3.教室
ホームに降りるとあたりは同じ制服を着た学生で溢れていた。
さわちゃんと一緒に改札を通り学校へ向かう。
ウチの学校は駅から徒歩5分という素晴らしい立地条件なので駅を出た生徒ほぼ全員が歩いて学校へ向かう事ができる。
「じゃぁ、またね」
「うん、ありがとねー。応援よろしくねー」
「はいはい、こっちもよろしくね」
「はーい」
さわちゃんの教室の前で別れる。
実に可愛かった……
平均よりもやや低い身長と大きな瞳にシュシュが似合うポニーテール、
しかも、あんな幼く華奢な身体で水泳部のエースを務めているというギャップ、
何より絶える事のない笑顔。
球技大会での楽しみがまた増えた。
朝から運がいい。
教室に入り、窓際、後ろから2番目、自分の席に座る。
教室全体を見わたすと、もう全体の8割程度の生徒がいることがわかる。
やはりほとんどが半袖を着ている。
席を立ち、1番前の席に座る人物に声を掛ける。
しっかりと着こなした制服、綺麗に手入れがされているしなやかな髪。
制汗剤のミントの香りが清潔さを醸し出し、携帯電話をいじっている手首に結ばれているミサンガがシンプルながら本当にお洒落だ
「おはようさん」
「おっ蒼輔!! はよーっす」
と、徳田眞太は振り向きながら返事をする。
『女たらし』だからといって女の子ばかりに声を掛けてはいけない。そんな事をしていたら女の子に軽い男と見られてしまうし、男子からも嫌われてしまう。
男に嫌われている男によってくる女の子がいるだろうか。
故に、「男付き合い」は僕にとってとても重要なのである。
まぁ、元々男としか遊んでいなかったので特に苦労もなかった。
ちなみに眞太は高校に入っての初めての男友達だ。
ふと眞太の携帯電話のホーム画面の背景に目がいく。
「お? その子、彼女?」
「そうだよ、悪いかよー」
そう言いながら眞太は恥ずかしそうに画面を下にして携帯電話を机に置く。
「いやいや全然…………どっちから?」
「……こっちから、だよ」
「まじかー!! よかったなー、おい」
「ちょっ、おまっ、声でけぇよ!!」
どうしたどうした? と近くにいた他の男子生徒が数人集まってきた。
「なっ、なんでもねぇよ!! 蒼輔ぇ!! 覚えてろよー」
「スマン、ワザトジャナイ」
その後眞太は尋問されていたが、いつの間にか話題が変わっていた。
女の子には気を使ってしまうのに対し、こういう奴らには勿論、人間としての最低限の礼儀はあるが、基本的に気を使わないでいいので非常に落ち着く。
しばらくしてHR開始のチャイムが鳴り、全員がわらわらと各自の席に戻った。