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第二部第二幕【第二段】関長子は宴に波乱を思い、操猛美は猿渡を冷笑する

〜関長子は宴に波乱を思い、操猛美は猿渡を冷笑する〜


 グラスが重なり高い音を響かせる。其処此処からざわめきがおこる。あ、じゃあ。お、乾杯。饗宴のプロローグ、熱狂に向かう静かなる儀式。拍手が鳴る。


 今宵の拍手はやや強めにしっかりと。内輪の飲み会じゃない、会社がらみなんだから。ちょっとだけちゃんとしとこ。酒飲みではない玄田徳子だが、宴会歴は決して短くない。学生時代から数えればもう十年に及ぶ。

 

 アタシはもしかしたら、この宴会の始まりが一番好きなのかもしれへんなあ。玄田徳子は、付きだしの竹輪と切干だいこんの炒め煮に箸をつけながら、そんなことを思った。


 「お酒は飲めないけど、宴会の雰囲気は好きなんですぅ」と言う女子は少なくない。笑止。


 関長子はそう断ずる。酒席においてアルコールをやらぬとは何ごとか。


 無論、仲間が集い語らう場が楽しいのは分かる。が、飲めない宴席好きの女子らは、自分が少なからず大事にされる、モテるということを同時に折り込んでいるのだろう。まあ、いいか。誰もあえて粗略にされる場を好みはしない。居心地のよい空間にいたいという気分を、誰が責めれよう。


 早や日本酒をオーダーするためにお品書きを手にした関長子。宴席を一望し、「エーッ」などと嬌声を上げてはしゃぎつつある同僚の女子らを目にして、そんな想いにしばし耽った。


 そして、今宵は自分以上の酒豪はいまいと優越感が沸いた。唯一と思われる最強のライバルは何でも禁酒中だとかで、乾杯もウーロン茶で済ませ、怒ったように肴にパクついている。やれやれ、いつまで続くことやら。関長子には義妹の張本翼の単細胞な行動がなんとも愛おしい。


 ところで、今夜は職場の宴会。営業部の猿渡課長と人事部の操猛美が発起人となって開催された例の『プロジェクト』がらみのコンパ。ふむ、男女合わせてざっと20名前後か。よく見れば、『プロジェクト』に関わる中堅や部長クラスのお歴々の顔も見える。成程。


 『プロジェクト』のコアメンバーの親睦会に、若手の男女がお呼ばれしたという、公私の別があやしい中間的な位置づけの宴会か。このテの宴会には波乱がある。酒席の古強者、三十路を迎えた関長子は、今宵の宴にキナ臭いものを感じていた。


 それにしても、と関長子は思う。さすがは操猛美である。手堅い。お座敷に瓶ビール、注いで回ることのできる会場選びは、大宴会の原則。イエロースカーフの一件では、破天荒な裏技を見せてくれたが、操猛美の本質は、この手堅さにあるのかもしれない。


 そして注いで回れるということは、操猛美がこの空間を流動化させる意図を持っているということだろう。操は何かをたくらんでいる、、、


 関長子は、フッと短い吐息を吐くと物憂い表情で軽く手を上げた。日本酒をオーダーするためだ。そのスマートかつ色気の滲む仕草に、周囲の男子達は早やほろ酔いとなった。



 筆者曰く。昨今はテーブル席や流行の掘りごたつ式の会場を選んで、注いで回ることが物理的に困難なことを理由に、自席にへばりついて、一向に上司の前に顔を出さない若い賃労働者を見かけるが、これは言語道断である。

 

 上司に酌をすることは、それを理由に楽しくない自席を蹴って、別の席に移動することができる免罪符なのである。またそのようなそれぞれの思惑が交差し、会場がカオス状に変容するのが大宴会の魅力なのである。よく覚えておいてもらいたい。



 「ちょっと、アカンやん。男子ぜんぜん少ないやん」


 「いや、ちょっとドタキャンとか入ってなあ・・・」


 「ふん、こっちは女子そこそこ集めたけど」


 「すまん、けっこうな人数に、声はかけたんやけどなあ」


 「ちゃんと念押しした?詰めが甘いのは仕事だけにしてや!」


 アハハ、と操猛美は乾いた笑い声を出して、ドンと猿渡課長の背中を叩いた。そして、また厳しい表情に戻った。


 「早よせなアカンわ。若手にゴー出して」


(次回につづく)

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