第二部第一幕【第一段】玄田徳子は宴席を悩むも、凛々しい美人にほだされる
OL三国志演義、第二部に突入。菅コーポレーションに吹き荒れる改革の嵐。社長の後継者争いに「西の狼」の影。複合ビル「L/M ライフマネージメント」の立ち上げを軸に交錯するOL達の野心と思惑。
〜玄田徳子は宴席を悩むも、凛々しい美人にほだされる〜
水曜日のオファー、これは明らかに頭数あわせである。これに乗ってもよいものなのか。玄田徳子は、判断に苦しんだ。どうしよう、、、
やはり義姉妹の契りを交わした二人、関長子と張本翼に相談したほういいか。が、二人の意見はきっと正反対。
関長子は、三日前に宴席に誘うとは無礼千万と憤慨するだろう。張本翼は、姐さん何を迷っておられるコンパには出撃あるのみ!とまくし立てるに違いない。
打たないシュートは入らないか。
で、二人で侃々諤々、というかワーワー騒いで、お互いのコンパ観から果ては恋愛観にまで討論がなされるだろう。で、結論は出ず。
やっぱり二人には黙っておいて、三人で週末の定番、ゴハンでも食べに行こうかな、、、
なんせこのお誘いは、あの人事の操猛美からのもの。この間、派遣のコらの件(*)で一杯食わされたところやし。
* 玄田徳子ら三姉妹は、操猛美に合コンを反故された上に、派遣社員『イエロースカーフ』の追い出しに協力させられた。詳しくは第一部イエロースカーフの乱を参照のこと。
でもなあ。
30歳まであと2年。そろそろ本腰を入れねばと初詣に行った岩清水八幡宮で決意したんやった。
そういえば、岩清水八幡宮の門前では、雀の焼き鳥が名物として売られていたなあ。雀が車にでも轢かれたようなペシャンコな姿をとどめていて、食欲以前の感情が沸いたことを玄田徳子は思い出した。
動物愛護団体に訴えられるちゃうか。いや、どうせ食べんねんから、どんな姿にしも別にええんかな、、、
ボールペンを指でクルクルと廻しながら、玄田徳子の思考は、堂々巡りをした挙句、わき道に逸れてしまった。目的が見定まらない、あたかも彼女の人生のように。
「すいません、金曜日は先約がありまして。申し訳ありません。」
聞き慣れない声がした。その声の主は、斜め前の席、公文課長の側にいるようだ。玄田徳子が目を向けると、そこには、書類を手にしたボーイッシュな感じのOLが一人立っていた。凛々しいという言葉がふさわしい、相当の美女だ。
「え、先約?ねぇ、どこの誰と?」
食い下がる公文課長。
中年というものに、ことごとく品位が無くなっていくのは、もうDNAの働きなのか。ここのところ下世話さを満開にさせつつある公文孫一四十二歳である。
役職が偉くなるにつれて、倣岸さを重ねていく男達。その姿は醜いとは思うが、残念だとは思わない。むしろ好都合だ。玄田徳子はそう思う。
褒めてあしらえばいい。
特に公文課長は女子がニコニコしてれば満足、そういう人。ゆえに私はただ笑ってさえいれば、この職場で居心地が悪くないのである。
「人事の操猛美さんです。」
凛々しい美人は答えた。
なんとこの美人も玄田徳子が誘われている金曜日の宴会に参戦するようなのだ。
玄田徳子は宴会に参加する決意をした。頭数合わせもなんのその。彼女も参加するなら、何かいいことが起きそうな、そんな予感がするからである。