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第一部第二幕【忍び寄る黄色い影・第四段】

〜 OL三国志演義 第一部【イエロースカーフの乱】 第二幕 【忍び寄る黄色い影・第3段】


 玄田徳子と関長子が緊急の【軍議】を終えて化粧室から宴席に戻った時、張本翼は宴席を盛り上げようと躍起になっていた。角田をはじめとした派遣社員、イエロースカーフらにその場の人気をさらわれそうな状況に、妹分の張本翼はきわどい話題で必死に抵抗している。

 


気持ちは分かるが全くの空回りだ。玄田徳子には、そんな張本翼をフォローする気はさらさら無かった。女は仲間同士であっても、ある面は、いたってドライなのである。


 自分も猥談オンナと思われるのは御免だ。話題を強引に変えてしまおう、玄田徳子は自席に腰を下ろす時に、目の前の大皿に盛られた創作料理を指差しながら言った。


 「うわぁーナニナニ〜、超オイシソー!」


 関長子も張本翼を小突きながら席につこうとしていた。猥談がウケない張本翼が、ついには同期の中条の首をスリーパーホールドで絞め上げていたので、その激しすぎるスキンシップをたしなめたのだ。関長子は玄田徳子の意図を汲んで続けざまに言った。


 「本当だ〜!チョベリグー!」


 やや廃れた感のある女子高生の流行り言葉。その痛々しさが効をそうしたのか、関長子の一言は、男子達に「何ですかそれ」、と突っ込みを引き出すことに成功した。あるいは、男子達も張本翼の独り相撲に辟易していたのかも知れない。

 


【玄田徳子ら三姉妹の布陣】


  玄田 関  張本 中条 男 男  

  

   宝田 角田 梁田 


 ところで、と中条が張本翼の腕を首から振り払ながら、新しい話題を切り出した。


 「角田さんらは、なんで人材派遣の会社に就職したんですか?」


 「やっぱり、今の不況を考えると、、、ちょっとね。例えば、銀行にしても不良債権とかの処理に追われていますよね?不良債権なんて、もともとバブルの時に踊った人たちの責任やないですか。それを、今、会社におる人間らで責任を負わなあかんのは、理不尽に思うたんです。」


 「年功序列とか、そんな伝統的な日本の企業の体質が、今日の不況の背景にあると思うんです。だから私は会社に丸ごと属するんじゃなくて、会社と時限的な契約を結んで、個人として仕事をしていきたいなあと思って。」


 正に立て板に水である。角田は、これまでに何度もこの質問に答えてきたのだろう。


 「へえぇ〜何かスゴイですね!太平スタッフ(※角田らイエローフカーフが所属する人材派遣会社)は、給料とか、どんな感じなんですか?」


 と男子の一人が訊いた。


 「人によって全然違いますよ。個々に会社と交渉して賃金を決めるんです。なんていうか、、、プロ野球選手の年棒みたいなものですねッ。」


 と、角田は上目づかいに目を大きく見開いて、わざとらしく語尾に力を入れた。質問した男は、鼻の下を伸ばして、箸にとっていたドテ焼きをこぼしていた。堅い話に甘い表情、男は一撃で粉砕された。


 「実力主義ダネ、完全に。」


 ご拝聴している側の中条が、自慢げな顔をして、そう言った。どうも年棒制の話を聞いて、気分が勇んだようだ。この男は単純で感化されやすいタイプなのだろう。関長子は、意味も無く気取っている若い男の横顔を一瞥して、そう思った。


 「あ、でも菅さん(※菅コーポレーション。玄田、中条らが勤める商社。)も、徐々にウチみたいにしていくみたいですよ。この間、柏部長(※柏進一。かしわ・しんいち。50代。営業一部の部長。)とご一緒させていただいた時に、そんなことを仰ってましたよ。」


 「そうそう、この間、営業二部の猿渡課長(※猿渡紹一。さるわたり・しょういち。30代。営業二部の課長。) がFA宣言しようかなとか言ってはりました。こちらも年棒制に変わるのと違いますか」


 と、イエロースカーフ・梁田が続いた。


 「年棒制っていうたら、自動車のイッサンで社長に就任したブラジル人の社長が、雇用形態と労働条件とかの大改革を行うって、昨日ワールド・ビジネスTVで言ってましたよ。」


 と、宝田がさらに補足した。角田、梁田、宝田のイエロー・スカーフの見事な連携プレーである。中条たち若手の男子達は、かたずを飲んで最新の人事情報に耳を澄ました。中には、角田らを尊敬の眼差しで見つめる者もあり、「世の中、そうなっていくのか」と得心して、うんうんと年寄りくさく頷いている者もあった。


 まずい!完全に男子らの注目はイエロースカーフに集まっている。それにしても、ウチの管理職連中、よくもまあ、ペラペラと派遣社員に内部情報をしゃべくっとるわ。まあ、張本の同期やし、年下やし、別にこの若い男らはどうでもええか、、。


 そう思って、張本翼の方に目を向けると、義妹は、不幸にも彼女の前に座ってしまった同期の男子一人をひっ捕まえて、「好きなタイプはぁ〜」と、訊かれてもいない質問の回答を焦らしている最中だった。


 ああ、でも何か悔しい!!玄田徳子は完全に脇役に追いやられた敗北感を小鉢のモロきゅう(※きゅうりのもろみ合え。夏向きの爽やかな一品だ。)に、ボリボリとぶつけていた。すると、角田、中条らの話を無言で聞いていた関長子がにわかに口を開いた。


 「派遣社員の方々は経済問題だけでなく、わが社の上司のことも、よーくご存知なんですね。」


 関長子のストレートな一撃が一閃。宴席は静まり返り、ジャズの流れる居酒屋には、マイルス・デイビスの熱狂的なトランペットが響いていた。


(次回に続く)

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