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第一部第二幕【忍び寄る黄色い影・第一段】

〜 OL三国志演義 第一部【イエロースカーフの乱】 第二幕【忍び寄る黄色い影・第一段】


 「ふうん、、、え、え?金城武が同期会にこないの?」


 と、苛立ちを抑えて玄田徳子は尋ねた。張本翼の話はいつもまとまりがない。その上、今は感情が激しているようで、話が要領を得ないのである。


 玄田徳子の左隣では、関長子が黙って水をすすっている。あの年度末の慰労会で義理姉妹の契りを結んで以来、玄田徳子と関長子、張本翼の三人はランチをいつも一緒にすることにしている。


 込み合った昼時の喫茶店。ドリンク付き500円の掲示板に目がくらんだ。超デフレの昨今にあっても相当に安い。それを目当てに、この店を選んだのだが、悪いことに三人客の玄田徳子らはテーブルではなくカウンターに通された。まずは、それがいまいましい。


  次に、昨夜TVで見たドラマの主人公の態度が解せない、男はもっとワルくてイイ。そして、明後日の金曜日に開かれる同期会を男子どもがいっせいに断ってきた、なんじゃこりゃぁああ!!


 ほとんど脈略のない三つの話題を、


「ウチは怒っている」という横糸で強引に結びつけて、それこそほこでも振り回す勢いで、フォーク片手に張本翼がまくしたてたものだから、玄田徳子も関長子も一体、彼女は何が言いたいのかと困惑した。が、要するに張本翼の話は、愚痴まじりの身辺雑記なのである。


 「ちょっとぉ〜ちゃんと聞いてるンすか!?金城じゃなくて同期の男らが来ないンすよ!男が。もう!長子のネエサン、何とか言ってくださいヨ!徳子のネエサンは何にも聞いてないンだから!!」


 張本翼の不平は大音声で響いた。カウンターの中では、店主が驚いてフライパンに、カツラを落としてしまったようだ。スパゲティの赤毛が増えたカツラを手にしてうな垂れている店主を一瞥し、関長子は言った。


 「女のコらしい話ね、、。いやいや、 男子達、なんで急にこれへんって言い出したのかな?」


 女の子らしい、張本翼の何がだろう。散漫なトークがか。男が来ないことに苛立ってところがか。妙に距離のある言い方。玄田徳子は、関長子の発言に引っかかりながらも、図らずも、プライバシィが暴露された禿げ男の姿のほうが、よっぽど面白いので、関心は再びそちらに戻った。


 「ということで、同期会は仕切り直し。でも金曜日は飲む。飲んだくれるッス!徳子のネエサン、長子のネエサン、お付き合いヨロシクでッす!」


 と、景気よく親指を突き出した張本翼の蛇皮の腕時計は、ジャスト午後0時30分を指している。

 


やばい!あと30分で食事とお茶をしなくてはならないのに、まだオーダーしたスパゲティ・ナポリタンがでてこない。エッ!まさか、ズラが落ちたのはワタシらのナポリタン!?やかましいわ、余計なことはするわ、玄田徳子は不詳の義妹ぎまいが苛立しい。


 玄田徳子が昼食とお茶を済ませて職場に戻った時間は、午後1時を10分近く経過していた。遅刻をした時、玄田徳子は、「シュシュー」という、意味不明な低い声を出して席につく。遅刻を韜晦するつもりなのだろうか、長年染み付いた妙な癖である。


 「エレベーター、混ンでた?」


 と、やさしく話かけてくれたのは、玄田徳子の直属の上司、営業二部食品課の課長の公文孫一であった。公文課長と玄田徳子は、同じ大学の同じゼミ出身という奇縁で、それ故にか公文課長は何かと玄田徳子に目をかけてくれる。


 「そうなんですよぉ〜、業者さんが台車に大きな荷物を積んでエレベーターを使おうとしていて、、、それでちょっと待たされたんですよぉ!」


 「あーそぉ〜それは災難な、、」


 「あ、でも課長、普通、台車ってぇ、どれくらい積めるンですかぁ?」


 「そりゃ、普通は100キロぐらいは行くんちゃうの?」


 「じゃ、課長と私の二人で台車の上に載ってみましょうよ!実験、実験!」


 「二人で100キロはいかへんやろぉ〜エヘへ」


 「嘘ぉ、課長は80キロぐらいありそうですよ☆」


 玄田徳子には相手をいい気分にさせながら、話をごまかすという天才的な才能があった。公文課長は遅刻のことはすっかり忘れ、カワイイ系の玄田徳子と二人仲良く台車に載っている姿を夢想していた。


 「オーケー!じゃ、ちょっと台車を借りて、、」


 公文課長が勇んで席を立とうとした時、玄田徳子は電話の受話器を上げていた。


 「あ、もしもし、食品の玄田です。忙しいところ、すいませぇーん。今から伺ってよろしいですか?フフッ、そうそう、昨日言ったました契約書の件で。」


 玄田徳子は今、エビを冷凍加工するインドネシアの企業と契約を結ぼうとしているが、細かい取り決めを定めるにあたって、日本の法規とインドネシアの法規の違いを確認する必要があった。昨今、食品の安全基準は行政の指導もあって厳しくなってきている。


 玄田徳子が契約書の相談をするために、法務部に向かって廊下を歩いていると、 エレベーターホールの奥まった公衆電話のあたりで、黄色いスカーフを付けた女子社員と若い男子社員が、楽しげに話し込んでいる姿を目にした。


 「あの、黄色いスカーフ、三月の慰労会にも来てた、、、」


と、玄田徳子の記憶がよみがえったと同時に、背後から低い声がした。


 「太平スタッフ、最近急成長している人材派遣会社。そこの社員のトレードマークは、黄色いスカーフです。」


 玄田徳子が立ち止まって後ろを振り返ると、そこには義妹、関長子が、柳のように細長い眉を曇らせて立っていた。


 「今、そこのイエロースカーフと話し込んでいる若い男は、張本の同期の者です。」


 「。。。ふぅん、、」


と玄田徳子は言うと、再び法務部に向かって歩き始めた。関長子はその後を追って、こう付け加えた。


 「徳子の姉上、今、社内に妙な噂が流れているんです。」


(つづく)

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