第一話 敗北
少し無理矢理感があるかな?
ガリア大陸。魔法や能力と言った物が、当たり前の世界。そのガリア大陸の南部にある、魔法を学ぶ学園。ルミナス学園では、強化合宿という名目で魔物が多く居る、【ジュモンジ森林】に来ていた。
森林の中では、ルミナス学園の生徒達が(貴族含め)テントの準備をしていた。そんな中、奥から剣撃の音が鳴り響く。そこには、銀髪と金と青のオッドアイをした、青年が灰色の髪をした青年と、戦っていた。二人とも視認出来ない程の速さで動き、剣を打ち合わせる。ガキン‼︎ と甲高い音を響かせ何度も剣を振るった。
銀髪の青年。彼は、いや彼等は転生者である。この世界に転生し、神から特典という名の能力を貰った存在だ。彼ーーーアルト・レイベストは、舌打ちをしながら、目の前の灰色の青年を見る。始まりのキッカケは、アルトが、“ある女子達”に言いよって居た所から初まった。何度も嫌だと言っていた女子達を、無視してなお彼は言いよった。もう踏み台転生者のソレである。
というか、彼自身は踏み台転生者だった。そんは彼に、止めた人物が現れた。それが、今目の前で戦っている灰色の青年だ。エイジ・キースと言う名の青年は、女子達の前に立ち、アルトから庇った。それにこのモブがっ‼︎ とアルトは怒り戦いが勃発したのだ。それで今に至る。
そしてエイジもまた、転生者であった。
「うぉぉぉぉぉぉぉッッッ‼︎ 死ねぇ、このモブがァ⁉︎」
「………ふっ‼︎」
振り下ろす剣閃を、冷静にエイジは逸らして蹴りを腹部めがけて放つ。ズドム、と当たったアルトは、肺に貯まった空気を吐き出し転がる。痛みが腹に広がるが、彼は立ち上がろうとする。だが。
「もう立つな」
「………ぐふっ⁉︎」
エイジの膝蹴りをモロに喰らい、アルトは醜く地面に倒れ伏した。意識があり、立ち上がろうにも力が入らない。ぐっ、と呻きながら、それでも対抗するように睨み付けるが、エイジはアルトを見下ろした状態で溜息を付く。その光景に眼を見開く。
ーーー俺如きじゃ、相手に成らないってか⁉︎
倒れたアルトを見て、遠巻きから見ていた女子達と会話をするエイジに、歯を噛み締めて彼は悔しがった。確かに自分は、負けた。それは分かる。だが、あの表情が動作が気に食わない。まるで、アルト自信が弱過ぎて話に成らないと言った雰囲気だ。
ーーーふざけるなっ‼︎
アルトの心中には、踏み台転生者としての考えであるハーレムや、女子を手篭めにする事など無かった。今の彼には、負けた屈辱と、納得が行かない事に腹を立てていた。それでも、エイジには勝てない事は明白だ。特典と言う名のチカラを貰い、修練や修行を怠った彼の自業自得だ。だが! だが‼︎ とアルトは、眼に炎を灯した。確かに今の強さに、驕り強く成る事を怠った。
ーーーだけど、まだ俺は強くなれる筈だ‼︎
なら、これから強く成れば良い。エイジよりも、誰よりも強くなって見返してやる。アルトの胸中に、誰よりも強く成る事を願った。そんなアルトに、変化が行き成り現れる。ドクンっと心臓が脈打ち、全身が熱くなる。まるで、自分の体も強く成る事を望んでるかのように。数人の女子と会話をしている、エイジをチラッと一瞥してアルトは、その場から離れた。
ーーー待ってろ‼︎ 絶対にお前を超えてやる
まだ敵わないが、いずれお前を倒す。と、言うように離れながらエイジを睨み付けた。強く成る為には、こんな学生達と一緒じゃ強く成れない。なら、ここから離れるか、とアルトは考える。そして、強く成るなら、今自分が持っている能力。ニコポナデポと膨大な魔力、刀剣創造は要らない‼︎ これは全部、必要無い。このチカラがある限り、彼奴に勝つ事は出来ない。
己が神に望んだ筈のチカラを、アルトは自ら手放した。チカラを失い、脱力するが何とか耐える。チカラは貰うのでは無く、自ら手に入れるのだ。そうすれば、アルトは強く、強く成れる。なら、新たなチカラを手に入れる事から始めよう。
