村に戻る?
「とにかく今はオスタ村に戻ろう」
殿下にそう言われたけど、私は戻りたくなかった。
あんなふうに見送ってもらったのにまた戻るのは恥ずかしいし、それに、デュマに元の場所に帰してもらうのを試してみたかった。
殿下に言っても駄目だと言うだろう。
デュマも、元の場所に戻るより、ここに居たいと言っている。
帰りたいのは私だけ。
(キューちゃん……会いたいよぅ……)
涙が出てきた。
ここで泣いちゃ駄目だ。そう思うのに、一度流れ出すともう止まらなかった。
「リゼ」
殿下が声を掛けてくるけど、応えられなかった。
(キューちゃん……グレイス様……お母さん、お父さん、お姉ちゃん)
皆に会いたくてたまらない。
帰れないかもしれないなんて、考えたくない。
「リゼ、ごめん、私が悪かった」
(なんで殿下が謝るのよ)
八つ当たりに近い気持ちで私は思っていた。
(殿下に謝ってほしいわけじゃない)
「リゼ。とにかく一度村に戻ろう」
殿下の言葉に、私は首を振った。
「……じゃあ、ルゥイの村に行こう。また来るように言われていただろう?」
そう言われて、ソンニの村に戻るよりは、ルゥイの村に行くほうがいいかと思った。
私がうなずくと、殿下はホッとしたように息を吐いた。
「とにかく、今はゆっくり休むんだ。それから戻る方法を考えよう」
殿下にそう言われて、私も今は何も考えたくないと思った。
私はデュマに言って、ルゥイの村に向かうことにした。
「リゼ」
殿下がハンカチを貸してくれた。
私は小さな声でお礼を言って、借りたハンカチで涙を拭った。
(泣くのは後にしよう)
そう思って涙を堪えた。