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第二部第二幕【第三段】玄田徳子は有頂天となり、夏木姉妹は捜索に奔走す

〜玄田徳子は有頂天となり、夏木姉妹は捜索に奔走す〜


 操猛美が空のグラスを握ると、正面にいた営業課長の猿渡紹一が、酌をしようとビール瓶を掴んだ。操猛美はそれを片手で制して、手酌でビールをサッと注ぐと、一気にグラスを空けてしまった。


 そして、フーッと息をして、鋭い視線を猿渡課長に向けて吐き捨てた。


 「動き悪いなあ、あんたのとこの若手。どうすんの?首謀者サン」


 十条寺譲室長を囲む男子達の輪は、最盛期に比べれば、落ち着いたものになっていた。それでも4〜5人の若手が十条寺室長を囲み、酌をしてはそのご高説に耳を傾けている。


 そして十条寺の巧みな勧めに乗って杯を重ねて、したたか酔っているようだ。アテンド側が自制心を欠きつつあるという頼りない状況に、猿渡課長は歯噛みした。自分の連れてきた連中がだらしない。


 見ろ、操猛美に嫌味を言われたではないか!一番言われたくない奴になのに。いつか仕返ししたる、、、


 今夜は任意の私的な宴席とはいえ、『新プロジェクト』のメンバーを中心とした慰労会の側面もある。『新プロジェクト』の重鎮、十条寺室長には楽しんでもらわなければならない。前後を失うほどに盛り上がってもらわなければ困る。困るのだ。


 とはいえ、現状を打開する妙策を持たない猿渡紹一は、子どものようにふてくされるだけだった。


 ところで、十条寺のような特殊な性癖の持ち主が、なぜ秘書室長にまで出世したのかということを語らねばならない。大小を問わず集団の統制の要は、ご存知のとおり人間関係である。


 ことに組織にとって男女関係というものほど厄介なものはない。この面で極めて謹直で信頼に足る人物であった十条寺譲は、人事管理を担う総務畑で愛された。


 総じて派手と言われる商社において、女子と軽口さえ交さない若き日の十条寺。「ややこしくない男」として幹部から厚い信頼を得て出世を重ね、ついには秘書室長にまで登りつめたのだ。男子に対して核兵器並みの危険人物であることが広く知られるようになったのは、後年のことなのである。


 「ありがとう、でももう結構」とやんわりと若手の酌を拒みながら、逆に酒を勧め「モテるんじゃないの?」なぞと持ち上げながら、愚かな若手達をいい気にさせている十条寺室長。


 さりげなく若手の手に触れたり、二の腕をさすったりと、やりたい放題の悪行。よく見れば、瞳は蛇のように冷たく、青い光を放っている。


 「もう猿の軍団に任せてられへん!」

 「惇ちゃん、妙ちゃん、男子を何人か集めてきて!」


 猿渡課長の手の者の不甲斐なさに業を煮やした操猛美。配下の夏木姉妹に命じて、なんと男子の現地調達という荒業に出た。


 「アイ・アイ・サー!」


 指示を受けた夏木姉妹は一礼して座敷から飛び出して出ていった。その姿を見送りながら、操猛美はひとりごちた。


 「あのオッサン、若いだけではダメみたいやなあ。かなりの男前やないとアカンのかも、、、」 


 さらに濃度を増す十条寺室長の粘っこいセクハラ&パワハラ。いよいよこれに阻喪した若手達は逃げ出すようにして散り、潤いを女子達に求めた。結果、玄田徳子の周りにも若い男子達の包囲網が出来上がり、近年まれに見る活況を呈している。


 年下は実は好みではないが、三十路にリーチがかかっている以上、対象の幅を広げねばならないと思っている玄田徳子。そんな思いもあって、特段好みの男子がいなくとも、若手に囲まれるのは、満更でもなかった。


 たとえこの場での会話が、翌日には思い出せないくらい無内容なものであってもいい。今は男どもが寄り付いてくるという勝ち癖をつけなければならない。


 「玄田さんて、オシャレですよねえ!」「テイストがシブい。っていうか僕のツボッす」「仕事もデキるんですよねえ!」「噂は聞いてますよぉ」云々云々。


 オシャレで仕事も出来る先輩女子という、たった今できあがったアバウトなレッテルに、すっかりいい気分になっている玄田徳子。


 「そんなことないってぇ〜」と言いながらも、もっとホメなさいよぉ☆と相手の言葉を待ち、そのを活用して、付きだしの残りをモグモグと頬張る姿はどことなくセコい。姉上はある種の貧乏症だ。こんな時くらい泰然と構えていればいいのに、、、


 「うん。まあ、日経ウーマンは一応読んでるけどぉ」


 何を自慢してるんだか、、、


 得意満面の玄田徳子。チューハイライムを片手に怪気炎を上げている。うつむいて首を振る憂鬱そうな関長子をよそに、宴席には、ムハハと鼻息の混じった玄田徳子の哄笑が響いていた。


(次回につづく)

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