「俺は絶対に強く成るっ」
森を進みながら、彼は日が沈みかけている空を眺め叫んだ。こうして、一人の転生者の運命が変わろうとしていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
森から離れて、数日経った頃、アルトは谷に来ていた。ルミナス学園の合宿期間は、五日だ。もう合宿は終わって戻ってる頃だろう。だが、そんな事は気にしない。強く成れればそれで良い。この谷には、強力な魔物がうじゃうじゃ居る。ここでなら、アルトは何故か強く成れると分かった。谷を下って行くと、心臓が徐々に高鳴って行く。何かに近付けば、近付くほどに激しさが増す。
「………この近くに、何かあるのか」
自分の勘もとい本能で、進んで居たアルトは周りを見渡して呟く。谷底は暗く、まるで奈落だ。その奈落の底に、アルトは何かが居ると直感していた。そう、巨大で強大な存在が。唾を飲み込み彼は、歩くのを再開させる。
何分経ったのだろうか? もう数時間も経過している感覚にすら陥る。谷の底を目指して歩いていると、アルトの周りは闇に覆われたように暗かった。一m先すらも見えない。ぶつからないように、最善の注意を払ってアルトは、恐る恐る進んで行く。明ける事の無い常闇に包まれている空間に眼を向けていると。
「ーーーーッッッ⁉︎」
突然に奥の方から、馬鹿げている程の圧力が襲った。全身が強張るのが分かる。冷や汗が噴き出し、本能が逃げろと告げる。にも関わらず、心臓は待っていたと言わんばかりに高鳴る。この先に、目指すモノがあるのか。アルトは、本能よりも自分の心臓の反応を信じて前に進む。
前に歩く度に、圧力が増して行き身体が鉛のように重たい。強過ぎる圧力に、冷や汗は一周回って引いていた。喉が渇いて水分が欲しい。それでも彼は行く。歩いて行くと、風が吹いた。ここは暗くて分からないが、広い空間に成っているみたいだ。この場所に来た時、先程の圧力が消えていた。何故消えたのか分からない、アルトは見回した。
「如何なってんだ? 圧力が行き成り消えるなんて、如何言うこ………」
アルトの言葉が途切れて硬直した。彼の視線の先には、二つの紅い光が浮かんでいた。いやこれは光ではない。これは、“眼だ”。真紅に輝く、紅い紅玉の瞳がアルトを見詰めている。首を上げて全体像を見る。暗くて余り分からないが、蛇のように地を這いゾゾゾゾッと音を鳴らす。全長は、ゆうに軽く千mは下らない。そう、アルトの目の前に居るのは、龍だった。
龍のような蛇。蛇のような龍。その姿は龍蛇だ。漆黒で黒い光沢のある鱗を持つ龍蛇。何処か禍々しく、それでいて神々しい。
『人間よ。何故貴様が、ここに居る』
「…………ッッッッ」
龍蛇の言葉にアルトは、叩きつけられるような感覚に陥る。格が、次元が、生物としての存在そのものが違う。それが今の言葉で分かった。そして、何故圧力が行き成り消えたのかも。そう、本能が逃げたのだ。目の前の龍蛇が発する圧力に、本能が感じる事を拒否している。だからこそ、今の自分には龍蛇のチカラが感じ取れない。
それが不気味でしょうがない。アルトが、龍蛇の言葉に答えれずに居ると、龍蛇が言葉を告げる。
『答えられないか』
「お、俺は………」
ゴクリと唾を飲み、龍蛇を見上げてアルトは思う。強く、強く。誰よりも圧倒的な“チカラが欲しい”。そんな想いが渦巻く。だからだろうか。彼が龍蛇に向かって。
「ーーーチカラが欲しい。だから、テメェのチカラを寄越せ」
こんな事を言ったのは。
『く、くくくはっははははははッッ‼︎ 愉快愉快。人間が、この我に啖呵を切るとは‼︎ 生まれて、初めての事だ』
