街壁の内と外で
結局、シグラス家の次男の身柄は、貴族院監査室が引き取ることになった。
マリエラの実家のアマキス牧場は『王国軍御用達』、コディ嬢のガーナード魔獣商も立派な『王室御用達』この二件の政商相手の不祥事だけで、監査室が責任を持ってあの馬鹿の処分をしてくれるそうだ。
「アレス」
騎士団本部へ戻ると、市外へ出ていた第二大隊長のイザレイムが帰還していた、目立つ怪我は無いが消耗している風情だ。
「おうイズー、よれよれだな、盗賊どもは捕まったか」
「雑魚と下っ端ばっかりだな、キリが無いからダーレムと交替してきた、野盗の分際でゲリラ戦とか、ちまちまコソコソうっとうしいんだよアイツら、まとめて正面からかかって来いっての!」
イザレイムはやさぐれていた。
「落ち着け、正面からかかって来れるなら、野盗に落ちてねえよ。」
森や山に散らばる野盗を追うのは大仕事だ、魔獣の存在も警戒しなければいけない。
「こっちも留守の間にでっかいのが出たって?お前が留守居役のお坊ちゃん達の代わりに指揮をとったら、災害級魔獣が怯えて逃げてったって評判だぜ。」
市内に残っていた大隊長二人は貴族の子弟だ、騎士にあるまじき事だが危険な仕事を避けようとする。だからといって代わりに書類仕事を人の分まで片付ける訳でも無い。
今回は、埃に塗れて盗賊を追いかけ回すのを億劫がって残ったら、災害級魔獣が襲来した訳だが。
「大隊長のくせに噂に踊らされるなよ、俺はどんな化け物だ?たまたま先住の魔獣と縄張りがかぶっただけだろ、争いながらどっかに行ったぜ。」
それで転移魔法は説明がつかないが……
「このエスタル周辺に災害級が出るのもおかしいが、魔獣が来てない西門と北門を警備しに行って、落とし格子まで閉める奴らもおかしいよな!」
たたき上げ組と貴族組は当然仲が悪い、周囲を見回しながらわざと声を張り上げる。
「お前も連中を甘やかすならいっそ役職を代わってやれよ、国境のクナカ砦を実質切り回していた副団長が、犯罪者相手の警邏隊長に配属替えっておかしいだろ!」
甘やかしてはいない、任せておけなかっただけだ、実際今回はお姫さんの介入が無ければちょっとやばかった。
「落ち着けって、イズー。国境沿いから王都近くのエスタルなら普通は栄転だろ?左遷みたいな言い方するなよ。とりあえずちょっと寝て来い。」
イザレイムのボルテージがどんどん上がるので、副官が宥めに来る。もっと早く来い。
「そうですよ、隊長。帰って来たら閉め出されたからって、拗ねないで下さいよ。」
仕事をして疲れて帰って来たのに、門が開かなかったのか、そして問題の相手と鉢合わせしたか。
「拗ねてるだと?俺は適材適所の話しをしてるんだ!」
「適材適所と言えば」
仮眠室へ、イザレイムの背中を押しながら副官が首だけで、振り返った。
「そういえば、帰って来たとき西門で火竜亭のマリウス君が落とし格子の引き上げを手伝ってましたよ、東門から順番に手伝ってまわってたそうです。本当なら三人がかりの巻き上げ機を一人で動かしてました。すごいですよね彼、食堂の跡取りにして置くのはもったいないですよ。」
『火竜亭』……いつ聞いても直球ストレート過ぎる店名だ。それにしても何目立つ事やってんだ?あのトンチキ!
サブタイトルの後に、‘怒鳴りあい’と続けようかと(^.^;。