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第一部第三幕【イエロースカーフ討伐戦・第十段】

 「声が小さいぃ!!」


 「もう一回、オーイッス!!」

 

 張りのよい女性の声が店内に響く。


 「オーイッス!」


 関長子はつられて、より大きな声で返事をした。バーにいる大方の者も同じように返答をしているようだ。ただ張本翼と夏木姉妹ら操軍団のOL達は、腕相撲に熱狂しているのか、その声が聞こえていないようだ。


 「静かにしろ!ウチらは忍者だ!今からこの城に忍び込む。」


 店の入り口で始まらんとしているのは、遅れてやってきた岸和田の虎こと孫田文と四人の仲間によるショートコントのようだ。


 「おい!普天間、黄川田、当山、茂村!」


 「はい!お頭!」


 「なんだ、お前らその格好は!ウチらは忍者・・・」


 「ちょっと、もうドリフはええから!早く、飲みもんオーダーしいな。」


 どうやら本気で「8時だヨ!全員集合!」の舞台を再現しかねない孫田文らを、操猛美は笑いながら制止した。


 「あ、そ。あれ、今日は貸切?」


 孫田文がそういうと、その言葉を合図に孫田文の仲間達四人もかぶっていた黄色いヘルメットを脱いだ。四人とも孫田文とほぼ同世代のOLのようだ。そして全員が孫田文同様に小麦色の肌をしている。孫田文も加えて、作業着姿の安全靴を履いた五人のOLが居並ぶ姿は異様ながらも、同時に色気のようなものが漂っていた。作業着が案外と体のラインを強調していたのかも知れない。


 「あの、セクシー系の彼女らは!?」


 玄田徳子は関長子に訊いた。どうやら孫田とその仲間達の「ドリフコントがショック療法になったようで、合コン消滅の喪失感からようやく立ち直った様子である。


 「きっと営業部の資材の者たちでしょう。現場の立会いがあって直接来たって感じですね。」


 しかし、よくこれだけ魅力的なOLを集めたものだと関長子は関心したが、そういえば何故、操猛美はこの店が二次会の場所になることを知っていたのだろうか。いやいや、それは携帯電話に連絡があったからだ。え、、、では、誰が操に連絡を入れたのだ?


 「すごい格好やなあ!」


 操猛美が孫田文を茶化すと、孫田文の仲間達が代わって答えた。


 「今日、現場行ってきてん。で、その後にプロジェクトの中打ち上げがあってな。飲んできてん。」


 「遅れてごめんな〜」 


 「悪い、悪い。アハハ!飲みすぎたわ。」


 と、口々に言う。リーダーの孫田文に負けず劣らず快活な彼女らに、操猛美は気をよくしているようで、遅れてきたことを特に咎めない。


 「え、と。あ、これ使えんな。この酒もらうよー」


 孫田文は焼酎「野うさぎの走り」のボトルを肩にかけるようにして持つと、腕相撲に熱狂する張本らを尻目にドカドカと安全靴を鳴らしながら、イエロースカーフと男子らが語らうテーブルへと向かった。そして空いているイスを持ってきて、そのテーブルにいきなり横付けした。普天間ら四人の仲間もこれに続いた。


 「こんばんは。ウチは営業部の建設資材におる、孫田文です。このコらも同じ資材におんねんけど。ウチらの顔みたことない?」


 テーブルにいたイエロースカーフと男子達は突然の闖入者に驚き、少しの間、沈黙が流れた。それは同時にセクシー美人孫田文への男子らの好奇心と期待感が生んだ沈黙でもあった。


 「あ、、、孫田さん達、前に飲みましたよね?」


 親しげに孫田文に話しかけてきたのは、張本翼の同期の中条だった。中条は宴席では顔が広いらしい。ところが意外な答えが返ってきた。


 「え、うそ?みな覚えてる?」


 孫田文が普天間ら四人の仲間に聞くと、手を振りながら異口同音に「全然!」という返事が返ってきた。その少しコミカルなやりとりにテーブルの緊張感がほぐれた。笑い声が起こり、「お前なぞ知らん」と言われてしょぼくれた中条の頭を、孫田文は「よしよし」としてやった。


