2.乗車
1年前
「わりぃ蒼輔、今日行けないわ」
一緒に遊びに行くと約束していた親友からの電話越しの謝罪に拳を握りこむ。
1回位ならそんなに苛立つことはないのだが……
「お前これで10回目ぐらいじゃね? どうした?」
単純に親友の俺よりも優先するものが何なのかを知りたかった。
「あれ? 言ってなかったっけ? 実はさ、彼女がさー」
「彼女ぉ!?」
「そう、ガールフレンド。あ、もう行かなきゃ、じゃぁなー」
「あっ、おい!!」
ツーツーという無機質な音が受話器の向こうから静かに鳴り響く。
混乱する頭を整理するためにベッドで横になる。
小学生の時から毎日のように遊んでいた大親友だ。
彼女ができたなんて、その前に好きな人がいたなんて聞いてない。
そもそもアイツは俺と同じで女とはほとんど喋ったことがないはずなのに。
友情より女を優先したアイツに対しての怒りよりも、
ただただ羨ましい、嫉妬心が強かった。
悔しい……
こんな感情は初めてだった。
出し抜かれた気がして堪らない。
俺だって……
「どうしたのー? ボーっとして」
「え? あぁゴメンゴメン。で、バレーだっけ? さわちゃん」
「そうだよーみんな気合入ってんだからー」
「応援するよ」
可愛らしくガッツポーズをするさわちゃんに向かって親指を立てる。
そう、俺、もとい僕はあの頃から『女たらし』になった。
沢山の女の子とお喋りしたい、その一心で努力した。
努力といっても中身の方が重点的だった。
中学時代は女の子の脳内に元々の僕がいたのであまりうまくいかなかったが、
高校に入ると初めて会う女の子ばかりだったので効果は絶大だった。
そして今現在も日々努力を怠らず生活している。
「代木クンは何にでるのー?」
「僕? えーっと確かバスケだったかな」
「おー、ウチのクラス強いから頑張ってね」
「えー応援してくれないのかよー」
「えーどうしようかなー」
と、来週か再来週ぐらいにある球技大会について話していると、無機質な車内アナウンスが目的地へ到着することを知らせる。