イノタロス
よく見渡してみると小さな木造の家があちらこちらに何個か建っている。
「愛梨ー! 愛梨ー!」
何かが愛梨の名前を呼びながら飛びついてきた。
「うわぁ!! えッ!! ピコ…ッ!?」
「愛梨ー! 何でここにいるの?」
「え…ッ!? ピコ…喋れるの…ッ!?」
「え? 違うよ! 愛梨が喋ってるんだよ!」
「えッ?」
愛梨は自分で気がつかぬ間に日本語とは違う言語を話し、聞き取っていた。
「バジルさんが言ってたプレゼントって…この事だったのかな…。」
「愛梨…ッ!?」
家の中からニコラスが飛び出してきた。
「ニコラス…ッ!!」
「愛梨…ッ!! 何故戻ってきた…ッ!? そうか! 忘れ物を取りに来たのか…ッ?」
「忘れ物…? あ! 携帯ッ!!」
ニコラスは愛梨が着ていた制服を愛梨に手渡してやった。愛梨は制服から携帯を取り出し操作してみるが電池が無いらしく電源が入らない。
「ダメだあ…電池ないや…充電器カバンの中入れっぱなしだ…ッ。」
愛梨は携帯を制服にしまい戻しだ。
「愛梨! いつの間に私達の言語を話せるようになったんだ…!?」
「バジルさんという人に何かされたみたいで…いつの間にか話せたり聞き取れたりしてました!」
「そうか! よく分からないが良かった! 愛梨には礼を言わなければならなかったんだ! ありがとう! 本当に…ありがとう! 愛梨の言葉で言うなら……『アリガト』だな」
「ニコラス…私なんにもしてあげてないよ…? でも…私が教えてあげた日本語はちゃんと伝わってたんだね…!」
「愛梨は『ピコ』を助けてくれたんだ…! 覚えてないのか…? それにな…私達に『名前』をくれた…! すごく嬉しかったんだ…! 人間である愛梨が、名前なんて必要のない私達に名前をくれた…!」
「そ、そうだったの…!? 全然気がつかなかった…けど喜んでもらえてうれしいッ!! でも…名前がないなんておかしい…よね? 皆名前が無いの…?」
「私達モンスターと言われる者には名前なんか無い…つける必要もないのさ、どうせすぐプレイヤー共にやられるんだ…ただ、種族名はつけられてるみたいだ、プレイヤー共に出くわすと『イノタロス』と呼ばれる、仲間の皆も同じだ、だから私達は『イノタロス』という種族なのだろう…。」