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第二部第一幕【第三段】玄田三姉妹は、うどん屋にて乾祐一と遭遇す

〜 玄田三姉妹は、うどん屋にて乾祐一と遭遇す 〜


 難関であった関長子の説得が案外と簡単に片付き、玄田徳子はホッとした。これで週末はコンパに繰り出せる。張本翼もさっきリアクションからすれば、異論はないだろう。


 「ねえ、ハリモト、服決まった?」


 安心感からか、にわかに空腹を覚えた玄田徳子は、張本翼に早く買う服を決めるように促した。

 

 決めかねてた張本翼は、翼竜のイラストがプリントされたワンピースと、バイオレットのキャミソールを両手に持って、レジに小走りにむかっていった。玄田徳子の一言に背中を押されたようだ。それにしても翼竜柄、、、ハリモト、路線変更は無しなんやね。


 三人はセレクトショップを後にすると、夕食をとるべく御堂筋を渡った。いつもなら呑み助の張本翼の意向を無視して店選びは出来ないが、今日はショッピングに付き合ってやった。ここはこちらの我を通させてもらう。金曜日のコンパが決まった以上、水曜日から飲んだくれるわけにはいかないのだ。玄田徳子はしばしば訪れるうどん屋に足を向けた。  


 老舗のうどん屋に着くと、玄田徳子ら三姉妹は待合の椅子に通された。どうやら満席のようだ。店内には、甘く芳しいカツオだしの香りが漂う。座面が小さく心地のよくない椅子に腰を下ろすと、張本翼が思い出したように話はじめた。


 「それにしても、アレ、何んやったんかなあ」 

 「アレって?」


 隣にいる玄田徳子が答えた。関長子は静かにおしながきを眺めている。 


 「ほら、イエロースカーフのこと。あれはやっぱりリストラ狙いやったんかなあ」 

 「うーん、どうやろ。その後、操さんからは、何も聞いてへんし。分からんわ」 

 「しかし見事に一掃されましたね、太平スタッフの面々は」


 関長子が会話に入ってきた。話を聞いていたようだ。


 「かもなんばに決めました」


 関長子はそう付け加えると、おしながきを玄田徳子に手渡した。


 「でも、またどっかから派遣の人来てるんやろね」


 「派遣が増えるのは時代の趨勢、ですね」 


 「ウチの会社、変なことになってるンかなあ」


 玄田徳子がため息まじりにそう独りごちた。ちょうどその時店の入口が開き、一人の男子が入ってきた。モッズ風のコートに、手にはタワーレコードのビニール袋。その男子は玄田徳子の同僚、営業二部の乾祐一だった。


 「あッ」


 と、大きな声を出すと、乾祐一は耳から小ぶりなヘッドフォンを外した。シャカシャカという音が漏れてくる。


 「あ、玄田ちゃん。。。メシ?」


 玄田徳子は、少し気まずかった。というのは、年頃のOL三人が、大衆的なお店で夕食を済ましてしまおうとしているのが、少し恥ずかしかったからだ。しかし、玄田徳子は笑顔で答えた。


 「うん、ちょっと買い物のあとなんです」


 誰にでもウェルカムな表情を見せるのは、玄田徳子の美質かつ弱み。ちょうどその時、店員が玄田徳子らにテーブル席が空いたことを告げた。


 「一緒にどうですか?」と張本翼は誘い、躊躇する乾祐一の腕を引っ張った。是非とも見習いたい張本翼のフランクさ。


 あまり目立つタイプではないが、コツコツと仕事をこなし、人当たりも悪くない乾祐一。好印象の先輩と、おうどんすすって会話が出来る。ハリモト、グッドジョブよ!このちょっとしたラッキーは、実は金曜のコンパの吉兆ではないか、などと玄田徳子は思った。アタシは波に乗りつつある!


 「何のCD買ったンですか?」


 四人が席につくと、張本翼が乾のレコード袋を指差していった。乾祐一は「知ってる?」と言いながら、袋の中身をテーブルに置いた。


 「へえ、ポール・ウェラーの新譜ですか。追ってますね」


 店員から湯のみを受け取って、関長子が小さな驚きの声をあげた。え、長子ちゃんはポールとか言う人知ってんの?玄田徳子が乾祐一の顔を見てみると、うれしそうに上気しているではないか。なんか話が通じているみたい!?


 人事の趣味か、美人揃いの菅コーポレーションにあっても圧巻の美女、関長子。その関長子とプライベートの趣味を共有する可能性を見出した乾祐一。その表情はみるみる変わった。


 学生みたいなコート姿。レコ屋の袋。アフターファイブに見た先輩の別の顔に、少々心躍った玄田徳子であったが、今の乾祐一には、マニア特有の「回りを見ない」雰囲気が感じられる。あまり見たく無かった素顔だ。


 そして、さらに気に入らないのは、購入したCDに関して熱く語る乾祐一の目には、関長子しか映っていないことである。


(次回につづく)

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