城がない?
次の日。
約束通り、私たちは村を出発した。
見送りは村の全員でしてくれて、たくさんの感謝の言葉とお土産を貰った。
ほとんどが食べ物だったので、私はキュアーへのお土産ができたと喜んだ。
「とりあえず、タッセオ山に向かって飛ぶように言って」
殿下にそう言われて、私はデュマにタッセオ山の方向へ向かって飛んでもらった。
「帰れるといいけどね……」
殿下が呟くのが聞こえた。
どういう意味だろうと思って振り返ると、殿下はなにやら難しい顔をしている。
なんとなく話しかけ辛くて、私は黙って前を向いた。
タッセオ山が近付いて、セラージュ湖が見えてきた。
……けれど、城のあるはずの所には何もない。
「何で……」
私は目を凝らして、必死にあるはずの物を探した。けれど、そこにはただ森が広がっているだけだった。
「……やっぱり」
殿下が呟くのが聞こえて、私は振り向いて彼に問いただした。
「どういうことですか? 何でお城がないんですか!?」
「落ち着いて!」
これが落ち着いていられるかと思ったが、殿下に「とりあえずデュマにセラージュ湖に降りるように言って」と言われたので、私はデュマに湖に降りるように言った。
セラージュ湖にはたくさんの竜たちがいて、私たちの方を興味深げに見ていた。
けれど私はそれどころじゃなく殿下に詰め寄った。
「殿下! どういうことなのか説明して下さい!」
「わかった、説明するから、とにかく落ち着いて」
そう言われて私は黙って殿下の説明を待った。
殿下がデュマから降りたので、私も続いて降りた。
殿下はため息を一つ吐くと、ゆっくりと口を開いた。
「これは私の憶測なんだけどね……」
殿下は湖の竜たちを見ながら言った。
「ここは過去の世界なんじゃないかと思うんだ」