかりと3食。
ただし、お腹が空いていればというのが中々の難所で、対外は空いていない。
空いていても、食パンがない。
食パンがあった所で、面倒だから食べなくて良い。
と、いくつもの関門があるのだ。
夜にカップメンを1つ食べ切るために、お腹を空かせておかなくては……そうなると昼食と言う概念すら失われていき、10時か11時頃に軽くお茶タイムを入れ、それを朝食兼昼食とするように。
いちおう兼ねているので、気分は1日3食である。
こうして夕食にカップメン。
液体タイプのスープの場合、上の方に油が浮いているので、それを上手い具合に取り除いてから入れ、カップ焼きそばの場合はソースを3分の1ほど残して入れる。そして大事なのは、メンマやらチャーシューは食べないと言う事。そしてもう1つ、胃痛が来る前に胃腸薬を飲む。
これで完璧だと思っていたし、実際胃痛はこなかった。
胃痛は来なかったが、頭皮に痛みが来た。
そこそこ髪が長いので、家にいる時は括っている。だから頭皮が引っ張られて痛んでいるのだと思って括るのを止めても、頭皮は痛み続ける。
ズット痛い訳ではなくて、触れるとピリピリ痛む感じだったので、本当に髪をきつく括っていて痛む感じと似ているのだ。
スグに治るだろうと軽く考えていたのに、治らないどころか、徐々に新しい症状が出てくる。
貧血やら動機やら息切れである。
もう歳か?
まぁ、しばらくしたら治るだろう。と、再び放置する事しばし、新しくとんでもない症状が現れ始めた。
目の端を何かが通り過ぎていくのだ。
飛蚊症とは明らかに違う。
飛蚊症の場合は自分の視線に合わせるようにして移動してくるし、明るい場所を見ない限りはそんなに気にもならない。それなのに、ソレは黒く、目の端をサッと通り過ぎていくのだ。
何かいる?と視線を向けるが、何もいない。
始めは本当にネズミとか、アシダカグモとか、その辺のが部屋の中にいるのだろうと思っていた。
そして、終に見てはいけない物を見た。
当時から良く耳にしていた「小さなオッサン」だ。
正直、その「小さなオッサン」を全く信じていなかったし、見たと言っている人の事を「注目されたいだけの人」だと思っていた。
しかし、自分の目の前にその「小さなオッサン」がいる。
ただそこにいるだけではない。
歯ブラシを取ろうとして伸ばした手の先、歯磨き粉の横でこちらにプリンとケツを向けて、チラチラと様子を伺うように振り返ってくるのだ。
大きく瞬きを2回、上を向いてゴシゴシと目を擦って、もう1度しっかりと見つめた先には、もう「小さなオッサン」はいなかった。
疲れているのだろうか?
何かを見間違ったんだな、きっと。
無理矢理そう結論付けた。
しかし、そこから目の端をサッと通り過ぎていた黒い物体は、徐々に明確な姿を現し始めるのだが「小さなオッサン」とか言う平和的なものではなく、かなりリアルな手だったり、首だったり。
思わず「うわっ!」と声が出るほどの物になっていったのだ。
最終的には、その何かが家の前を這ってこっちへ向かって来る様子が頭の中で見えて、徐々に速さを増して、バンッと窓に張り付く。そしてその張り付いた女性の上半身をしっかりと目視してしまう。
ガラス越しにギロリと見える見開かれた2つの眼球と、目が合うのだ。
アレはなんなのだろう?
インターネットで調べた結果、案外アッサリと原因が分かった。
頭皮の痛み、貧血、眩暈、動機、息切れ、そして幻覚。それら全てが栄養不足の症状だったのだ。
主食にカップメン。それは中々に危険な生活習慣である。