過去の世界?
「過去の世界……?」
「ソンニの村には族長がいただろう? 昔はそういう呼び名があったけど、今はないはずなんだよ」
それに、と殿下は続けた。
「オスタ村と言っていただろう? オスタは古い言葉で“流れ者”という意味だ。そして、ジェイオスタは“偉大な流れ者”という意味なんだ」
――ジェイオスタは私たちの国の名だ。
「ジェイオスタという所を知らないかと訊いてみたけど、知らないと言っていたし」
「でも、それだけで……」
「それだけじゃないんだ」
殿下は私の言葉を遮って続けた。
「ジェイオスタの最初の王は、銀の竜に乗ってやって来たと伝承にあるんだ」
「……つまり、殿下が最初の王だって言いたいんですか?」
「私じゃなくて、君かもしれないけどね」
「私のはずないですよ!」
「うん。たぶん私のことだと思ってる」
殿下が自信満々にそう言った。
殿下の根拠には納得できないけど、タッセオ山とセラージュ湖があるのに城がないことが、過去の世界だからと言われればそうかもしれないと思った。
(何でこんなことに……)
そう思った時、そうだ! と思い出した。
「デュマだっ!」
「デュマ?」
「そう! デュマが私たちをここに連れて来たんです」
「それがどうかしたの?」
「どうかしたじゃなくて! デュマが私に『一緒に行こう』って言ったらこの世界に来てたんです!」
「……つまり、デュマが私たちを過去の世界に連れて来たんだね?」
「そうなんですっ!」
私は興奮気味に言った。
本当にここが過去の世界かどうかは分からないけど、デュマが連れて来たのだから、元の場所にも戻れるはずだ。
私はデュマを振り返った。
「デュマっ」
デュマは呑気に湖に入って水浴びをしている。
私は湖の端まで行ってデュマに呼び掛けた。