龍蛇は笑った。面白可笑しく本当に、楽しそうに嗤った。龍蛇は無であり、有でもある存在だ。この世界が出来た当初から居る、正しく原初の生物である。だからこそ、目の前でそんな事を抜かす人間が面白かった。だれも、龍蛇にそんな事を言った存在は居ない。伝説の種族と謳われた『皇帝族』も、王の名を冠する『竜王』も、そして世界に君臨していた『魔神』ですらも、龍蛇を怖れて引いたのだ。
それなのに。それなのにだ。その上げたモノたちより、確実に脆弱で、貧弱で、弱者である筈の人間がチカラを欲する為とはいえ、啖呵を切ったのだ。これが、愉快とは言わず、何と呼ぶ! 実力差が分からない程、目の前の人間は愚かではない。なのに、この人間の眼は闘志に溢れていた。
『チカラが欲しい? くくっならば、我を屠ってみよ』
「…………ッッッ」
だから龍蛇は、告げていた。チカラが欲しいなら、倒してみろと、殺してみろと。そう龍蛇は、答えていた。総ての原初であり、無限の体現者にして、チカラを司る世界そのモノ。無にして有。“龍神ウロボロス”は、小さな勇者に、そうして挑戦状を叩きつけた。それと同時にアルトは、走った。腰に下げてる剣を抜き、龍蛇に迫る。
倒せばチカラが手に入る! 屠ればチカラが手に入る‼︎ 殺せばチカラが手に入る‼︎! 頭の中にはもうそれしか無く、貪欲に欲した。龍蛇は、それを見てニィィィと口元を歪め、咆哮を放つ。軽く放たれた咆哮は、空気を大気を震撼させ、衝撃波を叩きつけた。全身が揺さぶられ、アルトの身体は、その衝撃によって後方に吹き飛んだ。
地面を何度もバウンドして、アルトは端まで転がる。たった一撃。いや触れさせずに、たったの叫び声だけでアルトの身体はボロボロに成った。苦痛に顔を歪める。直ぐに逃げ出したい思いを、無理矢理捩じ伏せる。もう、あんな思いはしたくない。あんな屈辱は懲り懲りだ。負けは許さない。勝利だ。勝ちたい‼︎
「ぐッッ⁉︎ ま……だ、だっ」
全身に奔る激痛に耐え抜き、アルトは頬を引き攣らせてそれでも笑う。こんなもんじゃ、やられないという風に。龍蛇は、そんなアルトを見て口角を吊り上げた。まだ、こんな人間が居たのか。ヨロヨロとフラつきながらも立ち上がるアルトを見て、龍蛇は思った。これ程までの精神力を持つ人間が、まだ生きていたとは。太古の昔に居た人間族は強靭だった。
強く、逞しく、それで精神力が凄まじかった。何年もの時で、そのような人間は絶滅したが。まさか、彼等のような精神力を持つ者に会おうとは。実に面白い。強くも無ければ、逞しくもない。なのに、目の前の人間の意思は、この己にすら匹敵し得る。
「まだまだだぁ‼︎」
声を荒げてアルトは怒号を上げる。特典を消した所為で、一般人より少し多い程度の魔力に成った魔力で、身体能力を強化させて、足を引きずりながらも駆ける。剣を握り締め、龍蛇に向かって剣を振るった。上段から振り下ろされた剣は、龍蛇の身体に当たるが、傷を付けられず弾かれる。それでも、諦めずに何度も何度も斬りかかる。息を止めて一心不乱に振るう。
だが、その何れもが傷を付ける事は叶わなかった。そんなアルトに、龍蛇は紅い紅玉で見詰め尾で薙ぎ払う。長い胴体が身体を震わせ激突する。アルトは吐血しながら宙を舞った。今の攻撃は、何の事は無い。ただ、蝿を払うかのように身体を動かしたに過ぎない。たったそれだけで、アルトの命にすら届き得る。地面に落下して、アルトは血を吐き出す。それ程の威力だった。
桁が違う、次元が違う事は知っていた。だが、敗北の味はもう味わいたくはない。彼は最初っから踏み台転生者だった訳ではない。転生する前は、家族に優しい青年だった。そんな彼が変わったのは転生した時だ。今でこそ貴族だが、アルトが生まれたのは、スラム街だった。生まれた当初は、それは酷かった。親からは虐待され、食い物すらも全然与えられなかった。
そこは正しく地獄だった。親が死んでからは、その親の親戚という貴族に引き取られた。そこからは、好き放題だった。虐待の影響で、アルトの性格は変わっていた。だが、数日前にエイジに負けて、彼は気付いた。自分がやっていた事に。こんな気に入った女子を、無理矢理誘い、虐げる行為はあの親と変わらないと気付かされた。
