1.登校
5月
暦上ではまだ春だというのに、駅のホームでは半袖のサラリーマンや学生があちこちにいる。
ただ、全員が全員タブレット式の携帯電話を手にひたすら指を動かす姿は、いつもと変わらない風景だ。
もちろん、僕、代木蒼輔もその行為は欠かせない。
友人との情報交換や、最新のニュースのチェック、話のネタは沢山あったほうがいい。
「あー!! 代木クンだー」
声のする方を見ると、同じ学校の制服をきた女の子がいた。
「――おはよう、さわちゃん」
考える前に返事をする。
おはよーと可愛らしい笑顔で挨拶して、僕の隣にきたのは隣のクラスの小澤佐和ちゃんだ。
駅で会うのは初めてだ。
相変わらず、可愛い。
ふむ、髪を結ぶものがいつもと違って目立つものになっている。
……ということは、
「あれ? なんか、かわった?」
と、言いながら彼女の頭の方を指差す。
「おー気づいたー? 髪の毛3cm切ったんだー」
ほらね
「やっぱりー、そのシュシュも似合ってるね」
「ありがとー」
予想的中、さすが僕。
思いっきり口角を吊り上げたいが、我慢して自然な笑顔をキープし会話を続ける。
女の子は些細な変化も見逃してはいけない、髪の毛なんかは数cm切ったぐらいでも気付かなくては。
「あー電車来たよー」
さわちゃんがそう言い終わると同時に、長い車両が僕達の目の前を横切り、停まる。
「じゃあ、一緒に行こっか」
「はーい、私達2人でいるの誰かに見られたら何か勘違いされちゃうかもねー」
車内に入り、ドアの近くに立つとさわちゃんが髪の毛を指でいじり笑う。
「えーそうしたら嬉しいな」
あえて笑いながら言い冗談であることをさり気なくアピール。
それを聞いて、さわちゃんはまた笑う。
今日も出だし順調だ。
僕はさわちゃんの彼氏ではない、というよりそもそも彼女はいない。
俗に言う『女たらし』だ。
決して悪い意味ではない。
ただ単純に、沢山の女友達がいれば楽しいのだ。
いつから僕はこんな風になってしまたのか、まぁ中学生の時からだろうな……
さわちゃんと喋りながらそんなことを思う。