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第一部第一幕【桃園の誓い・第二段】

〜 OL三国志演義 第一部【イエロースカーフの乱】 第二幕【桃園の誓い・第二段】 


 美人だ。顔色は酒焼けして棗のような赤黒いが、大きく切れ長の目、真っ黒な瞳、そしてしなやかで漆のように黒いロングヘヤーとモデルのようなスレンダーな長身。相当のルックスである。その上、黒と深緑を貴重としたタイトなスーツがモードな感じを醸している。


 玄田徳子はその長身のOLが放つオーラに言葉を失って、茫然と眼前の美人を見上げていた。すると、その大女というか大OLが再び口を開いた。


 「私の名前は関長子せき ながこ。前歴があるのですが、、、この菅コーポレーションには勤めて3年になります。あなたは?」


 「ア、あたしは、私は玄田徳子、入社5年目よ。食品課で海外を担当してるワァ。」

 

 「ア、こっちは一年目の張本翼サァン。業務部みたいヨォ〜。」


 酩酊した玄田徳子が話す言葉の語尾はだらしない。本人としては精一杯まともに話そうと努めてているが、一升瓶を空にしてしまっているので、どうにもロレツが回らない。

 


張本翼はというと、突如現れた長身の美人OLに、空の一升瓶を盾にしながら応戦するような仕草で身構えていた。生来、好戦的ななのか、「シュ、シュ」と低い声を出して関長子を威嚇している。


 ところで、関長子はそんな二人に、「会社を憂えるお嘆きはごもっとも」と近づいて来たのだが、先程から玄田徳子と張本翼が話していたことと言えば、上司、同僚の悪口程度のことであった。会社への不満を肴に飲む!と意気込んだ二人だったが、会社の経営問題について、ヒラOLである彼女らは当然ながら実情に乏しい。

 


また、昨今の経済社会に関しても不勉強な二人はそれについて何かを語る程の知識はなかった。張本翼などは同僚から日経新聞を読んでいると聞かされるだけで、言い様のない劣等感と不快感に襲われるという性質たちなのだ。


 「このOL、ジッサイは私達に何の用なのかしら?」


 玄田徳子は突然現れた関長子を不審に思ったが、酔った頭であれこれ考えるのが面倒だったので関長子の言葉に耳を傾けた。


 「玄田さん、張本さん、お二人がわが社の今後を憂えて、お気持ち、この関長子も全く同じです。」


 関長子は立ったまま語りだした。


 「バブル崩壊以降の繊維業界では、熾烈な過当競争が続き、現在は中小のメーカーや工場、そして商社においても、合併や倒産の憂き目に遭う会社が相次いでいます。」


 「そもそも高度成長期以降のわが国の繊維業界は、安い外国製品の追い上げを高付加価値化で対抗してきました。ところがバブル期には多角経営と称して素人同然の土地投機、株投機に手をつける会社が相次ぎ、これらの会社はバブル崩壊に伴う資産価格の下落とこれに連動する株の下落という痛いしっぺ返しをもらいました。残念ながらわが社もそのうちの一つです。」


 「今後、繊維業界で生き残る会社は、バブルのやけどをいち早く癒して、社内の改革を断行した会社ということになるでしょう。」


 ここで、関長子はふぅと一息呼吸すると、左手を腰に当て、五指を広げた右手を胸の前に突き出して大喝した。


 「この改革の大波からは我社も無縁ではいられない!いずれ社内に改革の嵐が吹きすさぶことになる!」


 自分の昂ぶった発言に気づいたのか、関長子は声の調子を落ち着かせてこう続けた。


 「ご存知かとは思いますが、わが社は一部の職種にですが契約社員を入れており、今後はその割合及び職種を増やしていく方向性のようです。」


 「近い将来、わが社の従業員雇用の形態も変わっていくでしょう。また、イントラネットの導入が我々事務系のOLにどのような影響を与えるのか、これも注視する必要があります。」


 「いずれにせよ、変わらなきゃならない時期に、日本は、菅コーポは否応なく来ているのです。」


 「そんな今だからこそ、私達OLは団結し、立ち上がらなければならないのです!」


 と、関長子は一気にまくし立てた。

(次週につづく)

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