 「え、でもすごい格好やねえ〜どうしたん?トンネルでも掘ってきた?エヘへ。」


 OLがさらに五人増えたことで、ご機嫌麗しい公文孫一課長が、「よしよし」でこのコはイケると踏んだのか、さっそく孫田文にちょっかいをかけてきた。とはいえ、語尾の「エヘへ。」が力無かったのは、初対面の相手に気後れしているせいなのだろう。


 「トンネル?掘ってませんて!ウチが掘るのは墓穴くらい、、、とか言って!?アハハ!」


 オヤジトークにノリで返す孫田文に、男子達の高感度は早や頂点に達した。セクシーな上にさばけた雰囲気の姉さんキャラ。これはもう男子達のアフロディーテ、究極の女性像ではないか。


 「実は、今日は『ライフ・マネージメント』複合ビル、工事現場を見に行ってきたんですよ!」


 「あ、『ライフ・マネージメント』の。」


 「そう。で、資材はウチで入れてるでしょ。だから今日はこんな格好なんですよ。」


 「『ライフ・マネージメント』複合ビルって、ウチの社運を賭けているっていわれてるプロジェクトですよね。」


 と、話に割り込んできたのはイエロースカーフ三人衆の一人である宝田だった。派遣社員の彼女が「ウチの」と言ってのけるあたりは、さすがイエロースカーフ一流の演出。男子達に対して仲間意識と一体感を強調するその発言は、 孫田文ら闖入者への対抗意識が言わせたものと見るべきだろう。


 「本社だけの仕切りでは大変だから、支社からも応援が来てるらしいですね。」


 と言ったのは、もう一人のイエロースカーフ、梁田だった。自分が社内の重要事項に通じているところを孫田文らに、さらっとアピールしたのだろう。女同士の静かな闘いが始まったようだ。


 ところが、孫田文はそれを正面から受けずに、焼酎ボトルの栓を回しながら相槌だけを打った。そして、


 「まあまあ、仕事の話はそれくらいにして。」


 と言って、と二カッと微笑みながら焼酎を進める仕草をした。


 「公文課長ぉ、どうですか?」


 自己紹介をする前から自分の名と役職を知っていた孫田文に対して、いよいよスケベ心が膨らんだ公文孫一四十二歳は、


 「じゃ、ちょっともらっちゃおうかなあ!ヌハハ!」


 と、残っていたビールを一気に飲み干して、グラスを突き出した。


 「あ、課長!いい飲みっぷり〜。ウチらにも注いでくださいよ!」


 と課長を囃したのは、黄川田と普天間。当山と茂村は、男子らに焼酎を次々と注いでいる。すると、思い出したというような感じで、孫田文が急に言い出した。


 「あ、今日、現場の写真を撮るために、ポラロイド持ってきてるんですよ!」


 「課長!ウチら五人が飲んでいるところ、記念にとってくださいよぉ。」


 孫田文はそう言うと大きめのプラダのバックからポラロイド写真機を取り出し、公文課長に手渡した。そして、イスから立ち上がるとこれに黄川田らも合流して、テーブルの前で横並びに整列した。


 じゃあ、と言って、公文課長がポラロイドを構えると、孫田文らは焼酎を一気に飲み干し、グラスを突き出して五人で唱和した。


 「孫田酒造の健康焼酎、うーん!美味い!!」


 その声を合図に、公文課長はシャッターを押した。ジーッという低い音とともにポラロイドが写真を出力するとそこには、作業着姿のOLがグラスを突き出して明るく笑う写真が出来上がっていた。

 


孫田文らは、その写真をキレイだのブサイクだのと騒ぎ、男子やイエロースカーフらにも見せてひとしきり盛り上がった。そして孫田文の仲間の誰かが


 「今度は課長と一緒に撮りたい!」


 と言い出したのだった。


(次回につづく)


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