試してみる?
ルゥイの家で過ごす二日目の夕方、私は殿下に「話がある」と言われた。
「リゼ、明日、デュマに元の場所に帰れるか試してもらおう」
二人きりになると、殿下がそう言った。
「え!?」
私は喜びよりも驚きのほうが大きかった。
「でも、殿下、ほかの時代に行くかもしれないって……」
「うん。その可能性はあるけど、試してみてもいいかなと思って」
そう言って殿下は私の顔をじっと見て、突然謝った。
「ごめんね」
何で謝られたのか分からずにうろたえていると、殿下は申し訳なさそうに言った。
「今朝、泣いてたんでしょ」
隠してたつもりでも、バレていたようだ。
「本当は、私は帰りたくなかったんだ」
殿下の言葉に、私はやっぱり、と思った。
「でも、リゼを巻き込むのは駄目だよね」
殿下は、私のために帰るのを試す気になったらしい。
「……殿下は、どうしてそんなに逃げたいんですか?」
気付くと、私は殿下に問い掛けていた。
「どうしてかな……自分の立場が窮屈で不自由で、外の世界に出て行きたくなるんだよね」
我が儘なのは分かっているんだけど、と殿下は呟いた。
殿下には殿下の理由があって帰りたくないのだろう。
でも私は帰りたい。
「……試してもいいんですね?」
「うん。帰れるのなら、帰るよ」
「もう逃げるのはやめるんですか?」
「さあ……帰ってから、また逃げるかもしれないけど」
そう言って、殿下は悪戯っぽく笑った。
その笑顔につられて、私も笑顔になった。
沈んでいた気持ちが浮上しているのを感じていた。