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さよなら

「愛梨! 家に来い! 妻にも『名前』をつけてあげてくれ!」


ニコラスはピコを抱き上げると愛梨を家の中へ招待した。家の中へ入ると、ニコラスの妻は女性らしい座り方をしながら木や草で何か作っていた。


「おい! 愛梨が戻ってきたぞ」


「…ッ!?」


驚いた顔をし、作りかけの何かをニコラスや愛梨に見えないよう後ろに隠した。


「愛梨…さん?」


「はい! よろしくお願いします!」


「よろしく…てゆうか、あなたは人間でしょ…? プレイヤー共の仲間とは…違う生き物なの…?」


「私は人間だけど…あんな酷いことをする人達の仲間ではありません…!」


「そうよね…『ピコ』を助けてくれたんですもの…愛梨さんはプレイヤー共とは何か違うって思ってたんです…! だって…あんなにプレイヤー共を嫌う主人が、人間を連れて帰ってきたんですもの…私は人間が家に来たことより、主人が人間を連れてきたことの方に驚いてるくらいです!」


「余計なことを言うなよ…!」


ニコラスは少し照れたのか愛梨に背を向け、顔を仰いだ。


「そんな話しいいからさ、ほら! お前も愛梨に『名前』を付けてもらえ!」


「…『名前』?」


「ああ! 『名前』だ! 私達…一体一体の『名前』だ!」


「…でも…そんなの付けてもらったってどうせ私達は…。」


「愛梨さん! 妻に名前を!」


「え…? あ、はい…じゃあ……『ジェシカ』…! 『ジェシカ』なんてのはどうでしょう?」


「『ジェシカ』…。」


「良い『名前』じゃないか! なぁ! 『ジェシカ』!」


「ええ……良い『名前』ね……。」


ジェシカはハニカミながらも何故か浮かない顔をしていた。


「私みたいなただの女の子があなた達の『名前』を決めるなんて…迷惑ですよね…?」


愛梨はジェシカの浮かない顔色に戸惑いながら言うが、ジェシカは笑顔で愛梨の顔を見た。


「『アリガト』…! ふふ…ニコラスに教えてもらったの…愛梨さんの言葉、こういう時に使うんでしょ…? 私…スゴく嬉しいわ…! 嬉し過ぎて…生き続けたいって思っちゃう位…。」


「え……?」


「いやいや! 愛梨! 何でもないんだ! それより、私達の仲間にも『名前』を付けてくれ! 皆喜ぶぞ!」


ニコラスは愛梨を引き連れ仲間達の元へと訪ねた。


「あれ…誰もいないな…。」


ニコラスは目と鼻の先に建っている木造の仲間の家を訪ね、草のカーテンをめくり上げ仲間の家へと入った。


「おかしいな…さっきまで…」



〈フゴォーーーーッ!!〉


遠くもなく近くもない場所から仲間の悲鳴らしき声が森に響きわたるとニコラス達の耳にも届いた。


「…ッ!? まずい…ッ!! プレイヤー共に気付かれたか…ッ!!」


「え…ッ!?」


ニコラスは愛梨を引き連れ、ジェシカが待つ家に向かった。


「ジェシカ…ッ!!」


「ニコラス…ッ!!」


ジェシカは壁に立てかけてあった剣と盾をニコラスに手渡し、ピコを受け取るとそっと下ろして、ジェシカも剣と盾を手にした。


「ついに…来てしまったわね…。」


「『ピコ』を守るためだ…ジェシカ…行くぞッ!!」


「ええ…ッ!!」



「ニコラス…ッ!! ジェシカ…ッ!!」


愛梨は二人を呼び止めた。


「愛梨…すまない…私達は行かなければ…。」

「え…ッ!? どうして…ッ!? 『ピコ』はどうするの…ッ!? 皆で逃げなくちゃ…ッ!!」


「愛梨……。」


「私にも『名前』付けてくれて『アリガト』でした…少しだけ使命を忘れられ、生き続けたいと思えました…。」


「ジェシカさん…ッ!?」


「愛梨、これが私達の使命なんだ…分かってくれ……愛梨、少しの間だったが、本当に『アリガト』……『ピコ』は…そのままそこに置いといてくれ……愛梨は巻き込まれないように逃げた方がいいだろう……じゃあな、また、会えたら会おうな……。」


「え……ッ!? ニコラス…ッ!? ジェシカ…ッ!? 待って……ッ!? 行かないで…ッ!?」


ニコラスとジェシカは名残惜しそうな顔をし、悲しそうな顔をしてピコを見納めると、顔つきを一気に強ばらせ仲間の悲鳴が聞こえた方へと駆け出し、行ってしまった。


「そんな……ッ。」


ぺたん…と座り込んだ愛梨にピコは駆け寄り身を寄せた。


「愛梨…仕方ないんだよ…僕はプレイヤー共に狩られる運命なんだ……ただ、愛梨に助けてもらったから、少しタイミングがズレただけなんだ…。」


「『ピコ』……どういう事なの……ッ? 私には何がなんだかさっぱり分からないよ……ッ!!」


愛梨はピコを抱き上げると泣きじゃくった。


「愛梨…僕達のために泣いてくれてるの…?」


「うわぁーーん……ッ!!」


「愛梨……愛梨とはもっと違う世界で会いたかったよ……違う世界があるのかどうかも分からないけど……愛梨みたいな良い人間に出会えて本当に良かった……『アリガト』ね…!」


ピコは目から涙を出し、喜んだ。



「こんな悲しい気持ち初めてだよ…愛梨と出会わなかったら、あんな嬉しくなる気持ちもこんな悲しくなる気持ちも押し殺したまま消えてくとこだったよ…。」


「『ピコ』……ッ。」


愛梨の腕の中で身体をブルブル震わせピコは大泣きした。



「怖いよ…ッ!! 悲しいよ…ッ!! 消えたくないよ…ッ!! 皆と一緒にいたいよ…ッ!! うわぁーーん…ッ!!」


愛梨はピコをぎゅっと強く抱きしめると、ピコを地面にそっと下ろし、立ち上がった。


「愛梨……愛梨の言葉で‘さよなら’は…なんて言うの…?」


愛梨はしゃがみ、ピコの頭にそっと手を置くと教えてあげた。


「『またね』…だよ…ッ!」


愛梨はそう言って外へと駆け出した。



「愛梨……『またね』……。」











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