そして、それよりも、強さに嫉妬した。何故自分はこんなに弱く、彼奴があんなに強いのか。それが許せなかった。今のアルトには、昔の考えはない。やり直せるのなら、やり直したい。引き取ってくれた叔父にも悪い事をした。だけど、今は誰よりも強くありたい。アルトは転生前の自分に、戻りつつあった。
ーーードクンっ‼︎
そんな時、アルトの心臓がここ一番で高鳴った。血流が勢いよく流れ、身体の全てが活性化しているのが分かる。またドクンっと脈打つ。それに呼応するかのように、アルトは身体の奥底からチカラが漲ってきた。ザワッと空気が雰囲気が変わる。
『………っ‼︎ これは』
それに龍蛇も気付いた。何かが変わった。見た目はそのままだが、今目の前の人間は何かが違う。そう、格が人間の位が上がったかのような。すると、アルトから暴風が吹いた。その変化に、龍蛇の第六感が警戒音を響かせる。初めての警戒音に、龍蛇は戸惑った。そんな困惑を知らずに、立ち上がっていたアルトは地面を踏み砕き、龍蛇に肉薄した。そして、剣を捨てて右手を握り締め、龍蛇に叩きつけた‼︎
空間内に轟音が鳴り響く。龍蛇の身体が、軋み痛みを襲った。千mもの巨躯が殴られた衝撃に、揺れた。その事に眼を見開く。初めての警戒、初めての傷、初めての痛み、何もかも初めての経験に身震いする。
『ははははははっっっ‼︎‼︎ 凄いぞ凄いぞっ‼︎ この我に傷を与えるか』
笑いが如何しようも無いくらいに、込み上げてくる。新鮮なのだ。戦いを挑まれる事も、傷を負う事も。今日という日が、何と良い日か。運命があるというのなら、その運命に感謝しよう。見える。さっきまでは、微々たるものだった筈の人間が、今ではチカラが膨れ上がっている。何が切っ掛けでこうなったのか分からない。だが、目の前の人間は、龍蛇の領域に踏み込んでいる。
『超越者』。そんな言葉が龍蛇の頭に思い浮かんだ。そう『超越者』だ。何故かこの人間にシックリする。まだチカラが上がっていく。人間に付けられた傷は、もう“完治”していた。無限の治癒力がそうさせてしまうのだ。そして龍蛇は、己の命に届き得る存在に成った人間に向かって、咆える。
『さぁ掛かって来い‼︎ 『超越者』。我を屠りチカラが欲しいのだろう? ならば、全身全霊を持って我と戦えっ‼︎』
「言、われなくても。やってやるっ」
アルトは大地を蹴った。その際に、ドゴン‼︎ と音を鳴らし小さなクレーターを穿つ。明らかに、さっきよりも膂力が上がっている。アルトの心境は穏やかだった。頭は冷静で、身体は熱く。五感が冴え渡り、龍蛇の攻撃すら避けれるようになった。今の自分は、龍蛇のチカラが理解出来る。先程までは近くに居たのに、全く理解出来なかったが。分かる。
その巨大差が、その規格外差が、その出鱈目差が、分かった。これなら、一蹴されて当たり前だ。この存在は、強さなど馬鹿馬鹿しいと思う程の領域に居るのだろう。今のアルトでも、勝てる気がしない。でも、だから如何した‼︎ 勝てないと分かってたのは、最初からだろう。今更、何に怖気付く。勝てないなら、0.01%でも0.1%でも勝てる確率を上げるまで。
龍蛇の放つ尾を避けて掻い潜る。懐に潜り込んだアルトは、両足に力を込めて大地を足で掴む。それから、足から膝、腰、肩と行って全身を使いチカラを伝達させ右拳を放った。龍蛇の胴体に、衝突して一瞬だけ巨躯が持ち上がった。アルトの右拳と、殴った胴体から血が滲む。だが、直ぐに龍蛇の胴体の傷が癒える。そこから、アルトは連打を浴びせた。
右拳、左拳、肘打ち、回し蹴り、と次々と休みなく打ち込んで行く。徐々に治癒力を超えて行き傷が増して行く。
『これ程かっ⁉︎ これ程までかっ‼︎ 人間よ、もっと我に見せてみろ』
