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第一部第三幕【イエロースカーフ討伐戦・第十一段】

  「俺はいいよぉ〜」

 

 と言いながら、鼻の下を伸ばしているは、会社では屈指のお調子者として知られる公文孫一課長だ。宴席に乱入した岸和田の虎こと孫田・セクシー・文は、その公文課長のぽちゃっとした中年太りの腕を掴んで座席から立ちあがった。すると、当山や茂村ら孫田文の仲間らが


 「ほらほら、課長を囲んで!」


 と、派遣社員、イエロースカーフらをせき立ててを、公文課長の周りをとり囲ませた。そして「真ん中行きぃ☆」と、彼女らを公文課長の真後ろ、すなわち写真の映りで言えば中央に立たせた上で、孫田文と自分達はその両脇を固めた。


 「『チーズ』じゃなくて、みんなで乾杯してグラスの焼酎を飲み干した後に、課長がCMみたいに焼酎のボトルを突き出して『健康焼酎、美味い!』って言ったら、シャッター押すね!」


 とポラロイドカメラを構えた、孫田文の仲間、普天間が言うと、黄川田が写真に収まるメンバーに次々とグラスを渡し、孫田文がそこに焼酎を注いでいった。そして、自分のグラスを焼酎「野うさぎの走り」をドボドボと注ぐと、グラスを掲げて


 「じゃ、皆、イッキにやでぇ!かんぱーい!」


 と掛け声をかけ、あっという間に焼酎を飲み干した。これを見た黄川田や当山、茂村が次々とグラスを呷ったので、公文課長やイエロースカーフの面々も勢いで焼酎を空にした。


 孫田文は、その様子を確認すると公文課長を促した。


  「課長ぉ、ご発声、よろしくお願いします☆」


  「オーケ〜。え〜と、健康焼酎、美味い!」

 

 と親指を突き出しながら公文課長が叫ぶと、カメラマンの普天間が、シャッターを押さずに異議を唱えた。


  「課長ぉ〜 『オーケ〜。え〜』は余計や。健康焼酎、美味い!、だけでええんですよ!」


 と、かなり厳しい口調で普天間が抗議したので、孫田文が公文課長に詫びながら、もう一度お願いしますと頼んだ。

 

  「課長、すいません〜普天間、潔癖な上に、ちょっと口が悪いんですわ。もう一回やったって下さい、健康焼酎。」


  「あ、そう、、、じゃあ、もう・・・」


 と公文課長が承諾の意を表すやいなや、孫田文は公文課長のグラスに焼酎を注いでしまい、自分のグラスにも焼酎をさっと注いだ。その動きにあわせて黄川田が公文課長を囲むOLら全員にもう一度焼酎を注いだ。


  「じゃ、やり直し!かんぱーい!」


  「健康焼酎、美味い!」


 と、公文課長は叫んだが、また普天間がシャッターを押さずに、今度は申し訳なさそうに切り出した。


  「あの、フラッシュが、、、」


  「えー!!」


 公文課長が泣き出しそうな声で不平を言った。すると、孫田文は「どーどー」と言いながら、公文課長の肩をもんで、もう一回お願いしますと人差し指を立てて懇願しながら、公文課長のグラスに焼酎を容赦なく注いだ。それに合わせて黄川田が皆のグラスに焼酎を注ぐ。そして孫田文が「さあ、もう一度!かんぱーい!」


  その後「フィルムが切れてた」「全員映ってない」とポラロイド撮影の失敗が数度繰り返され、そのたびに公文課長と彼を囲むOLらにはストレートの焼酎が注がれた。もうポラロイド止めよう、CMごっこは止めようと、いよいよそんな雰囲気が流れ出した時、孫田文がついに怒声を上げた。

 

 「もう、普天間!いいかげんちゃんと撮りィや!次ミスったら殺す!」


 と叫び、焼酎のボトルを普天間に突きつけた。そのバイオレンスな態度に皆が萎縮した様子を確認した上で、孫田文は、相当に酒臭くなって足元もあやしくなっている公文課長に対して、 

 

 「すいません!課長ぉ、これで最後ですから!お願ぃ☆」


 と手を合わせてウィンクした。そして、再び焼酎を自分と公文課長、そして彼を取り囲む黄川田ら仲間やイエロースカーフ達に次々と注ぎ、


 「ハイ!ハイ!ハイ!じゃ、最後!最後ね〜かんぱーい!!」


 とわめいて、焼酎を呷り、隣で「もう飲めない」とグラスを持ったままのイエロースカーフの手を無理やり掴んで、グラスを口につけさせながら、空いたグラスを突き出して叫んだ。


 「ウチが言うね〜!孫田酒造の健康焼酎、美味い!!」


 かすかなシャッターの音と共にフラッシュが光り、ポラロイド写真が出力された。孫田文がその写真を掴み取ると、そこには酩酊して、力なく焼酎のボトル握っているだらしない公文課長の姿と、彼を取り囲むOLたちがへべれけになった記念写真が浮かび上がってきた。


 「バッチリですよ!課長!」


 孫田文の言葉に公文課長ら被写体組に安堵の空気が流れようとした時、さらに孫田文は言葉と続けた。


 「よーし!この調子で、もう一枚行きましょう!」


 その言葉に公文課長がズッこけると同時に、三人いた被写体組のイエロースカーフらもヘナヘナとその場に座り込んだ。繰り返した焼酎の一気飲みに酒量が限界を超えたのだろう。一緒に公文課長を囲んでいた黄川田、当山、茂村ら孫田文の仲間達もテーブルに手をかけて片膝をついている。


 この一連の様子を眺めていた関長子は舌を巻いた。この「CMごっこ」という名の私刑リンチで、孫田文らは三人のイエロースカーフを完全を潰してしまった。しかもその「作戦」のために、仲間もほとんど同士討ちのようになっているではないか!


 筆者曰く。老婆心ながら、、、間違ってもイッキ飲みなどしないように。


 操猛美の凄みが鋭利な剣だとすれば、孫田文のそれは、強靭なナタを思わせる。なんたる荒業を、、、また恐るべきOLが目の前に現れたと関長子は舌打ちをした。それにひきかえ、うちの姉上は、、、と関長子が横を見ると玄田徳子は既にそこにいなかった。どうやら機嫌を直したらしく、張本翼ら腕相撲組に加わって、両手を使ってアームレスリング女王・悪来典子にチャレンジしているようだ、、、まったく何をしてるんだか。


 いずれにしても、孫田文とその四天王の活躍で、イエロースカーフと男子らのヒソヒソ談合ないしは、しっとりトークを半ばぶち壊すことに成功した。孫田文の登場によって二次会の流れは再び連合軍側に傾いた。さて、この先はどうなるのかと関長子が再び孫田文に注目したその時、


 「あ!」


 孫田文が大きな叫び声を上げて腕時計を見た。


 「終電や!帰らんとあかんわ!」


 「うそぉ、まだ11時なってないやん。南海は、終電遅いんちゃうん?」


 と、孫田の声を耳にした操猛美が少しきつい調子で言うと、孫田文が即、切り替えした。


 「アホ!南海は遅うても、地下鉄は終電が早いんや!ごめん、帰るわ!」


 岸和田の虎は千鳥足の仲間を連れて、ショットバーを去っていった。


(次回につづく)

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