トカゲじゃない?
トカゲを飼う許可はすんなりと下りた。世話の一切を自分ですること、それが条件だった。
だけどたった一つ不満なのは――
(なんでキューちゃんじゃ駄目なの!?)
キュ、と鳴くからキューちゃんなのだと言ったら、母と姉がそれじゃ簡単過ぎると反対したのだ。珍しいトカゲなのだから、もっとスゴい名前を付けろと姉は言う。
(スゴい名前って何!?)
とにかくキューちゃんじゃ駄目だと付け直しを命じられた。三つ上の姉に口で敵うわけがない。
(お父さんが帰ってきたら聞いてみよう)
娘に甘くて適当な父なら、キューちゃんでもいいと言ってくれるだろう。
それより今問題なのは、トカゲが何を食べるか分からないことだ。
とりあえずミルクを上げたら飲んだ。お腹いっぱいになったのか、すぐに丸くなって寝てしまった。膨れたお腹が可愛い。指で撫でると、くぴ、と寝言のように鳴いた。
(可愛い~!明日はセイジさんの所に行って、トカゲの赤ちゃんは何を食べるのか聞いてこよう)
セイジさんは村一番の物知りだ。だから羽の生えたトカゲのことも知っているはず。
(でも、きっと珍しい種類だ。さらわれないように気をつけなきゃ)
眠るキューちゃんを撫でながら決意した。
でも、まずは。
(キューちゃんのベッド作らなきゃ)
父が帰ってきて、キューちゃんを見せたら「これはトカゲじゃない」と言い出した。トカゲに角や羽は無いと言う。
「あなたが知らないだけじゃない?」
母の言葉に父が反論する。
「いいや、これはトカゲじゃない。トカゲはもっと細いだろう」
確かに、このキューちゃんは全体的に丸っこい。
「太ってるだけじゃないの?」
姉もそう言うが、父は、絶対変だと言う。
「トカゲじゃなかったら何?」
「分からん…」
「明日!セイジさんに聞いてみるよ!」
両親が話してるのを慌てて遮る。このままでは捨ててこいと言われかねない。
「そうね、セイジさんなら知ってるわよね!」
「そうだな」
セイジさんの名前で納得した。さすがセイジさんだ。