すると、龍蛇の身体から魔力が放出された。それにアルトは驚愕する。龍蛇から放出された魔力は、上限など無かった。そう魔力量は、無限。そんな漆黒の魔力に、アルトは恐れるどころか、笑みを浮かべた。龍蛇を倒せれば、この魔力が手に入る。龍蛇もアルトの考えてる事に気付いたのか、口元を歪めた。そして紅い紅玉がキラリと光った刹那ーーー
「………なっ⁉︎ マジかよ⁉︎」
ーーー無数の閃光がアルトを襲った。両手を曲げ防御の態勢を取る。『超越者』としての身体能力で、その全てを受け切った。腕が痺れるが、今は早く動く事が先決。次の追撃を警戒して、アルトは離れようとするが、もう龍蛇は這うように移動して目の前に迫り、アルトを弾き飛ばした。魔力を込められた体当たりに、今までに無い威力が襲う。
五感が鋭くなったアルトでも、今の龍蛇の動きは見えなかった。まだだ、まだ足りない。両手を握り彼は思った。立った彼は、手に持った“モノ”を口に入れた。それに、龍蛇は驚愕を露わにする。
『ッ⁉︎ 人間、それは我の』
「あぁ、お前の肉だ」
口に含んでいるモノは、龍蛇の肉だった。体当たりされた際に、アルトは龍蛇の肉を削り取ったのだ。そしてそれを口にしている。 変化は直ぐに現れた。一般人より少し多い程度の魔力が膨れ上がったのだ。龍蛇の無限の魔力の一部を手に入れた。これで、龍蛇との勝つ確率が0.01%には成った。後はやるのみ。『超越者』の身体能力に、魔力でより一層に強化する。
立っているだけで、地面に罅が入る。龍蛇は笑うしかない。何も強化しないで、自分に傷を付けたチカラを魔力で更に強化など、しかも自分の魔力でだ。一体、あの人間の今の身体能力が想像付かない。もう、目の前の相手は遊び相手では無い。見逃さないように、アルトを見詰める。が、視界からアルトの姿が掻き消えた瞬間ーーー横から衝撃が襲った。
『ーーーーッッッッ⁉︎』
分からなかった。見えなかった。龍蛇の眼ですら捉えられなかった。ここまでか。ここまで来たのか。龍蛇の身体が勢い良く、横に飛びながら思った。嘗て感じた事の無い激痛が全身に奔る。竜王を皇帝族を、魔神すらも凌駕するその一撃は、間違いなく最強の一撃。
『ぐぅぅぅぅぅっっ、まだだ‼︎ 人間っ』
激痛に耐え、龍蛇は咆える。顎を広げそこに漆黒の魔力を集め出した。上限の無い無限の魔力が、収束して行き凝縮し圧縮されるサマを見たアルトは冷や汗が噴き出す。龍蛇が放とうとするモノに、アルトの脳裏に考えたくない光景が過る。ヤバイと思いアルトは動いていた。
「やらせるかぁっ」
『ーーーーーぐっ⁉︎』
一瞬にして近付いたアルトは、圧縮されている魔力に冷や汗を流しながら、顎に掌底を打ち抜いた。そして、上空に“世界を揺るがす魔力の奔流”が放たれた。漆黒の魔力が大空を覆い尽くし、谷底に居るアルトにも視認出来た。その余りにもな威力に、竦み上がる。アレを喰らっていれば、如何なっていたのか。考えたくもない。
直ぐに気を取り直し、龍蛇の胴体に回し蹴りを浴びせる。風を切り裂き対には、パァァンン‼︎ という音の壁をぶち抜き轟音が轟く。龍蛇は呻き身体が揺れる。だが、追撃の手は緩めない。勝機は僅かしかない。ここで逃せば勝てる機会が失う。だがらこそ、アルトはこれでもかと言う程に、拳打を叩きつけた。
目の前の龍蛇は確かに理解の範疇を超える程に強大だ。だが、だからと言って死なないとは限らない。そう、肉体的に殺せば良い。生物であるならば、肉体を殺せる筈だ。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉっ」
止む事は無い連打を放ち、彼は声を上げる。殴打する度に激震が辺りに奔る。龍蛇の身体を殺す為に、必死に一心不乱にする。
『くく、ははははははっっっ‼︎ もっとだ、もっと来い‼︎ 人間』
至る所から血を流し龍蛇は、上空に巨大な魔法陣を構築させる。魔力光と同じ漆黒の魔法陣から、幾重もの閃光が迸る。容易に戦略級殲滅魔法を超える魔法が、全てアルトに迫り来る。それにアルトは、魔力で強化した右拳を振るう。閃光と振るわれた際に生じた拳圧が、衝突した。周りを容赦無く抉り拮抗する。
次の瞬間、カッ‼︎ と目の前が白く光り耳を劈くような爆音が響いた。その時にはアルトは、前に動いていた。龍蛇も新たに魔法陣を展開して、今度は小さな太陽と見まごう火球を繰り出す。轟々と空間する焼く灼熱の太陽に、彼は全身を魔力で包み込む。
「くっそぉぉぉぉぉぉ⁉︎ 負、けるかよぉ⁉︎」
迫る燃え盛る太陽に、アルトは両手を前に出し受け止める。太陽がアルトの身体を焦がし、顔を苦痛に歪める。お互いに満身創痍で、もう直ぐ終わりが近いと確信する。恐らくはこれが、最後の攻防だろう。龍蛇はその世界を破壊し得るチカラで、アルトは『超越者』としてのチカラで真っ向から相対する。
両足で地面を掴み、アルトは全身にチカラを込めて踏ん張る。龍蛇は魔力を有限なく太陽に注ぎ込んでいる。アルトが踏ん張っている間も太陽は、注ぎ込まれる魔力によって肥大化して行く。もっと、もっとチカラを。抑えきれない太陽に、彼は内にあるチカラを絞る。身体の細胞が、活性化し傷を収束に癒す。
「ぐぅぅぅぅぅおおおぉぉぉぉぉっ⁉︎」
『………なにっ⁉︎』
太陽の中を突っ切るアルトに龍蛇は、驚愕した。逃げようとするが、身体が傷付いて思うように動かない。そして灼熱を纏ったアルトの拳が龍蛇に放たれた。轟音が鳴り龍蛇の身体が吹き飛ぶ。身体中が焼け爛れ、アルトは地面に倒れた。もう指の一本も動かせない。ここで龍蛇が、動けば死ぬなと彼は笑う。
アルトの倒れた先から、何かが動く音が聞こえて視線を動かす。そこには龍蛇が顔を向けて倒れていた。
『くく、人間。まさか本当に、我を倒すとはな。貴様には初の経験をさせて貰ったぞ』
「はは、そうかよ。そりゃ、如何致しましてだ。………因みにもう動かないよな?」
『それなら安心しろ。何故だか分からぬが、我の再生能力が機能していない。時期に我は生物としての死が来るだろう』
もう直ぐに死ぬと言う龍蛇に、そうかと答え沈黙する。数秒、静かな時間が流れ気まずくなった時に龍蛇は口を開いた。
『人間、貴様はチカラを手に入れて何を成す。己の陵辱の限りを尽くすか? それとも蹂躙の限りを尽くすか?』
「………さぁな、そんなのは手に入れてから考える。ただ、まぁチカラを欲した理由は、誰にも負けたくない何て理由だったけどな」
最初にチカラを欲した理由は、誰にも負けたくないと言う思いを語る。だが、いざ考えると、そのチカラで何がしたいのか分からない。もう、自分は以前のような踏み台転生者では無い。寧ろ過去に戻れるなら、ぶん殴りたいくらいだ。はっきり言って、黒歴史に載る程の恥ずかしい過去だ。
そんな過ぎた過去に思いを馳せてると、龍蛇の身体が光り輝き粒に成っていく。それは何処か幻想的だった。
『む? 如何やら我はここまでだ。最後に人間よ、始めて我を倒した貴様の名を聞きたい』
「………アルトだ。俺の名前はアルト・レイベストだ」
『そうか。では、人間アルト・レイベスト。よくぞ、我を倒した。また会おう』
「あぁ、また会おうぜ」
出会ったのは数時間程度なのに、何故か数十年も一緒に居た好敵手とアルトは錯覚した。そして龍蛇の身体が、完全に光の粒に成りアルトの上空に流れる。と、その光の粒全てが、アルトに流れ落ちた。アルトの中に粒が入って行くと、頭痛と共にチカラが脳裏に流れる。
破壊と再生を司り、無限を体現し、無にして有、総ての原初。あの龍蛇のチカラを理解する。それと同時にアルトは、笑うしかない。まさか、戦いを選んだ相手が世界で原初の生物だとは思わなかった。そして持っていたチカラの強大さに。使いこなせる気がしない、と思い次に起きた時は頑張って制御出来るようにすると誓い、アルトの瞼がユックリと落ちていき暗転した。